白い部屋
「ここはどこだ....」
気がつくと、そこは見知らぬ部屋だった。真っ白な部屋にドアとテレビが一つだけ、あとは何もない。ゆっくり今の状況を確認する、やけに落ち着いている自分が不思議だ。真っ先に思い浮かんだのは、この部屋には一体どうやって来たのか?それを考えると同時に頭に痛みが走る。痛みがさらに自分を冷静にさせる....
昨日の夜会社の同僚と酒を嗜み家路に着きエレベーターに乗る。四階に着き自分の家のドアに手をかけたときから記憶がない。どんなに思い出しても自らの足で、この見知らぬ部屋に赴いたとは考えられない。頭の痛みから察するに、後ろから誰かに襲われこの部屋に連れてこられたに違いない。いったい何の目的で?
「くっ、ダメだ!開かない!」
部屋にあるドアを開けようとするがもちろん開かない、他の脱出方法を模索するが何もないこの部屋から出る術が無いことはすぐに分かった。簡単に脱出ができないのを理解した瞬間を分かったかのようにテレビの画面がついた。そこには見たことの無い女性が映っていた。画面の中にいる見知らぬ女性は白衣を着ている、医者だろうか?だとするとここは病院?もしくは研究所か何かか?少ない情報を元に、ここがどういった場所なのか模索した。すると女性が口を開く。
「目が覚めた?あなたには少しの間実験につきあってもらうわ。」
「ふざけるな!早くここから出してくれ!!」
「安心して、実験が済めばちゃんと家に返してあげるから。」
プツン
テレビの画面が消えたと同時にドアが開く、白衣を着た男が数人入ってくる。見た目でわかる、力でかなうはずがない。
「やめろ!離してくれ!う゛わぁ゛あぁあ゛!!」
生まれて初めて自分の命を危険に晒され、それを守ろうとする時だった。とても悲鳴なんてものとは言えない、もっと恐ろしい声がでた。全身から汗が吹き出し、鼻水、涙が止まらない、嘔吐もした、僕はどうなるんだ。
男達も力づくで運ぼうと思えば運べたのだろうが、面倒だったのだろう、マスクを僕に被せた。マスクの中で呼吸をしている内に意識が遠のいていく。
「(あぁ、これで僕の人生も終わりか、あっけなかったな....)」
ジリリリリリリリ
「う....ん...」
部屋に不快な音が響き渡る、目覚ましだ。寝起きこそ不愉快だったが、目が覚めてしまえば心地よい朝に変わった。がすぐ異変に気付く。
「はっ!!夢...だったのか?それにこの部屋は僕の部屋じゃない..」
異変は続く、夢であろうその「記憶」は気持ち悪いくらいに鮮明に覚えているがそれ以前のことが思い出せない。正確には一週間くらい前の記憶からどんどん曖昧になっている、どういうことだ....
一体なんなんだ、もし夢であるならば時間はまったく経っていないだろう、そう思いポストの新聞を取りに向かう。まるでこの部屋の構造を知っていたかのような足取りで迷わず玄関のポストに着いた。
「11月4日...なんだ、やっぱり夢か...」
同僚と飲んで帰宅したのが3日の夜だったのでいつもどうりの朝を迎えたかのように見えた。が、ある数字を見て目を疑った。
「200...9年!?嘘だろ!一年経ってる!!」
頭がおかしくなる、「夢」が「現実」なら一年間、あいつ等の実験にされていたのか...しかしこうして無事生きている。
「少し落ち着こう、死んだ訳じゃないんだ。」
そう言い聞かせ、顔を洗いに洗面所へ向かう、繰り返すがこの部屋は最初こそ初めて来た感じがしたが今ではまるで何年も住んでいる感じがする、気味が悪い。迷わず洗面所につく。そこで鏡をみて驚愕した。
「ぼ、僕の顔じゃない....」