第11話 婚約と領地
翌日、俺は服装を整えて、レイニング侯爵の館へと出向いていた。
原作開始時点では既にティアは養子としてレイニング侯爵の娘となっている。
そして、この世界でもそれは同様だった。
聖女という立場を考えると至極当然であるし、すでにそのことはティアから教えて貰っている。
――まさかこんな風に繋がってくるとは……。
シオンが黒幕になっている場合は、ティアに婚約者はできず、メインヒロインとして、アルと同行する。
そして、彼女のルートに入ると結ばれるのだ。
ただ、シオンが黒幕化しないことで、ティアは旅立ちにあまり積極的と言えなくなっていた。
あまりにも一緒に行動しようとしてくるから、俺自身が黒幕とならないように見張っているのかもしれない。
仲の良い幼なじみとして。
ただ、そうなると問題になってくるのは婚約者のことだった。
ティアを養子にしたのも聖女という肩書きを使い、より良い相手と縁を結ぼうという思惑からだろう。
いつまでもティアのわがままが通じるとも思えない
いや、そのわがままを解決する方法として、俺との婚約話が上がったと考えると自然かもしれない。
ある意味、この婚約話は必然とも言えるものだった。
――俺がメインヒロインと婚約して良いのだろうか? いや、もしかしたらレイニング侯爵に別の子供がいるのかもしれない。まずは会ってから、だな。
そう思っていたのだが――。
「やっほー、シオンくん。待ってたよー」
「…………」
レイニング侯爵の応接間に通された俺たち。その前にいたのはティアだった。
いつもとは違い、着飾っているものの性格はそのままで、笑顔を見せて手を振っている。
その様子に俺は言葉を詰まらせる。
ティアの隣に座っているレイニング侯爵は額に手を当てていた。
「ここは公の場だ。せめてもう少しちゃんとした言葉使いをしなさい」
「はーい」
わかってるのかわかっていないのか、曖昧な返事をするティア
こういう堅苦しい場だとしても彼女は彼女のままだった。
「驚いたか? あのティアちゃんがレイニング侯爵の養子になったんだ」
「いえ、それは本人から聞いておりましたが――」
「そうなのか? レイニング侯爵と意見があって、誰にも言わずに内々に進めた話なんだけどな」
父はレイニング侯爵に視線を向ける。
レイニング侯爵も首を傾げており、ティアを向くが彼女は笑顔を見せたまま何も言わなかった。
「まぁ、何度か顔合わせもしていたし、話が出たのは最近でも薄々察していたのだろうな」
「でも、まさか婚約の話が出ているとは思いませんでした」
「私としてはぜひクロディア伯爵と縁を結びたかったんだよ。ですが、ちょうどいい歳の子がいなくてね。凄く年上か、まだ喋れないような小さい子しかいないから」
それは……さすがに対象外になるな。
俺は苦笑を浮かべると、わかっているといったようにレイニング侯爵も頷く。
「更に絶対にこの話は私としては絶対に成功させたいものだったからね。そこで、無理を承知してクロディア伯爵に養子でもいいかという話を持って行ったんだよ。そこで――」
「ティアちゃんを紹介したんだ。お前とは一番親しいのが彼女だったからね」
「確かにティアとは幼なじみでずっと一緒にいましたけど、彼女が断るとは思わなかったのですが?」
「もちろん事前にティアちゃんにも確認済みだ。二つ返事で承諾してもらったよ」
俺は慌ててティアを見る。
彼女はイタズラが成功したと舌を出していた。
どうやら俺以外は既に承諾しているようだ。
そうなるとわざわざ断る理由もない。
本当に強制させていないのか確認するためにティアへ視線を送る。
その様子を見ていたレイニング侯爵は微笑ましそうだった。
「どうやら問題なさそうだね」
「はい」
「これからもよろしくね、シオンくん!」
飛びついてくるティアを受け止める。
「あははっ、本当に仲がいいんだね」
「うんっ!」
頬ずりをしてくるティアをなんとか引き離そうとする。
その様子を見ていた二人の親は再び笑い声を上げていた。
◇ ◇ ◇
必要な事を話し終えると、二人の親交を深めるようにとあとに残される。
とはいえ、ティアとは普段からよく二人でいるために、今更わざわざ話すようなことはなかった。
ただ、先ほどまで普段通りだったはずのティアだが、二人になった瞬間にしおらしくなり、大人しく俺の隣に座っていた。
「どうした? 今更話すことがないといえばそうだが……」
「あのね、シオンくん、本当に私でよかったの? 嫌ならお義父さんを説得するからね」
どうやら本当に自分と婚約してよかったのか不安に思ったようだ。
よく見ると身体を震わせている。
先ほどの態度は空元気だったのかもしれない。
だからこそ、俺はそっと肩を抱き、頭を撫でる。
「今更だろ? 俺の秘密を教えたのはティアだけだからな。ティア以外考えられないぞ」
「あっ……。そっか、そうだったね」
ティアは驚いた様子で顔を上げていた。
そして、俺の顔を見て目を拭っていた。
「それにどちらかといえば聞きたかったのは俺の方だぞ? 本当に俺でよかったのか?」
「私も同じだよ。シオンくん以外考えられないよ。だって、ずっと一緒だったんだよ」
ティアはようやく笑顔になる。
「私はずっとシオンくんのこと、好きだもん。大歓迎だよ」
「そうか。そう言ってもらえるとありがたいな」
「いししっ、もっと喜んでくれて良いんだよ、おやびん。あいたっ」
照れ隠しか、調子に乗り始めるティアのおでこにデコピンをしておく。
あまり強くしていないのだが、ティアはおでこを撫でていた。
「おやびんじゃないって言ってるだろ?」
「わかってるよ。聞かれたら大変なことになるんだもんね」
本当にわかっているのか怪しい。
ただ、メインキャラのティアと婚約者になった以上、もう勇者による破滅はないとみてよさそうだ。
「そういえば、住むところなんだが――」
「グロリアの町の領主になったんだよね?」
どうにもティアはかなり情報に通じているようだ。
養子の話も本決まりする前に俺に話してくれていたようだ。
俺自身は転生したおかげで知っていたが……。
まさかティアも?
いや、それなら真の黒幕である俺にこんなに親しくしてくれるはずがない。
単に情報に通じているだけなのだろう。
そもそも貴族ならそれも当たり前だ。
情報の有無が生死を分かつときもあるのだから。
「もう知っていたのか?」
「これでも侯爵家の娘だよ? そういった情報は入ってくるんだよ」
どうやら抱えている情報網については教えてくれないらしい。
「お前はどうする? 一緒に来るか? それとも――」
「もちろん一緒に行くよ。だって私たち、もう婚約してるんだもんね」
「あくまでも婚約だから無理をする必要はないぞ?」
「私が行きたいんだよ」
「……危険な場所かもしれないが、いいんだな?」
「あははっ、礼儀作法とかさせられるより全然マシだよ!」
テーブルに突っ伏すティア。
「確かに貴族の娘っぽくはないよな」
「あっ、シオンくんまでそんなこというの!? どうせ私は礼儀に疎いよ」
「ティアらしいって意味だよ。俺もその方が気負わなくて良いから助かる」
「いししっ、そうだよね。うん、やっぱりシオンくんと一緒にいるのが私にとってもいいよ」
どうやらよっぽど礼儀作法の授業が嫌だったらしい。
ただ、気になるのは原作のティアは聖女らしくお淑やかで、礼儀作法もしっかりしていた。
もしかすると、無理やり正された結果なのかもしれない。
そう考えると、今のティアの方がよほど自然体なのだろう。
俺はだらしない格好のまま、おやつを食べるティアを見て、苦笑を浮かべていた。
◇ ◇ ◇
王都でやるべき事を終えた俺たちはそのまま領地であるグロリアへと向かうことになった。
「必要なものは全て揃えておいたからな」
父がにっこり微笑んで俺たちを見送ってくれる。
父はまだ王都ですることがあるらしく、帰りは俺とティアとスゥだけだった。
――ティア達のことを考えても早々に闇組織を追い払う必要があるな。
滅んでいる町並みしか知らないから、王都で闇ギルドの場所をミーリャに教えたみたいなことはできない。
ただ、土地勘さえ掴めたらある程度隠れている場所を特定することはできるだろう。
ずっと住むことを考えたら、危険はなるべく早めに排除しておきたい。
そう思っていたのだが――。
「よ、ようこそ、グロリアの町へ」
「……何をやっているんだ、アル?」
領地へ着いた瞬間になぜか領民に扮した勇者アルに出迎えられるのだった。
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