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原作前に黒幕だと明かしたら、なぜかメインキャラが付き従ってきた  作者: 空野進


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第9話 父との訓練

 ティアが旅立ってからずいぶんと部屋が静かになった。

 いや、その考えが既におかしい。

 俺個人の部屋なのだから、本来は静かなもののはずだ。


 それがなぜかティアが入り浸るようになって、常に騒ぎ続けていたからそれが当たり前になりつつあった。

 最初は使用人達がティアの来訪を伝えてくれていたのだが、いつの間にか顔パスになっている。それどころか、コソコソ入ってくるティアを微笑ましく見守ってスルーするらしい。


 伯爵家の警備がそこまでザルでいいのか?


 結局一人だと手持ち無沙汰になり、庭で素振りをすることにした。

 黒幕である必要がなくなったため、それほど鍛える必要はないのだが、原作にはシオン(おれ)以外にも色んな問題がある。

 そもそもここは異世界で魔物もいるし、治安が悪い場所になると当たり前のように盗賊なんかがいる。


 最低限、自分を鍛えておくことはのちのち身を守ることにも繋がるのだ。


 スゥに見守られながら木剣を振るう。

 本当なら相手がいたほうが成長に繋がるのだが、スゥとは差が大きすぎて練習にならない。

 もちろんスゥが圧倒的に強い意味でだが。


 それでもだいぶ思った通りに体が動くようになってくる。

 すると珍しく父ノックスがやってきた。その手には木剣が握られている。



「精を出してるな」

「俺なんてまだまだ、ですから」

「どうだ? 俺と軽く練習試合でもしないか?」



 父はニヤリと微笑む。

 原作では、早々に退場してしまうためにその実力は未知数だが、辺境の危険な地を任されているのだ。相応の実力はあるのだろう。

 今後を考えるとどれほど力を持っているのか、確認しておくべきだ。



「わかりました。お相手お願いします」



 俺は剣を構えて父を見る。

 少しでも動きがあると即座に反応できるように。


 一方の父は肩に木剣を当てて、まるで構える様子はない。


 子供相手と油断しているのか、それとも――。

 それなら先制でその隙をついてやろう。


 そう思い、重心を落とし動こうとした瞬間に、父の体がブレる。



 目の錯覚?



 そう思った瞬間に、脳内に警鐘がなる。

 何かが飛んでくると思った方向に剣を向けると、その瞬間に木剣が割れ、先端が吹き飛ばされていた。



――っ!? 俺よりもはるかに強い!



 想像以上に強い父に驚きを隠しきれなかった。

 しかし、それは父も同じだったようだ。


 受け止められた木剣を見て楽しそうにしている。



「今のを受け止めるか……」

「まぐれですよ……」



 飛んでいった木剣の先を拾う。



「まぐれでも俺の一撃を防げる奴はそんなにいない。誇るといいぞ」



――いやいや、そんな一撃を実の息子にするなよ。



 苦笑を浮かべつつ、拾った木剣を魔力で覆う。

 つくづく俺も負けず嫌いなようだった。



「ほう、魔法も使うのか? 付け焼き刃でどうにかなるとでも?」

「それは試してみてから判断して下さい……よ」



 燃え上がった剣先はまるで銃弾のごとく、高速で父へ向けて飛んでいく。

 それを木剣でなんなく防ぐ父。


 ただ、ここまでは想像通り。

 俺はニヤリと微笑む。

 あくまでも飛ばした剣先はブラフ。

 本命を隠すために。


 俺の後ろにはいくつもの闇の玉が浮かび上がっている。

 原作でもシオンが得意としていた魔法だ。


 俺の実力がまだまだのせいで、数は多い物のそれぞれの威力は初級を抜け出した程度。


 それでも、父を驚かすには十分だった。



「行け!」



 不規則な動きで飛んでいく闇の玉。

 それを父は躱したり、剣で防ぐ。

 数十はあったはずの闇の玉は全てが消えてしまった。


 しかし、先ほどの父の実力からここまではやるだろうことは想定済み。


 闇の玉と同時に俺自身も動く。

 折れた木剣を構え、まっすぐ父の首を狙い……、その木剣すらも手刀で弾かれてしまう。



「参りました」

「今のはとんでもなかったな。一歩間違えたら俺が負けていた」

「そんなことないですよ。まだまだ修業不足でした」

「ここまでやるのなら問題ないな。よし……」



 俺の顔を見て、父は満足げに頷いていた。



「そろそろ私の仕事を一部任せよう」




◇ ◇ ◇




 父は辺境を治める伯爵だ。


 領地を治めるには色々な問題が出てくる。

 当然そこには戦闘に関することも。


 特にクロディア領の側には未開の地が多くあり、そこから魔物が溢れ出たりする。

 貴族によっては完全に配下の者に任せているものもいるが、父は自ら先頭に立って相手にしていた。


 あれだけの力を有しているのだ。

 魔物程度に遅れをとることはないだろう。


 俺はそんな父のあとを継ぐことになる。

 当然ながら魔物と戦うこともあるだろうから、どの程度出来るか確認したかったのかもしれない。



――仕事を任せて貰えるということは及第点を貰えたようだ。



 父の執務室へとやってくる。

 そこで父は領地の地図を広げていた。



――意外と広いんだよな、うちの領地。



 原作では既に滅んでいるので詳しくは知らなかったが、クロディア領はそれなりに広大な領地を持っている。

 辺境の重要拠点を任されているようだ。


 側には魔族の領地もあるし、未開の地も多い。

 山脈なんかには竜すら住むと言われている。


 この領内を見て回ろうとするとそれだけで相当の時間が掛かりそうだ。



――あれっ? 意外と大変か、貴族生活……。



 とはいえ、常に襲われているというわけでもなく、それぞれの町にも最低限の戦力は置いているらしい。

 どうしても、町だけで対処できないことが起こると、父が出ることになるようだ。


 真剣に地図を見ていた父が、とある場所を指差す。



「ここならどうだ? ほどほどの大きさで多少未開の地と接しているがすぐに危険はない。税収がやや少ない場所ではあるが、比較的安全に領主の仕事を学べるだろう」



 父が指差した場所を見て、俺は驚きを隠しきれなかった。


 グロリアの町。

 聖女ティアと黒幕シオンが再会した場所。

 そして、袂を分かち敵となった地。


 原作ではあくまでも町は滅んでおり、その中心に佇んでいたシオンと再会する、という形だったので微妙に違うが、それ以外は原作通り。


 もしかするとシオンがグロリアの町に行くことは、原作の強制力で決められているのかもしれない。


 いや、今の俺はティアと袂を分かつつもりはない。

 敵とならない以上、たまたまだろう。



――そういえば、あの地には裏組織が潜んでいたんだよな? 邪神を蘇らせようとしていたとか。



「あの、いきなり領地を任せてもらってもいいのですか?」

「何事も実践からでしか学べないことがあるからな」

「かしこまりました。誠心誠意、力を尽くさせていただきます」

「はははっ、そこまで堅苦しくならなくていい。失敗しても簡単に取り返せる場所だ。町ごと滅ぼすようなことがなかったらな」



 大笑いをする父だが、黒幕になったあとのシオンはいくつもの町を跡形もなく消している。

 あながち冗談にも聞こえず、俺は苦笑を浮かべるしか出来なかった。



「それとお前もいい年だ。そろそろ婚約者を決めたいがいいか?」



 この世界の貴族は12歳前後には婚約者を決めるのが通例である。

 俺の場合は破滅イベントがあったせいで、そちらまで気を回せずに断り続けていた。

 父もそんな俺に遠慮してずっと待ってくれていたようだ。


 ただ、さすがに15歳ともなると遅すぎる年齢になっているようで、その話題を出してきたのだろう。

 俺自身も断る理由もない。


 あまり現実感はないが、避けては通れない道のようだ。



「かしこまりました。ただ、相手の人柄を見てしっかり決めたいのですが」



 下手な相手と結ばれて、一生狭い肩身の思いはしたくない。

 そのためにどんな相手かは自分の目で見定めたかった。



「はははっ、安心しろ。侯爵お墨付きの相手だ」



 どうやら相手はしっかりとした家の子らしい。


 広大な領地を持つ伯爵家と釣り合いがとれる相手と考えると、父も探すのに苦労したのかもしれない。

 なにせ、本来の婚約の時期よりずいぶんと年上になってしまったのだから。

 だからこそ極力引き受けたかった。



「いつ頃顔見せする予定でしょうか?」

「もちろんこれからだ。領地を任せる件もあるからな。すぐに王都へ行くとしよう」



 即断即決。

 父は思い立った瞬間に俺を掴むとそのまま馬車へ乗り込むのだった。




◇ ◆ ◇




【ティア視点】

 王都へとたどり着いたティア達。

 ただその様子に首を傾げていた。



「なんか雰囲気が暗いね」

「えぇ、父が病気で伏しておりまして、それを良いことに貴族たちが暴れており、民達が疲弊してしまっているのです」



 大通りはもっと人が多いと思っていたのだが、疎らにしか歩いていない。

 更にちょっと路地に入ると貧困に喘いでいる人が物乞いをしているのも見受けられる。



「本当に闇ギルドを襲うだけでよろしいのでしょうか?」



 ミーリャが小声で呟く。



「おやびんが言うことに間違いないよ」

「確かにシオンくんが言ったことだから、悪いようにはならないと思うよ」

「それが私にはわからないのですけど。そもそも闇ギルドにも相当の人数がいますよね? 相手にできるのですか?」

「あははっ、私が出向くほどだからね」

「でも、総帥のシオンさんには来てもらえなかったのですよ?」

「組織の面々に指示を出すのは私の仕事なんだよ。うーん、そろそろかな?」



 ティアがにっこり微笑むと、次の瞬間に話があった酒場から火の手が上がる。



「始まったみたいだね。何が出てくるかな?」

「えっ? な、何かしたのですか?」

「うーん、何もしてないよ?」



 笑顔を浮かべるティア。

 彼女が言うと本当に何もしていないように聞こえる。



「全く、結社の人間を半数近く動かしておいてそれはないでしょ」

「元々ここには何もなかったんだから、何もしてないよ?」



 当たり前のように言いきると、そのまま今日泊まる屋敷へと向かうのだった――。

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