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原作前に黒幕だと明かしたら、なぜかメインキャラが付き従ってきた  作者: 空野進


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第2話 女幹部の聖女

 ティアは黒幕になることを非難するわけでもなく、当たり前のように言ってくる。

 そのあまりにもいつもと変わらない態度に思わず聞き返してしまう。



「……えっ? いいのか? でも――」

「それでどんな悪さをするの? おやびん」

「誰がおやびんだよ。それに悪さなんてするはずないだろ?」

「いししっ、わかってるよ、そのくらい。シオンくんはとっても優しいもんね」



 ティアは顔を近づけてくると屈託のない笑みを浮かべてくる。

 それだけでどこか救われた気がした。



「それよりもどうかな? 悪の女幹部。カッコよくない?」

「いやいや、お前は聖女だろ?」

「悪の聖女? ふーん、なんだかエッチだね。シオンくんはそういうのが好きなの?」

「そ、そんなわけないだろ!?」

「どうだろうねー?」



 嬉しそうに笑みをこぼすティアに、俺は次第に本調子を取り戻していく。



「もう女幹部でいいんじゃないか? 聖女をつけると正体がバレるんだし、あんまりそういうの、よくないんだろ?」

「うん、そうするよ。やっぱりシオンくんは優しいね」

「そもそもお前は聖女だろ? なんで黒幕(おれ)側に来ようとしてるんだよ!?」

「だって、黒幕(シオン)くんと戦うなんて嫌だもん」



 ぷいっと顔を背けて頬を膨らませる。

 怒っていることを精一杯表しているみたいだが、かわいさの方が勝っている。


 こうなってしまうとまともに話を聞いてもらえない。

 むしろさっきまで敵対することを考えていた自分が馬鹿らしくすら思えてくる。

 俺はため息を吐く。



「わかった、ティアは女幹部だな」

「うん! シオンくんならそう言ってくれると思ったよ」



 すぐに機嫌を直して抱きついてくる。



「でもそっか、黒幕か。それなら服とかは黒に統一した方がいいのかな? シオンくん、似合いそうだよね」



 小声で変なことを言い出し始めているのは一旦気にしないことにする。



「それよりも協力して欲しいことがある」

「世界を滅ぼすんだね。任せて!」



 世界を守る聖女であるはずの彼女がすごく物騒なことを言い出していた――。



「……いや、違う。悪いことはしないと言っただろう?」

「そっか。悪いこと(・・・・)はしない、正義の黒幕だもんね」



 ティアが聞き返すように同じ言葉を告げる。

 黒幕が正義なんてもはや訳がわからない。


 いや、原作を知っている俺なら破滅ルートを回避しつつ、敵の存在を気付かれずに倒す。


 悪を倒す悪、という選択肢もとれるのではないだろうか?

 それはある意味、正義側を手助けする黒幕とも言えるだろう。


 特に相手は国に強く根付いた貴族。

 正当法では倒すことなんてできないのだから。



「でも、それだと何を手伝って欲しいの?」

「……俺の家族に手を出そうとしている奴がいる」

「うん、もちろん協力するよ」



 ティアはにっこりと微笑む。



「悪い人は衛兵に突きつけたら良いんだね」

「……いや、そういうのができない相手だ」



 俺が顔を伏せるとティアはおおよその事情を把握してくれる。



「そっか。そういう人がいるから黒幕なんだね……」

「……すまん」

「ううん、私たちも中々手を出せない人だったからちょうどいいよ」



 笑顔を見せたティアは殴る仕草をしていた。



「つまりその人をやっちゃえばいいんだね」

「あのな、俺たちだけで戦って勝てると思ってるのか?」



 相手は多数の使用人がいる中、俺の家族を惨殺した暗殺者。

 まともに戦って勝てる相手じゃない。


 そもそも俺の力は同世代よりすこし上程度。

 ティアは回復職だけあって戦闘は苦手だ。

 戦力で考えるならかなり乏しい。


 戦うことはまず入れてはいけない選択肢だった。



「確かに私たちだけじゃ難しそうだね。おやびんと女幹部だけだもんね。部下が必要だよ」

「……いつまで言い続けるんだ? その設定」

「設定じゃないよ!? だからいつまでも言い続けるからね」

「それならせめておやびんじゃなくて総帥とかそういうのにしてくれ。おやびんだと三下っぽくてあっさり倒されそうだ」

「おやびん総帥?」

「おやびんはいらない」

「……かわいいのに」



 ティアは残念そうだった。

 せっかく協力してくれるんだ。ある程度そういった設定には乗ってあげるのも優しさだろう。おやびんはないが……。



「まぁ、正体を隠したいときとかにはその呼び方をした方がいいかもな」

「そうだよね! 私もそう思ってたんだよ」

「ただ、人前ではやめてくれ。あくまでも正体を隠すときだけだ」

「もちろん!」



 嬉しそうに笑顔を見せるティア。



「それじゃあ、私だけでは動かないようにするね」

「そうしてくれ。ティアに何かあったら俺も悲しいからな」



 それを聞いたティアは顔を真っ赤に染めていた。

 そんな彼女の姿を見ていると、黒幕として動く前に彼女に正体を明かしてよかったと思えるのだった。


 まさかティアが速攻行動に移すなんて気づかずに。




◇ ◇ ◇




 ティアと別れた後、俺はクロディア邸へと戻ってきた。

 出て行く時より随分と顔色は良くなっており、心も随分と落ち着いている。



「ちょっと思ってた方向とは違うけど、ティアの協力を得られたのは大きいな。あとは黒幕らしい動きをするだけで――」



 ここは原作知識の使いどころだ。

 原作だと裏組織絡みの話もいくつか出ている。

 そのどれかと接触すれば黒幕としての名を上げることにも繋がるだろう。


 そうなると暗殺者やその背後にいる貴族は動きにくくなるはず。

 そこを解決できたら問題となるのは勇者パーティだけ。

 ティアが協力してくれているし、黒幕であることがバレなければ、仲をとり持ってもらえるだろう。



 想像以上に疲れが溜まっていたらしい。

 考え事をしているうちに自然と瞼が重たくなり、そのまま俺は眠りについてしまうのだった――。




◇ ◆ ◇




【ティア視点】

――二人じゃダメってことはもっと人を集めて欲しいってことだもんね。シオンくんだけではダメだからもっとたくさん……。うん、聞いてみよっ。



 ティアはシオンの指示通り、早速人員を集め始めていた。

 もちろんそれは全くの誤解だが。



「シオンくん、喜んでくれるかな?」



 思わず笑みがこぼれてしまう。

 ただ、ティアも決して交友関係は広いわけではない。


 同じ街に住むシオンを除けば同じ神託を受けた面々くらいしか、同世代の知り合いはいない。

 そんな中ですぐに来てくれそうな相手は、勇者パーティの面々だった。



「あっ、正体を隠さないといけないんだよね? 何が良いかな? やっぱり下っ端がほしいもんね」



 にっこりと微笑むティア。


 到着したばかりの相手は突然別の名前で呼ばれ出して困惑するのだった。




◇ ◆ ◇




 いつの間にか眠ってしまったようだ。

 机で寝たせいで痛む身体を伸びで和らげたあと、俺は辺りを警戒する。


 暗殺者が使用人の誰かである可能性が一番高い。俺自身は原作だと襲われないが、何が起こるかわからない。

 警戒してもしすぎということはないだろう。


 そんな時、部屋の扉がノックされる。



「シオン様、お客様がいらしました」

「誰がきた?」

「ティア様にございます。なんでも紹介したいお方がいるそうで、もうお一人の方とお待ちです」

「わかった、すぐに行く」



 ティアが紹介したい相手なんて誰だろうか?



 不思議に思いながら俺は着替えを済ませ、すぐに客間へと向かうのだった。

 しかし、客間の扉を開けた瞬間に俺は動きが固まってしまう。


 そこにいたのは俺は宿敵だった。



――ど、どうしてここに勇者がいるんだ!?



 主人公のメイン操作キャラ。

 男女選べるのがこの作品の強みだが、ゲームと現実の整合性を取ろうとした結果なのだろうか。

 見た目が中性的で性別不詳という容姿になっていた。


 肩くらいに切り揃えられた茶色い髪と優しげな瞳。

 背丈は俺よりは低いが、ティアよりは高い。


 ただそんなことは関係ない。

 相手は勇者。

 黒幕であるシオンの宿敵だ。


 いきなりこの場所に乗り込んでくるなんて……。いや、仲間を救うためか。


 なにせ、聖女ティアも勇者パーティの一員。

 そんな彼女が黒幕に誑かされてると知れば、勇者が襲ってくることはもはや必然。


 まだ原作が始まる前だからそこまで力はないだろうが、それは俺も同じこと。

 むしろ、黒幕の俺よりも戦闘面に特化している。


 まともにやりあえば負けるだろう。



――な、何か武器は……?



 周りを探るが残念ながら客間にそういったものは置かれていない。

 逃げ場は背後にある扉。



――逃げるか? いや、すぐに追いつかれるだけだ。万事休すか……。



 勇者と黒幕は敵対するもの。

 原作開始前とはいえ、正体を明かすべきではなかった……。



「シオンくん、座らないの?」

「あ、あぁ、そうだな……」



 促されるまま向かい合う形でソファーに座る。

 すると、ティアは笑顔を見せながら言ってくる。



「おやびん総帥、仲間を連れてきたよ!」

「あ、あぁ、わかってる。そいつらはゆう……」

「戦闘員Aちゃんだよ」



 自信たっぷりに言いきるティア。

 俺はゆっくりとした動きで勇者の顔を見る。



「……すまん、もう一度教えてもらっても良いか?」

「だから戦闘員Aちゃんだよ? 私たちの仲間になってくれたの」



 俺はティアと勇者の顔を見比べる。



――勇者が黒幕(おれたち)の仲間に?



 とてもじゃないが、その言葉を信じることができず、直接勇者に問いかける。



「本気か?」

「ぼ、ボクに聞かないでよ……。困ってる人を助けようとしただけなのに」



 勇者は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら俯いていた。

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