◆歪んだ正義と黒い欲望◇
谷道は駅を出て、そのままコンビニへ寄り、買い物を済ませて自宅近くの公園のベンチに腰を下ろした。
パックの日本酒を取り出してストローで啜り、ホットスナックを頬張りながらスマホをいじっていた。
ゴミを捨てようとしたが、ゴミ箱が見当たらない。
いつの間にか公園のゴミ箱は撤去され、注意書きが立てかけられ、『ゴミは持ち帰りましょう』と書いてあった。
谷道は淡々と食べ終えて出たゴミを手に、その注意に呆れていた。
(ゴミ箱を置かないっておかしいだろ。このゴミはどうなる?最近のバカどもはそんな簡単なことも分からないのか?ゴミ箱がなかったらポイ捨てが増える。街が汚れる。簡単な話だろ。なんで分からないんだ?)
「俺が最近のバカどもに教えてやるよ。これは『正義のポイ捨て』だ」
谷道は自分が出したゴミを茂みに投げ込んだ。
ここまでが日課となっていた。
急に、低い位置から見られている気配がして、周囲を見渡すが誰もいなかった。
よく見ると茂みには写真立てと花束、お供え物があった。写真には小学生くらいの背丈の少年が写っていた。
谷道は写真立てを手に取った。裏返して板を外すと、もう一枚、少年と女性が手を繋いだ写真が出てきた。
ホームドアの女に酷似していた。
「親子か?」
谷道は妙に腹が立ち、中の写真を二枚とも破いて宙に撒いた。
「俺の憩いの場所で勝手に死んでんじゃねーよ」
そして立ち上がって写真立てに痰を吐き捨てた。
茂みの状況など、どうでもよかった。
谷道が歩き始めると、冷たい風が吹いて闇に流れた。
谷道は自身の不穏な衝動を感じていた。
数日前に護身用の緑のレーザーが出るペンをどこかに落としたことを思い出して惜しんだ。ダークウェブで買った、お気に入りのレーザーだった。再度購入しようとしたが、そのページには二度とアクセスできなかった。
程よく酔いが回り、千鳥足になっていた。帰宅途中であろう若い女とすれ違い、しばらく歩いてから振り返った。
谷道の人生では見たこともないような美女だった。
自分が住む近辺に芸能人のような顔立ちの女性が急に現れて、興奮が抑えられなかった。
若い女が茂みの前を通り過ぎようとしていた。
「あのペンがなくたって……」
谷道は首元に手をやり、ネクタイを緩めた……。
谷道は若い女の背後から足音もなく忍び寄った。近づきながら自分の首からネクタイを流れるように紐解いて両手で握り、十分に近づいた。
そして……。
時が経ち、周囲を見回して、誰にも見られていないか確認した。
気のせいか、鋭い視線を感じて後ろを振り返ったが、誰もいなかった。
駅で見たホームドアの女の突き刺すような視線に似ていて強く不快に感じていた。
やがて谷道はため息を吐いて、その場を後にした。
翌日のニュースで公園内で事件が起きた報道がされたが、谷道は朝の通勤電車で座席に座り、スマートフォンでアニメを見ていた。車内の雰囲気とはかけ離れた声優の甲高い声が大きな音で漏れていた。
正しく接続されていないイヤホンは単なる耳栓と化していた。
谷道はニヤニヤと画面を見つめて笑顔を浮かべている。
いつもの出社風景が、電車の窓の外を流れていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
一話、二話同時公開でした。
続きは明日22時に更新します。
(全8話、完結まで予約投稿済みです)
面白かった、続きが気になると思っていただけたら、
下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると嬉しいです!




