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坂東の式鬼  作者: 天狗 神


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第二十四話

 一番鶏で目を覚ましたオレ達。

 いつもより早めの朝飯を食べ終えると、輝宗さんから手渡された戦装束を広げ、早速着替え始めた。


 下は黒の忍者袴に黒の脚絆。

 上は肩口までしかない派手な色をした和柄の着物と、露出した腕と手を隠す黒の手甲。

 頭には黒の鉢巻きを結ぶ。


 和柄は鯉、龍、虎、鷹。それに桜、菊、牡丹、梅が合わさっている。

 色は赤、青、黄、緑の四色。

 ナツが赤、アキが黄、ハルが緑でオレが青。

 おそらくそれぞれの四季の色に合わせて用意してくれたのだろう。


 生地も相当高価なものに見える。

 これから戦に向かうというのに不謹慎ではあるが、この衣装を着たら気持ちも引き締まった感じがしてテンションが上がる。


「ははっ。これから戦場に向かうって言うのにさー、これ着たらなんかちょっとその気になってきちゃった俺ちゃんて単純なんじゃなーい? みんなはどーよ」


「ああ、気合が入る。今までのライブでステージに上がった時以上にな」

「引き締まって、よしやるぞって感じがいいっスね」

「鉢巻きも手甲も脚絆も。ぎゅっと引き締められてる分、みんなの想いや心が籠っている感じがする。悪くない」


 この時代の人たちに比べると、背は高いが遥かに体の線が細く、筋肉も貧弱なので忍者衣装が様になっているかと言えばそうでもない。筋トレして身体を鍛えた方がいいかもな。


 もう一度、脚絆と腰の紐をしっかり結び直して気合を入れる。


「よしっ、いくぞ!」






 大手門前に出ると、続々と兵が集まって来ているところだった。


「あ、みなさんおはようっすー。昨日は良く眠れたっすかー」


「おー志村ちゃんおはよー。もうねー、健康的な生活すぎて体調良くて眠れる眠れるー。調子もこの通りバッチリよー。ほらっ!」


 砂利の地面で器用にバク宙してみせたアキ。

 そういえば、アキは中学高校と体操部だったことを思い出す。

 その経験が役に立ったのがタイムスリップした先の戦国時代とは、当時は思ってもいなかっただろう。

 まあ基本サボってバンド練習ばっかりしてたから、バク宙までしか出来ないって言ってたけど。


「うわっ! アキさん何ですかそれー! 満茂にも教えて欲しいです!」

「アキさん! もしかして今のって神通力の一端だったりするっすか!?」


「あー、いやーコレはただの体術だよねー。ジンツーリキは後のお楽しみじゃーん?」


 そんな会話をしてると、足軽にしては少し装備が整っている人が話しかけてきた。


「みなさんお揃いでー。おはようさんですー」


 恰好が違っていて分からなかったが、よく見ると茂兵衛さんだった。


「おはようございます茂兵衛さん。その恰好は?」


「いやー、実はあれがら義さん……んでねぇ。殿に呼び出されでしまって。この戦がら足軽組頭を務めるように命じられましてー。いやー嬉すぃったら、こっぱずがすぃったら」


 なるほど、義さんらしい。

 顔見知りが嬉しそうだとこっちまで嬉しくなる。


「やったじゃないですか。今回の戦でいい所を見せてやりましょうよ」


 しばらくすると義さん、守棟さんが馬に乗って登場した。

 輝宗さん、義姫さん、政宗は、いつの間にか隊の横でなるべく目立たない様にしていた。


「最上義光じゃー! 先日の小国城攻めは皆ようやった。だが、山形に帰る前にもうひとつやっておかねばならぬことがある。北は小野寺、西は大宝寺との境界に位置する要衝、鮭延城を手に入れる事じゃ! 我らはこれより再び戦に向かう。心してかかるように。また、これから呼ばれるものは前に出よ。志村光安、楯岡満茂、坂東の式鬼、前へ!」


 突然呼ばれたオレ達の名前。一体何をやらせるつもりなんだ?


 前に出て約三五〇〇人と向き合う。

 ライブとは全然違う視線が一心に向けられる。


 すると今回の総大将、守棟さんが馬に乗ったまま前に出て大声を出す。


「此度の戦で総大将を預かった氏家守棟である! 約三五〇〇の兵は、本陣護衛に五〇〇、右部隊に一五〇〇、左部隊に一五〇〇と三つに分ける! 右の大将に志村光安! 左の大将に楯岡満茂を任命する!」


「はっ! 志村光安、喜んでっ!」

「御意! この満茂、必ずや勝利を献上いたします!」


 納得の配役に思わず拍手を送りそうになった。

 この時代は静かに聞き入るのが礼だ。


「坂東の式鬼! お主たちには軍師の大役を任せるよう、殿より仰せつかっている。もちろん受けてくれるな」


 確かに昨日、ナツは義さんから采配を受け取った。

 そういう意味が込められていたとは考えが及ばなかった。

 総大将と同等クラスの地位じゃないか。


「ああ、任せておけ! 俺達、坂東の式鬼は、お前たち全員の士気と死期を握っている。俺達の指揮の下では誰一人死なせやしない! やるぞ! 全員で!」


 右手を揚げそう強く宣言してしまったナツ。


 またやってしまった感は拭えないが、この場面においては正解なのかもしれない。そう思わせる程に、兵達から上がった大きな雄叫びは、早朝の山々に木霊して空へと溶けていった。


「はっはー! 嬉しいこと言ってくれるじゃねーかナツ。負けてんぞー? 氏家総大将殿」


「なっ、殿!? 儂はまだ何も負けてないし、何なら始まってもいませんってー! ちゃんと見ててくだいよー? 殿をギャフンと言わせるまではこの守棟、そうそう簡単に死んでられませんからなー」


 小声でやり取りをしている二人の会話に、オレ達の士気も上がる。


 負けん気が前面に出てきた守棟さんが最初の命令を出した。


「よし、志村、満茂。左右それぞれの部隊が隊列を組み次第、補給地点となる沼田城、日野(ひの)有祐(ありすけ)のもとへ出発だ。伝令は今朝方、一足先に既に走らせてある」


「はっ」


 早速、馬を走らせ隊列を組むよう声を上げる二人。

 友達感覚でフランクに接していたから忘れがちだったが、この二人も立派な戦国武将。頼もしい限りだ。


 オレ達もこの約二日間で馬に乗る練習をしたが、流石に少し早く歩く程度の速度でバランスを取るのが精一杯だった。


 アキとハルの二人は飲み込みが早く、一人で走らせることが出来るまではあっという間だった。結果、この行軍はアキの後ろにナツが、ハルの後ろにオレが相乗りするという情けない構図に。


 そして出発の準備は整い、守棟さんが声を上げる。


「皆の者! いざ参らん!」


 北方の要衝となる鮭延城と、その城主である知勇兼備と噂の鮭延秀綱を手に入れる為、行軍を開始した総勢約三五〇〇名の最上義光一行は清水城を後にした。






 早朝、本隊に先んじて沼田城へ向かった伝令役三名。


 小国川沿いに東へと来た道を戻り、羽州街道をそのまま北上。

 約半刻程して難なく沼田城へと辿り着き声を張り上げる。


「伝令でござる! 最上義光公より、急ぎの御用にて参上仕った!」


 やっと日が昇った時分に、沼田城周辺の家々にまで響き渡る伝令。

 何事かと周辺から人が集まり出し騒がしくなる。


「戦、始まるんでねぇべな」

「最上義光っていえば、ちょぺっと前に日野様の大殿様になった人んねっけがじゅ」


 そんな声が聞こえる中、沼田城内から多少身なりの良い男が出て来た。


「んだぁ? こんた朝っぱらがらやがましいにゃー。なんだおめだズ、どっから来た?」


 まだ眠そうな顔でツルっと光る頭を掻きながら、横柄な態度と言葉使いをする男。


「再度伝令を申し上げる! 最上義光公より急ぎの御用にて参上仕った! これより一刻半程したのち、最上義光公率いる三五〇〇の兵が訳あってこの沼田に立ち寄る。急ぎ兵糧の用意をせよ! また日野有祐殿においては、急ぎ兵二〇〇を整え、戦支度し待機するようにとのお達しだ! 返事をお聞かせ願いたい!」


 眠そうにしていた男の表情と態度が一変し、徐々に青ざめていく。


「おいっ! 櫓の警鐘ば鳴らして全員叩き起ごせ! 急ぎ、炊き出しの準備ばすろっ! 戦さ出れる百姓どもばありったげ集めで、戦支度が出来次第、こごさ集まるように声掛げろ! 猶予は一刻しかねっ! 早ぇぐ! 儂は日野有祐。これで返事さなったべが!」


 寝起き顔から一転、真剣な面持ちで応える


「迅速な判断感謝申し上げる! 返答承った! はっ!」


 伝令の一人が、沼田地区に向かっている本隊に返答を持ち帰る為に再び走った。


 だが、騒ぎに集まった皆が気を取られる反対側で、周囲に悟られない様、この場から急ぎ離れる者もいた。


 行商で昨日、沼田地区に来ていた男、柳谷(やなぎや)

 鮭延秀綱に仕える草であり、主に鮭延城周辺勢力の諜報が主な仕事。


「最上義光が北上してきただと!?」


 北上し、沼田を経由する意味。それは仙北の小野寺に攻め入るか、鮭延城に攻め入るかの二択しかないと考えた。


 まず、小野寺に攻め入るにしても西の大宝寺を気にしない訳にいかないだろう。

 何より沼田からは距離もあり、些か現実的ではない。

 ならば拠点として大乗寺に睨みを効かせつつ、小野寺への足掛かりにもなる鮭延を手に入れようとするはず。これは大変な事になると思い、拝借した馬を全力で走らせ一路、鮭延城に戻る柳谷だった。


 最上義光が到着するまで女衆は総出で炊き出しを行い、男衆は戦支度に追われた。


 着々と準備が進んでいく中、どこに戦を仕掛けるのか何も知らされていない日野は、この沼田から仕掛けるなら間違いなく鮭延城だろうとあたりをつける。


 行路としては泉田川に沿って西へ行き、鮭川との落合から北上すれば間もなく鮭延城が見えて来る。これが一番簡単で安全な道だろう。


 何かしらの工作により邪魔が入ったとしても、見渡しの良い河原を進むのであれば対処もしやすい。


 もし鮭延に行軍を感付かれたとしても、まさか見渡しの良い河原を堂々とやって来るとは思わないだろうと考えた。


 そして炊き出しが整い、兵二〇〇が集まった頃合い丁度に、最上義光の一行が沼田城に到着するのであった。






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