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坂東の式鬼  作者: 天狗 神


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32/32

第三十一話

最終話です




 今までのライブステージでは味わった事のない充足感に浸りながら、目を閉じみんなの拍手を待つ。


 だが、突然空気が変わったかのように滑った湿気が肌を撫でた。

 拍手の代わりに耳に届いたのは夜の街の喧騒。

 場末の飲み屋街独特の臭気が鼻につく。


「あらやだ、お兄さんたちイケメンー! こんな時間にコスプレのパフォーマンスでもやってるのぉ? アタシが奢るからさぁ、一緒に飲みにいかなーい?」


 女性的な言葉使いをする太い声に目を開く。

 派手な衣装にピンクのヅラを被ったおネエさんが声を掛けてきている。


 驚いた。


 いや、驚いたのはそこじゃない。


 月に手を上げていたポーズを正し、慌てて周囲を見回すと、街灯にビル、アスファルトに車が見えた。


「えっ、ちょ、マ!? おネエさん! 今って何年ですか!」


「え、ナニどうしたのぉー? 何年って、令和になってけっこう経っちゃったわよー?」


「うわっ! みんな! 僕のスマホ、衛星キャッチしたっスよ!」

「ああっ! 俺ちゃんのスマホ! とうとうバッテリー切れたぁー!」

「これは……。俺達だけか? 他のみんなは? ユキ、どうなってる」

「……どうやらオレ達だけみたいだ。戻って来たんだな、本来の時代に」


 傍から見れば、ただの頭のおかしな危ない集団だ。


「……あらやだ、用事を思い出しちゃったわー。誘っちゃってゴメンねー、じゃーねー」


 おネエさんは足早にこの場を去って行った。


 しばらくの間は帰還したことに喜んだが、その後、無言で月を眺める時間が流れた。足元に転がった小石を放ると、アスファルトの上をカツンカツンと音を立てて転がっていった。


「帰って来ちゃったねー。みんなにちゃんと挨拶してないよー?」


 アキの言いたい事は痛い程分かる。

 突然放り込まれた戦国時代だったけど、振り返ればやり残してきたことも沢山あったと思う。


「大変だったけど、悪くなかったっスよね」


「ああ、そうだな。みんないい人たちばかりだった」


「オレ達は、あの戦国時代に未練を残してる。けど、沢山の人達に思い出と記憶も残してきたよな? 夢や幻なんかじゃなかったよな?」


「ユキ。僕たちもみんなも、確かにそこにいた。それでいいじゃないっスか」


「ユキちゃん。大事なのはさー、タラレバじゃなくて、俺ちゃんたちは『これからどうするのか』じゃん?」


 立ち上がり大きく背伸びをしたアキ。


「まあ、俺ちゃんとしては『足りないピース』見つけたーって感じかなー」

「やっぱりっス? 僕も何か分かった感じするんスよねー」

「ああ、そうだな。同感だ」


 アキに続いて立ち上がり、背伸びをした。

 朝日が少し顔を出し始めている。


「まずは一旦家に帰ろうか。なんたってこの服装だし。それに、まずは風呂だろう」


「風呂っ!」


 ハモる声と笑い声に驚き、二羽の雀が電線を飛び立っていった。






 それから数日後。


 オレ達は声を掛けてくれていたレーベルに対し、現在のスタイルから一転し『和楽器バンド 四季』として活動を新たにする事を伝えた。


 担当は驚いていたが、デモ演奏を見ると今すぐ契約を結びたいと飛びついて来た。


 そして、オレ達はロックバンドから一転。和楽器バンドとして新生し、大きな話題を呼ぶ事になる。


 メジャーデビューを果たしたオレ達はアルバムを制作。

 和と洋がミックスされた新感覚の美しい旋律は、瞬く間にSNSなどで広がった。


 小さい箱ながらも全国ツアーを行い、尺八の清明(きよあき)、琴の皐月(さつき)を新たなメンバーに迎え、表現の幅を広げた。


 チャリティも兼ねたツアー最終日。

 箱は収容人数八千人の東京ガーデンシアター。

 チケットは即日完売。


 「平和」をキャッチコピーに、真っ黒なスタッフTシャツの両面には、白でピースマークがプリントされてある。


 控室で待機していると、アキが自慢気にスマホを見せて来た。


「ねえねえ、ちょっとこれ見てー! どーよこれ、ヤバくねー?」


 スマホに映っているのは家紋。中央にススキがデザインされている。


「へー、アキちゃんなにこれー家紋? なんかシンプルだねー。で、何がヤバいの?」


 屈託のないストレートな感想を飛ばす皐月。


「あ、この家紋、俺知ってますよ地元なんで。『雪輪に(すすき)』。伊達政宗ですよね」


 仙台出身の清明が説明してくれた。


「えっ! これススキだけじゃなくて輪郭が雪かー! 俺ちゃんってば、ユキちゃんに自慢しようと思ったのになー」


 どういうことか意味が分からない表情の清明と皐月。


「大方、秋のススキが使われてるってことは、政宗がアキを慕ってたからって言いたいんだろ? でも残念。オレの雪の方がデカい。それに政宗の髪型、オレの真似だしな」


 悔しがるアキと「?」を浮かべる二人。

 横で笑いながらやり取りを見守るハルとナツ。


 控室のドアがノックされ。スタッフが声を掛ける。


「四季のみなさん、スタンバイお願いしまーす!」


 立ち上がり円陣を組んだオレ達。


「ツアーラスト! 気合入れていくぞ! ここがオレ達の戦場だ!」


「おおーっ!」


 そしてツアーは大成功に幕を閉じた。

 もう辛辣な声は聞こえない。


 その後、例外に漏れず打ち上げで酔っ払うオレ達。


「そーいえばユキちゃんとアキちゃん。さっきの伊達政宗がーとか言うのって何なのー? 私も清明も意味分かってないんですけどー? 詳しい説明を求むー」


「荒唐無稽な話すぎて信じられないだろうけど、政宗はオレ達四人の弟分なんだ」


「あ、俺ちゃん、証拠写真撮ってあるよー。ほらー、これが政宗でこっちが――」


「いやいやいや! 有り得ないでしょ!」


「でも、本当のことなんスよねー」

「ああ、そうだな。全部本当の話だ」


 飲み屋からの帰り道、みんなで道路に寝転がりダベる。

 夜空には、何やらまた朱色した妖しい月がオレ達を見降ろしている。


 さっきの話が本当ならばと、面白半分でみんな一緒に月へ手を伸ばし「せーの」でグッと握ってみた。


 突然、強い眩暈と眠気に襲われて視界が歪む。


「え、ちょっ! ウソぉー!?」




(了)






ご覧いただき、ありがとうございます。


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よろしくお願いします。



+++++++++++++++++++


「 坂東の式鬼 」1作目となる、~ 小国城・鮭延城 編 ~ はこれにて終了です。

貴重な時間をこの作品に費やしていただき、感謝の念で一杯です。


2作目と3作目の舞台はすでに決まっています。焦らず書いていきたいと思います。

今後とも応援よろしくおねがい致します!

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