第二話
打ち上げと称し、居酒屋まで流れたのはいいが、如何せんさっきの会話が脳裏から離れないままだ。間違いなく皆気になっているはずなのに、その事について誰も切り出そうとはしない。
微妙な空気が漂っている中、一杯350円の激安中ジョッキビールが運ばれてきた。
お疲れ様の声もなしに、手に取ったジョッキを軽く上下し挨拶に代える。
冷えてはいるが、どこか薄められたような紛い物の味がするビール。
まるで今のオレ達の様だ。
「フッ。見た目だけの中身薄と言われたオレ達にはお似合い……か」
思わず零れてしまった皮肉めいた笑いと自虐を冷えたものと共に、一気に喉へと流し込んだ。
自分でも気が付かない程に、そのたった一言に動揺していたらしい。
「ああ……そう……かもな」
いつもは動じないナツも、オレを見て流石に思う所があったようで、珍しく困惑している様子が窺える。
「そ、そういうの止めるっスよ! 周りの声に振り回されると、きっとロクな事になんないってのは言うまでもないっスから! ねっ!?」
色んな感じ方や意見があって当たり前、気にする事はないとハルは言うが、目が泳いでいる所を見るとやはり動揺は隠せない。
「みんなの言う事も分かるけどさー、ちょっと聞いてー? 俺ちゃんなんて持ち上げられてから叩き落とされたんよー? 勢いあるーからの中身薄ーで辛辣よ? 酷いと思わん!?」
アキの明るさや軽さ、メンタルの強さはオレ達の強みだと思う。
コイツはハルとはまた違った視点で周りをよく見ている。
「さっきの中身が薄いと言われた事と、足りないコレって言うのに対してどう思う? オレ達に足りないモノって何だ? 中身を濃くするにはどうしたらいい? このままメジャーに行けばその歪みはもっと大きくなっていくだろう? オレは今のうちにそれを潰しておきたい。もっと強くなる為、メジャーで成功する為に」
本当は、答えなんて分かってるつもりだ。
周りの言葉や評価に振り回される必要なんかなくて、オレ達は自分の音楽を演りたいようにやればいいって。
「なら、今度の曲は歌詞を共感しやすいように恋愛調を強めてみるってのはどうだ? 何にしろ注目を集めりゃ俺達の勝ちって事だよな?」
そう、ナツの言う通り、要は「注目」を集められればいい。
他に差を付けて抜きん出ればオレ達が正解になる。
メジャーで成功するってのは多分そういう事なんだろう。
「言い方がすこーしアレな感じもするけどー、ナっちゃんの考えに俺ちゃんは賛成ー!」
「なら、後はそれをどうやるのかって事っスね。ナツ、何かいい考えがあるっスか?」
少し間をおいてから、視線を外し首を軽く横に傾けたナツ。
「ノープランかよ!」
みんなで突っ込みを入れると「そこは四人で考えようぜ」と軽く返し、誤魔化すようにナツは追加注文の声を上げた。
「すいません。こっちビール追加4つで。あと焼き鳥と――」
さっきまでの重かった空気も、何故か少しだけ軽くなった感じがした。
これからオレ達はどんな色を加え、どんな風に変化していくのだろう。
まあそれはこれから考えるとしても、だ。
「お前らよくこんな薄いの飲めるよな。悪酔いするぞ?」
オレもその中の一人なのだと言う事を分かって弄る。
「へっへっへー! 何言ってんのユキちゃーん! 中身薄の俺ちゃん達には、今はこのぐらいが丁度似合ってんだぜー?」
「ああ、そうだな」
「ユキ。いつかみんなでめちゃ旨いやつ飲むっスよ!」
「そこは近いうちに必ずって言えよ。オレ達ならやれる。そうだろ?」
運ばれてきたビールモドキを片手に、不敵な笑みを浮かべながら、今度はしっかりと手を前に突き出して言う。
「お疲れーっ!」
打ち付け合うジョッキの響きは、オレ達の未来に向けた開戦の合図だ。
ベロンベロンになるまで酔っぱらった後は、アルコールを消化するまで深夜の路上に寝転がった。
あーでもない、こうでもないと腹の中をぶちまけ合い「SHIKI」としての結束を深めていく。
「今何時だー? 夜って言う割には明るくないかー?」
夜空も少し白み始めたのだろうか、そろそろ家に帰ってちゃんと寝ない事には、世間の人に醜態を晒す羽目になる。それは流石に抵抗がある。
「みんなー、ちょっと聞いてー。この空『黎明』って言うの知ってるー? 夜明け、新しい事の始まりって意味なんだってよー」
いまだ朱色を含んだ月に手を伸ばし、まるでこれからのオレ達をそこに見ているかのように、キザなことを言うアキ。
「ああーいいっスねー、冷麺」
「ああ、そうだな。いいな、冷麺」
盛大に聞き間違っているハルとナツ。
「……俺ちゃんの格好いいセリフ、なかった事にしてもらっていい?」
夜明け、新しい事の始まり、黎明か……。
春夏秋冬の移ろいはどことなく黎明に似ているような気がする。
ああそうか、それでいいんだ。
オレ達は「四季」なのだから常に変化し続けないと。
こういうのなんて言うんだっけ?
……そうだ、無常だ。
「なあアキ、その『黎明』で一曲作れよ。きっといい曲になる気がする」
気が付くと、オレ達四人は空に向かって手を伸ばしていた。
いや、高みにいる輝く月を掴み取ろうとしたのかもしれない。
それがとても面白く感じ、心が躍った。
「月に願いをなんてガラじゃないけど、足りない部分『足りないピース』ってやつを埋めてさ、みんなで掴もうぜ! オレ達の夢を」
「ああ、そうだな」
「流石リーダー、いい事言うっスねー!」
「ユキちゃんてさー、何気に乙女チックな発言するよねー。でもまあ……、悪くはねーな!」
笑みを浮かべながら、月に向かって広げた掌を「せーの」で強く握った。
あたかもみんな一緒に同じ事を願い、夢を掴むかの様に。
急に強い眩暈と眠気に襲われ、視界が歪む。
そして、そのまま意識を失った。
ご覧いただき、ありがとうございます。
『 面白かった 』、『 続きが気になる 』と思った方は
「 ブックマーク登録 」や「 評価 」して下さると励みになります。
よろしくお願いします。




