第六話
出陣の朝。先ほど日が昇ったばかりの山形城、門前広場。
「蔵増光忠である! 皆の者、此度は細川、小国城へ攻め入る戦! 早朝からよく集まってくれた! まずは礼を申す! 我らは――」
兵、三五〇〇の前で檄を飛ばす総大将、光忠。
まだ若いながら緊張した様子もなく、堂々とした姿勢と大きく通る声が、人の上に立つ武将としての力と才覚を感じさせる。
「おいおい、マジかよ。光忠いいじゃん! 先日なんてワシの弄りにオロオロしてたのになっ! まだまだ子供だとばっかり思ってたけどさー、成長すんの早くねぇー!?」
集まった軍の後方に並び、顔を汚しボロを着た馬丁に扮した最上義光と氏家守棟。それと二人が引く馬にまたがる、徒侍の格好をした伊達家の三人。
「との……じゃなかった。義っ! 総大将が演説してる最中にお喋りするでねぇって言ってるべ!」
なかなか馬丁になり切れていない守棟が諫めるも、全く落ち着く様子がない義光、改め義。
「さてはよっちゃんアレだねー。遠足前に結局寝れなくてめっちゃテンション変に高くなるやつ! ってか、昨日ちゃんと眠れた?」
突っ込む輝宗に「よくぞ聞いてくれました」とばかりに人差し指で「ソレなっ!」と反応する義光。聞いてもいないのに理由を話し始める。
「だってさぁー、めっちゃ久しぶりに甥っ子に会った訳じゃん? したらテンション上がるじゃん? 寝るの勿体ねーってなってなぁー。政宗と最新の南蛮渡来『天正カルタ』で遊んでたって訳よー。いやー若いってのは末恐ろしいねー、気が付いたらもう朝方でさー。ってか、政宗がこれまた強いのなんのって!」
「えーっ! よしおじちゃんもかなり強かったんだけどー!? 今スッゲー眠いけどさー、この戦が終わって帰ってきたらまたやろーよ!」
昨晩の徹夜「天正カルタ」が効いているのか、義光の口調が感染っている政宗。
「ちょっとー!? テンちゃんの口調がお兄ちゃんに似ちゃったじゃない! 仲良くなるのは凄くいいんだけどー、ダメな大人の口調に毒されちゃダメですからねー!?」
軽く遺憾の意を表しつつ、さり気なく兄をディスる義姫。
そんなやり取りを耳にしていた周囲の足軽たち。
これから戦に赴くというのに、緊張感の欠片もなく、大きく無駄口を叩いている連中に我慢出来ず注意する。
「ヘラヘラやがまし馬引と徒だズねー。……ってか、ほだなごどよりなんで徒が馬さ乗ってんだズー? しかもお兄ちゃん!? いぐらなんでも身分ちげぇべしたぁ? えれぇ仲良しみったげっとぉー、ちぇっと所んね……」
「おーいお前らー。総大将に怒鳴られる前に、そこらへんにしとくっすよー?」
演説中だというのに、少しばかり騒ぎ過ぎたのだろう。義光の隣で馬に跨り上等な鎧を着た武士、志村光安が間に入り場を治めた……かに見えた。
「――故にこの戦は……おい! その後ろの者たち! 先程から一体何を騒いでおるっ! 戦に出る前に斬られたいかっ!」
右手に携えた、身の丈を優に超える大薙刀の石突で、大声とともに地面を打つ光忠。
「いやー、ワリぃワリぃー! ほらっ、アレだ! 総大将があまりにも立派だったもんだからー、ついテンションが上がってしまってなー!」
「そ、そうなんじゃー! 儂らは育ちがちょっと少しアレなもんでー! いやー、申し訳ないー!」
飛び跳ね大きく手を振りながら「無駄口を叩いていたのはワシらだー」とアピールする義光と守棟。
周囲の足軽たちからは「総大将に何て態度と口だよ」と戦々恐々に「これは斬られたな」と話すのが聞こえてくる。
「なっ! とのっ!? とっ、と……戸は人の口に立てられんという。おたわむ……おっ、お互い同じ戦に身を投じる仲間なれば、おとなしく……大人としてその責を果たす事に尽力するよう励め! 騒ぐのはこの戦を勝って終わらせた時になっ! ……頼むから!」
馬丁姿の二人にどう注意したものか、精神を削る光忠だが、最後になんとか釘を差すに留めることができた。
「志村! そこら辺に固まってる……あー、そのウルサイのっ。お前の責任でちゃんと見ておけ!」
ものすごく面倒臭そうな表情で、何か言い返したそうな志村。もうどうにでもなれと「はっ!」っと一言返事を返し、馬丁に扮した二人に「頼みますよホントに」と視線を送る。
肩をすくめ頭を振る志村とは対照的に、その場にいた兵たちは、光忠の懐の大きさに感銘を受けていた。もちろん勘違いである。
「いざ、出陣っ! 出るぞー!」
山形城を日の出と共に出陣した蔵増光忠率いる本隊三五〇〇。
その後方には氏家守棟率いる精鋭五〇〇の兵が続き、総勢四〇〇〇名の大軍が列を成し、行軍を開始した。
とはいえ、守棟は義光に無理やり付き合わされて馬丁に扮している為、志村が割を食って代わりに守棟の兵を率いる事に。
ただ、この部隊。細川との戦には参加しない。
ならば、一体何の為の精鋭五〇〇名なのか。義光からは一切説明がなく、守棟も訳が分からないという。仕方がないので、お忍びで同行している伊達家お三方の護衛、ということで自身を納得させた志村。
しかし、自らが使える殿ではあるが、義光の落ち着き様の無さと破天荒さ加減には頭を抱えざるを得ない。これを日常で何とかしている守棟に、尊敬の眼差しを向ける志村だった。
行軍が始まった事で、多少の無駄口を叩いても問題なくなると、先ほど義光らに注意をした足軽が話しかけてきた。
「しっかし、オメさんだズおもしぇなぁー! 殿様さ向がってあの言いよう! いやーオラには絶対真似でぎねっちゃやー。馬さ乗ってだほっちの三人も、オメさん二人も、只者んねなぁー。訳ありなんだべげっと、詮索すねさげって安心してけろっちゃー。ほっちの色男も、若げぇあんちゃんも、こいずの妹さんも、皆よろしぐな。オラ、茂兵衛だ」
竹に雀の紋が入った陣笠を被り、軽量で簡素な足軽装備に長槍を持った茂兵衛と名乗る青年。義光をはじめ、守棟と伊達家一行に挨拶をしてきた。
「おお、茂兵衛か! ワシは義あ……義じゃ! しばらくの間よろしく頼むなー!」
「茂兵衛さんですかー。とんでもない事を躊躇なくやっちゃうお兄ちゃんですけどー、此度の道中は仲良くしてくださいねー。では頼みましたー」
「えっ、あっ! ひゃい! わ、わがっただー! この茂兵衛にまがせろぉ!」
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