第二十三話
一日半で三線ギターとチンドンセットを作り上げたとか、尋常じゃない才能と努力に驚きが止まらない。それだけに、オレが描いたベースとナツのマイクが一体どうなったのかが非常に気になる。
ナツの三線ギターを見る限り、似たような出来栄えのモノを期待してしまうのは仕方がない。清水さん、輝宗さん、ありがとうございます!
「では次、オレが開きます!」
緊張しながら包み布に手を掛ける。
この時代にベースが爆誕するとしたら、一体……。
「あ、ユキ殿……」
輝宗さんが声を掛けたような気もしなくはないが、後で聞くので今は待ってくれ。
「さあ! その姿をオレに見せてくれ!」
何という事でしょう。
飴色に染まった、光沢を放つ丸みを帯びたふくよかなボディ。
現代のベースと同じ四弦を携えたスリムでコンパクトに収まったネック。
これはまるで……。
「年季の入ったただの琵琶じゃねーかっ!」
思わずツッコんでしまった。
「プフォッ!」
「おいそこっ、聞こえたからな! 晩飯のオカズ一品で許してやる!」
ナツとアキが吹き出したのをオレは見逃さなかった。
「でもユキ。これめっちゃいいモノっスよ! 手入れも行き届いてるし、何よりしっかりして一切ヨレてる感じがしないっス」
そう。それはオレも一目見て気が付いた。
きっと誰かが大事にしていたモノを持って来たんだと思う。
でもツッコませてもらった。
何しろ三線ギター、チンドンセットという爆弾が続いてからのノーマル琵琶だ。
ツッコまない方が失礼である。
「あー、ユキ殿。それに関しては儂から一言詫びを入れなければいけない。アキ殿の三線を仕上げた後、ハル殿の太鼓を知恵を絞り組み上げた所で、もう今日の午の刻をとっくに過ぎていた。時間が足らず、絵に沿う事が出来なかったこと、本当にすまなかった」
違うんだ輝宗さん。謝らなきゃいけないのはオレ達の方だ。
「いえ、輝宗さん。謝らないでください。お二人がそれこそ知恵と努力を出し切り、死力を尽くして用意してくれたオレ達の武器だ。謝られるのは筋が違います。こんなに素晴らしいモノを用意して頂き、本当にありがとうございます」
オレの嘘偽りない素直な気持ちだ。
この楽器は、オレ達を信頼してくれた証だって分かるから。
だからこそ、オレは輝宗さんと固い握手を交わすんだ。
「そう言ってくれると頑張った甲斐があるってもんだね。こっちこそ目一杯楽しませてもらったよ。ありがとう」
そうなると最後はナツのマイクだ。
恐らくだけど、一番難解で解釈に苦労したんじゃないかと思っている。
確かに、描いた絵についてソレがどんな役目を果たすモノなのかを簡単に話はしたが、それでも理解するまでには至らなかったことだろう。
絵の見た目だけで言えば、一番簡単に造れそうではあるんだが。
「最後は俺だな。で、どこにある」
そういえば包みは三つしかなかった。
「ナツ。お主に渡すものはワシが用意した」
義さんは、自分の後ろに隠しておいたものをナツに差し出した。
それは、黒く塗られた棒の先に、細長く切られた布が総になって付いているもの。時代劇で見た事がある。
「守棟には軍配を、ナツには采配を託す。頼んだぞ二人とも」
「はっ! この氏家守棟にお任せを」
「ああ、俺達にやれない事などない」
采配を受け取ったナツは無造作に振り回すが、恐らくソレが何なのかを理解していないだろう。
オレが苦笑いをしていると、義さんがもう一つ後ろから取り出した。
「もう一つ。これは清水からだ。なんでも法螺貝を加工して造った『法螺吹き貝』と言っておったぞ。しかしなんとも言えん名付けだな」
「いや、俺の注文通りだ。これ一つで戦場が変わるぞ」
これは、戦国時代版メガホン!?
この時代に声を遠くまで届けられるというのは革命的というか、戦の勝敗に相当な影響を与えるのは間違いない。
「最後になったけど、戦装束をみんなに用意した。明日の出発からはコレを着てくれるといい。きっと動きやすいはずだ」
何か特別な意味合いを持った衣装なのだろうか、輝宗さんはオレ達に黒い衣装を手渡してくれた。受け取ると確かに軽い。
「それと、このモノですが、儂の部下に運ばせるので心配ご無用」
守棟さんが楽器類の運搬を申し出てくれた。
「有難うございます。助かります」
「よし、これで準備は整った。心置きなく鮭延の城に向かう事が出来るというものだな。おーい誰か! 清水を運んで寝かせてやってくれー」
清水さんが運ばれて行くのと一緒に、オレ達も部屋に戻った。
明日、オレ達はこの戦国時代で戦に参加する。
いつもはお喋りなアキも今夜はやけに静かだ。
やっぱり何かしら思う所はあるんだろう。
明日はライブ、なんてノリでは決してないのだから。
「兄ちゃんたち。飯食ったら一緒に風呂行こうぜー! 戦の前は水風呂に入って身を清めて精神統一するのがいいって父上が言ってた」
政宗が部屋に飛び込んできて、そんな空気を一瞬で吹き飛ばした。
あまりの可愛さに頭をクシャクシャと撫でると、不思議と負けられないという強い意志が沸いてきた。
みんなで政宗の頭を撫でまわすと、不思議な顔をして首を傾げた政宗。
「明日はオレ達の戦、しっかり見ててくれよ。政宗」
「そっスよ。僕たちの事、政宗くんにしっかり覚えててもらいたいんス」
「別に政宗だけって事じゃなくてさー、みんなにじゃーん? 俺ちゃんたちのカッコイイとこ、忘れられなくしてやるぜー?」
「ああ、そうだな」
少し含みのある物言いをしてしまった感じがする。
だが、明日自分たちがどうなるのかなんて誰にも分からない。
斬られて死ぬかもしれないんだ。
「えっ、明日の戦が終わったら坂東に帰らないといけないのか? もっと一緒にいられると思ってた」
少し俯き加減で、涙が出そうになるのを堪えているのが分かる。
頭を胸に抱き寄せ、言い聞かせるように話す。
「政宗。出会いがあれば必ず別れも来る。それがいつなのかは誰にも分からない。だから一期一会、その時の出会いを大切にする。それに、生きてさえいれば、いつかまた会える時は来るだろう。これから先、政宗は沢山の人と出会い、同じくらい沢山の人と別れを経験する。別れが来た時に後悔しない様に生きろ。賢明じゃなくてもいい、バカ正直に一生を懸命に生きろ。もちろん一所懸命も大事だけどな」
気の利いたことなんか言えないが、オレが今言える精一杯を伝える。
「そういうことっスよ。それに、明日僕たちは死なないし戦にも勝つっス。これでも僕たちは式鬼っスから。多少の未来は見えるっスよね」
「えっ! ハルちゃんマジ!? 何その能力ヤバすぎじゃないー!?」
「ハル兄すげぇ! 明日は死なないし絶対に勝つんだよな! ならそれでいい!」
「ああ、俺達に任せておけ。そして、しっかり目に焼き付けろ」
ああ……、オレ達はいつまでこの時代にいられるのだろう。
ご覧いただき、ありがとうございます。
『 面白かった 』、『 続きが気になる 』と思った方は
「 ブックマーク登録 」や「 評価 」して下さると励みになります。
よろしくお願いします。




