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ジェネラル再び


 二人は決勝戦を前に、緊張した面持ちで選手控え室にいた。

 ヒロは軽いフットワークや深呼吸を繰り返していた。マリーは肩の傷の治療のためのメディカル・マシンを付けている。

 大会進行係が部屋に入ってきて、そろそろ準備をお願いしますと言った。


「またヒロとの決勝ね」

「そうだね。肩の傷は大丈夫かい?」

「これぐらい、ヒロには丁度いいハンデよ」

 マリーはメディカル・マシンを外して肩を回しながらヒロに言った。調子はよさそうだ。

 二人は一緒に選手控え室を出て競技会場に向かった。

 競技会場の入り口に入った途端、観客からの張り裂けんばかりの拍手が二人を包んだ。


「今回は一段とすごい歓声だね」

「そうね。頑張らなくっちゃ」

 ヒロとマリーは所定の開始位置についた。二人の視線があってお互いに礼をする。

 そして二人ともゆっくりと剣を抜き構えに入った。

 これまでの試合でも主審を務めてきた審判が、大きな声で「はじめ!」と言った。


「・・・忍法、真・曼珠沙華」

 マリーが開始の合図とともに全身に真っ赤なセンスをまとった。


「・・・忍法、青き竜」

 マリーが深紅のセンスをまとっているのに対し、ヒロは真っ青なセンスをまとった。

 センスの強さは双方互角。

 マリーのセンスはアンジェラ戦よりも勢いを増している。

 ヒロとマリーの表情はにこやかだ。とても決勝の試合をしているとは思えない。




「・・・ヒロ、ここにいたか」


 決勝戦が始まった頃、一台のスペースシップが惑星タウに近づいていた。

 スペースシップには、マスクマン、ジェネラル・マーティが乗っている。

 彼はサー・アトロスよりヒロ探索の命を受け惑星タウを調査していたが、試合の強力なユニバース・センスを敏感に感じ取り、ついにヒロの居場所を発見した。

 マーティはヒロのセンスに意識を集中し、その方向にスペースシップを飛ばした。

 船は高速で大気圏を抜けてタウの重力圏に侵入、ヒロ達のいる里に接近していた。


 試合場では、ヒロとマリーが戦っている。

 その時、ビューティだけはジェネラル・マーティのスペースシップを検知していた。

 高速で飛行する物体をスティングレイのレーダーが捕らえ、情報を送ってきたのだ。

 ビューティは、この飛行物体は明らかにサー・アトロスの手の物だと判断した。


 そして東の空からマーティのスペースシップが現れた。

 その飛行物体はみるみる近づいてきて、いきなり競技場目がけてビームを発射した。

「あぶない! ヒロ!」

 ビューティはすぐさま席を立ち、放たれたビームの軌道上にジャンプ。最高度のスフェア・バリアを展開した。

 ビューティの胸の中心部のエネルギーコアから目に見えるほどの粒子が溢れ出ている。

 ビューティは自分を盾にして、マーティの放ったビームが競技場に直撃するのを防いだ。

 ビームが消滅したあとビューティは競技場に降り立ち、次の攻撃に備えた。


 マーティの乗るスペースシップは競技場の上空に現れた。

 そこから人影が飛び出す。ジェネラル・マーティだ。

 マーティは空中から競技場にゆっくりと降り立つ。白いマスクに太陽が反射する。

 派手な装飾が施されたマスクは、マーティの目元を隠し、その表情をわかりにくくしていた。

 マーティは白のスペース・プロテクターをまとっていた。全身白づくめだ。

 背中には二本指しの刀、そしてマントを付けている。

 体格はヒロぐらいで、凶悪なうわさからは想像できない細身な体つきだった。


「ヒロ、ジェネラルよ!」

 ビューティは制服を脱ぎ捨てヒロに言った。

 ヒロは、NJプロテクターをインストレーションした。

 バックパックが光り、プロテクターがスティングレイの格納庫から転送されてきた。

 各パーツがヒロの体を包み込んでゆく。

 そしてヒロとマリーは競技用の刀を捨て、ドラゴンブレードとアマリリス正宗を構えた。

 観客はこの様子をを見てパニックに陥った。我先にと会場の出口に向かう。

 ハットリ老は急遽大会中止を宣言、観客と関係者に避難を求めた。


「・・・忍法、青き竜!」

「・・・忍法、真・曼珠沙華!」


 二人のユンバース・センスは頂点に達する。

「ヒロ、この日を待ちわびたぞ」

 ジェネラル・マーティの体が、白く、ゆらゆらと揺らめき立つ。

 マーティの溢んばかりのセンスが、周囲の大気を震えさせていた。

 マーティがセンスを開放させてゆく。ゆらゆらしていたセンスは弾ける勢いに変わった。

 茶色い髪も逆立ち、キラキラと白い光を放っている。

 すさまじい超感覚だ。圧倒的にヒロやマリーのセンスを凌駕している。


「覚悟!」

 マーティはまず、ビューティの懐に飛び込んだ。そして鉄拳を顔めがけて打ち込む。

 ビューティは身を翻し、逆にマーティに硬化サーメットによる必殺パンチを繰り出した。

 しかしマーティはパンチを片手でいなし、ビューティの腹に手の平で衝撃波を食らわせた。

 ビューティは会場の端から端に吹っ飛んだ。

 腹を押さえながら何とか立っているビューティ。体の表示がチラチラ乱れている。

 マーティは、背中の刀を抜き、術文を唱えた。


「・・・忍法、白銀河」


 ただでさえ長い刀が、純白の光りを放ちより巨大になった。もとの2倍ぐらいはある。

 ヒロとマリーは意を決して、渾身の力を込めマーティに斬り掛かった。

 マーティは二人の同時攻撃を、いとも簡単に大刀で受け強力なパワーで押し返す。

 ヒロとマリーは二人とも競技場の端に飛ばされ、ふらふらのビューティにぶつかった。

 三人がはじけ飛ぶ。


「くっ! 強い!」

 ヒロは思わず言った。

「あの、溢れるパワーは一体何?」

 マリーもおびえた表情で言う。小さく体が震えている。


「ヒロ、これで最後だ!」

 マーティは素早い動きで、競技場の端でうずくまるヒロに斬り掛かる。

 マーティの巨大な白い剣が、ヒロに振り下ろされた。


「ガキッ!」

 寸での所でヒロの前にビューティが飛び込み、クロスした腕でマーティの刀を受け止めた。

「ヒロ、マリー! 逃げて! 今のあなた達ではジェネラルには勝てない!」

 ビューティは二人に向かって叫んだ。


「おまえごときに何ができる?」

 ジェネラル・マーティはビューティを蹴り飛ばした。ビューティが客のいなくなった観客席にめり込んだ。それでもビューティはよろよろと立ち上がった。


「ヒロ達に手はださせないわ」

 ビューティはそう言うと、右手の指をマーティにかざしビームを発射した。

「ふん、こざかしい」

 マーティは手でビームをかき消した。


「ヒロ、マリー、今のうちに逃げなさい! 早く!」

 ビューティはそう言うと、両方の太ももに格納されたレーザー・ソードを取り出し、大きく広げてマーティの前に立ちはだかる。

 ビューティが、二本のレーザー・ソードで一気に切りかかった。

 マーティは素早く体を移動させ、それをかわしビューティに斬りつけた。ビューティも後ろにジャンプして攻撃をかわす。二人とも息を付かせぬ攻撃だ。


 ビューティは二本のレーザーソードをマーティに投げつけた。それと同時に体を光学迷彩で透明に変えた。

 マーティはレーザーソードを弾き飛ばしたが、ビューティを見失った。


「光学迷彩だと・・・。面白い事をする」

 ビューティは無音でマーティに近づく。

 マーティは剣を背中に戻し、両手をだらりと下げ目を閉じた。

 ビューティは気配を完全に消しさり、マーティの間合いに入っていった。

 そしてチャンスとばかりに光学迷彩のまま、マーティの喉を目がけて手刀を撃つ。

「ヒュン」

 空気を切り裂く音がしたかと思った時には、手刀はマーティの指につままれていた。

 ビューティの手刀はマーティの首のほんの近くにあった。

 マーティは手刀が空気を切る音を聴き、その距離と軌道を読んでいた。

 次の瞬間、マーティはもう片方の手にセンスを集中した。

 エネルギーがふつふつと集中する。マーティはそれをビューティの胸にお見舞いした。

 ビューティがまた吹っ飛んで、今度は校舎に激突した。


 ビューティはふらふらだったが何とか立ち上がる。

 ビューティの体は、マーティの放った衝撃弾により胸の部分が大きく凹み、黒く煤けてボロボロの状態だった。ウィッグもぼさぼさで縮れ毛になっている。

 光学迷彩のかかっていたビューティのボディは、ステレオグラム表示の機能が故障し、所々で素のサーメットが覗いていた。顔も半分しかうまく表示されていない。


「ビューティ!」

 ヒロが叫んだ。必死にヒロはマーティに飛びかかる。

 マリーもそれに続いた。

「ヒ、ヒロ、だめよ。に、逃げて・・・」

 ビューティが片膝をつき、力尽きてパタリと倒れた。


「うおー! よくもビューティを!」

 ヒロとマリーはドラゴンブレードとアマリリス正宗で同時攻撃を仕掛ける。

 しかしジェネラル・マーティは巧みにこれをかわす。


「いくぞ」

 マーティは再び背中の刀を抜いた。その刀を両手で持ち、ヒロとマリーに向かって剣先で真円を描く。そして術文を唱えた。


「・・・忍法、満月斬り」

 大地が震えだし、昼間にも関わらず空は暗闇に包まれた。

 そこにはヒロ、マリー、ジェネラル・マーティの三人しかいない。地面はなく空中に浮いているような感覚だ。


「これまでだ」

 マーティは全身が光の玉になった。そう、まるで暗闇の中に光り輝く月のようだ。

 マーティを包むまばゆい光りの固まりは、空高く飛び上がりヒロ目がけて急降下してくる。

 ヒロは球の光りが眩しくて目が開けられず避けるタイミングを逸してしまった。


「だめー!」

 マリーが体当たりをしてヒロを突き飛ばした。

 しかし、そのマリーの背中にマーティのレーザー・ソードが容赦なく振り下ろされる。


「マリー!」

 ヒロが叫んだ。そしてマリーに駆け寄る。

「大丈夫か?マリー。」

 マリーの背中は大量の血が溢れ相当の深手だ。早く手当をしないと命が危ない。

「く、きさま、よくもマリーを・・・。」

 ヒロの目が怒りに燃えている。

「次はお前の番だ」

 今のヒロでは力の差は明らかだ。マーティには勝てない。

 絶体絶命のヒロ。もうここまでかと思ったとき、彼が現れた。


「・・・忍法、解幻光」

 何者かが術文を唱えると、幻覚世界が解かれもとの昼間の忍術競技会の会場に戻った。

 そこには、さっきヒロの息子と言っていた、ジャスティンが立っていた。


「お父さん、マリーとビューティを連れて船へ」

 ゴンザとFR550が、スペースシップ・スティングレイを会場近くに運んできていた。

 ヒロはうなずき、マリーとビューティを抱えスティングレイに向かってシュと飛んだ。


「逃がすか」

 ヒロ達を追いかけようとするマーティの前に、ジャスティンが立ちふさがった。

「お前の相手は僕だ」

 なんと手にはドラゴンブレードを持っている。

 ヒロも持っているので、この場に二本もの伝説の剣がある事になる。

 ヒロはマリーとビューティを担いでスティングレイの後部ハッチに飛び込んだ。

 船はオンミツ地区を離脱、すぐにMDF航行に突入し、天空のかなたに飛び去った。

 機内ではメディカル・マシンによるマリーの緊急手術が開始された。


「ジャスティンは大丈夫だろうか・・・」

 ヒロはジャスティンの事を気にかけていた。真偽はともかく自分の息子と名乗った少年だ。

 競技場にはジェネラル・マーティとジャスティンの二人が残された。

「お前のような子供が私の相手とは・・」

「ヒロを逃がした代償は大きいぞ」

 ジェネラル・マーティは白いマスクの下で不敵に笑い、ジャスティンを睨みつけていた。

 すでに競技場の周りに人はなく、真っ青に晴れ渡った空が広がっていた。

 ハットリ老と何人かのメンバーが校舎の上でこの戦いを見守っていた。


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