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『いつも誰かに見られている』—不道徳男が招いたサイコマザーと霊花の呪い—  作者: 説人


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8/8

◆最終章・霊花の少年◇


 強風を受けて布団から顔を出すと窓が開いてカーテンがバタバタと激しく揺れていた。


 窓の前に身体を横にして立つ少年がいた。


(誰だよ?おかしいだろ)


 小学一年生くらいの背丈の少年が、重そうに頭を地面に傾けて床を見つめていた。

 足元に落ちているスノードロップと少年の片足が繋がり、少年が萎れた花先から生えているようだった。


 首が長くて頭を支えられないように垂れている。

 まさにスノードロップのようで、生気のない異様な雰囲気だった。


 少年の背後には背丈ほどの大きなスノードロップが生えて、少年との間に霊体のようなもう一人の少年の上半身が浮き上がっていた。


 まるでスノードロップと少年が融合した幽霊。


 それは美しくもこの世の存在ではなかった。


「ボク、ずっと見てたんだよ。ゴミ、捨てちゃダメって聞こえなかった?」


 谷道は目の前の光景を受け入れられず、子供が何を言っているか理解できないまま、恐怖で胸の早鐘を打った。


 子供は一点を見つめたまま、顔の動きだけで視線をゆっくりと谷道に移動させた。黒目が固まって動いていない視線が迫った。


 やがて動かない黒目と怯え切った目が合い、少年が言った。


「おじさん、ベランダから落ちたら死んじゃうよ?」


「は?」


 思考停止――震えが止まらなかった。


 背後で扉が開く音がした。バタンと地味な音が鳴り、ベッドがなんの意味もなかったことが嫌でも分かった。


 風の抜け道ができて突風が部屋に流れ込んだ。


 谷道は何もできぬまま、ただ怯えていた。


 強い風が窓へ抜ける。


 室内の何かが倒れる音がした。


 子供が笑った気がした。


 わずかに開いただけの扉が閉まり、風がやんだ。少年がスゥッと右手を顔の辺りまで上げると、玄関から、カチャリ……と、チェーンが外れる音がした。


 バタン。


「母さん、チェーン外したよ」


 谷道はその言葉に目を見開いて、さらなる絶望の淵へ落とされた。


 『ひゅう』という窓からの風の音が聞こえ、カーテンがバタバタと激しく揺れていた。

 その風と共にスノードロップが部屋中に咲いた。


 壁にも、天井にも咲いていた。


「な、なんだこれ」


 少年は谷道を見つめて、じっと動かなかったが、急に背後に視線を動かしてニコッと笑って言った。


「母さん、お帰りなさい」


 振り向くと女が立って谷道を見下していた。


「ひいっ」


 背筋が伸びて身体が後ろに傾いた。


 女は手に持った袋から剪定用のノコギリを取り出して言った。


「おいあんた、みんなに迷惑だろ」


 谷道は振り下ろされたノコギリを寸前で躱したが、一撃では止まらなかった。女は不気味に同じセリフを棒読みで繰り返した。


「おいあんた、みんなに迷惑だろ」


 ノコギリが横に振られる。谷道は身を後ろに倒すように躱した。運が良かっただけ。谷道はそう何度も自分の身体能力でノコギリを躱せるとは思えなかった。


「おいあんた、みんなに迷惑だろ」


 女は今度はノコギリを縦に振り下ろした。


 谷道は女の一撃を躱したつもりで、身体を翻してベランダに逃げ込んだ。


 背中にギリギリまで迫ったノコギリの刃が谷道の上着を切り裂いた。


 振り向くとスノードロップが咲く中をゆっくりと歩いて女と子供が近づいてくる。


 逃げ場がなく、手すりに背をもたれ掛けて戦慄する。


 ベランダの下を何度も見て、その高さから逃げられない焦りが募る。


 前からは親子が迫る。


 谷道は追い詰められて、十階の高さを嫌というほど確認した。茂みを見て、自分の過去の悪行が脳裏に走馬灯のようによぎった。


 そして、その眼下の景色に違和感が走る。


 茂みからもの凄いスピードで何かが競り上がってくるのが見えた。それは瞬く間に谷道の目の前でぴたりと止まった。


 谷道は目の前に現れた存在と目が合った。

 驚きながら視線を流して、部屋にいる親子を確認した。


「これ、数の暴力エグいよ……」


 少年に続き、脅威が増えた——見覚えのある女だった。女の首元にはネクタイで締め付けられた跡がありありと浮き出ていた。


 谷道はそれを見て、反射的に身体をさらに後退させた。


 部屋からは親子がジリジリと迫ってくる。


 目の前にいる若い女性は、何も言わずに谷道を見つめていた。


 谷道は堪らずに身をひいた。その瞬間、身体を支えていた後ろ手を滑らせた。


 谷道はバランスを崩し、十階のベランダから真下の公園の茂みに一直線に落下した。


(やっちまった)


『間抜けの『ま』だ』


 谷道は茂みに落ち、顔面が地面に着いた瞬間、土に染みついた小便の匂いを、人生最後の呼吸で一瞬で思いきり吸い上げた。


 目の前には捨てられた熊昇天のパックが横たわり、漏れた酒の匂いが鼻腔まで漂う。


 頭が割れて流れ出た血が、その酒と土に染みた小便と混じり、臭い匂いが芬々(ふんぷん)としていた。


 死の直前に谷道がこの世で最後に嗅いだ悪臭の塊だった。


 谷道は絶命した。



 ◆エピローグ・スノードロップ◇


 翌日もゴミは投げ込まれた。何度捨てても新しいゴミが翌日にはあった。


 遠くからそれを見ている女と子供がいた。


 エレベーターホールの掲示板には、十階、一〇〇二号室が空室となり、住人を募集する張り紙があった。


 公園の茂みには看板が立てられていた。


『ここにゴミを捨てないで下さい』


 もう『熊昇天』はそこに一つもなかった。


 茂みでは、養分を得たように、新しい白い蕾がこうべを垂れていた。


 風が吹き、そよそよとスノードロップが仲が良さそうに揺れていた。


  ――〈了〉



※この画像は著者が生成AIで作成した本作のイメージ画像です。

挿絵(By みてみん)

最後まで読んでいただきありがとうございました。


本作は二話ずつの公開でした。


本作はこれで完結となります。


(全8話、完結まで予約投稿済みでした)


少しでも面白かったと思っていただけたら、下にある

【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると嬉しいです。


また、感想を頂けたら喜んで熟読します。

ぜひ、感想の投稿をよろしくお願いします。


この度は貴重な時間を使って読んで頂き、ありがとうございました。

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