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坂東の式鬼  作者: 天狗 神


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第二十二話

 出発するまでの二日間は、政宗と義姫さんに誘われ、四ヶ村(しかむら)の棚田を見に行ったり、川へ涼みに行ったり。偶然見つけた鹿を義姫さんが弓で仕留め、食材確保で喜んだりした。


 そして出発前日の夕方、晩飯前に義さんに呼び出されたオレ達。


 広間に行くと守棟さん、輝宗さん、清水さんが居た。

 それと、布で包まれた大きなものが三つ、義さんの前に置いてある。


「出来たぞ」


 義さんが満足げな表情で言うと、清水さんと輝宗さんが話の続きを引き継いだ。


「結果から申し上げますと、出来ました。ですが、式鬼の皆さんが絵に起こしたモノそのままとはいきませんでした」


 この二日間、ほとんど顔を見かける事がなかった清水さん。

 きっと籠り切りで、必死に頑張ってくれたんだろう。

 顔には大きく疲れが表れているが、まだ「気は抜けない」という圧を感じる。

 出来たモノをオレ達が「良し」とするまでは終わらないと言う事か。

 その真面目さが染みる。


「実はさ、今回山形に出張って来る少し前の事だったんだけどね。のぶおじさんから鷹だの何だのって色々と贈られて来てさ。鷹なんて珍しいなーってそっちにばかり目が行ったんだけど、みんなが描いた絵を見て思い出したんだよね。琵琶と三線もあったなって。儂は嗜まないから、なんでこんなものが? って不思議だったんだけど、腑に落ちたんだよ。ああ、これを見越してたんじゃないかって」


 あの時、輝宗さんが清水さんと一緒に席を立ったのはそういう理由だったのか。


「輝宗様から様々に助言を頂きながら、私の家にありました三線と琵琶、それと太鼓を使い仕上げたのが今回のこの三つになります」


「ワシもまだ見てないんじゃ。一体どんなモノが出来たのか気になる。早くその布を取って見せてくれ。ホレっ、早く」


 オレ達が前に進むと、清水さんがオレとアキに小振りの包みを、ハルに大きめの包みをあてがった。


 包んでいる布を丁寧に開いていくと、中にはまさかのモノが。


「は? これ造ったの!? マ!? 清水さんヤバ……凄すぎじゃん……」


 最初に中身を確認したのはアキ。


 もちろんギターじゃない事は百も承知。

 だけど、率直に言うとギターにしか見えない。

 どう表現したらいいのか難しいが、ギターの形をしたボディーに、三線そのものがセットされていると言ったらいいのか?

 ピックアップ部分に蛇皮の胴が収まり、ネックは棹、ヘッドは三つのカラクイが付いた天。弦は三本でもちろんフレットレスだ。

 この戦国時代に、ギター仕様の三線が爆誕したと言っても過言じゃない。


「カッコ良すぎんだろっ!」


 思わず声を揃えて叫んでしまった。

 あの下手クソな絵からここまで仕上げた清水さんと輝宗さんのセンス。

 未知の物を正味一日半で仕上げるとか、正気の沙汰じゃない。

 アキなんてテンション上がりすぎて、みんなに握手をして回り、最後には清水さん、守棟さんと抱き合い、飛び跳ねながら喜ぶ始末。


「アキ、それほどか! それほどに清水が造ったものは凄いか!」


 義さんもオレ達の期待に応えられたことが嬉しかったんだろう。

 でもそれ以上に、清水さんがやり遂げたことが嬉しかったんだと思う。

 何度も頷きながら「よし、次はハルのその大きなヤツを早くみせろ」と急かし、オレ達以上に待ち切れない様子だ。


 ハルのドラムも見た目の威力が半端じゃない凄さだった。


 絵に描いたドラムはいわゆる基本的なシンプルセット。

 だが、目の前に現れたのはチンドン屋の太鼓セット。

 これがどんなに異常な事なのか、オレにだって分かる。

 チンドンの発祥は江戸時代末期の大阪だ、時代が違い過ぎる。

 あの下手クソな絵がどうしてこうなった!?


「なんじゃコリャー!」


 叫ばずにいられる訳がない。

 だって、目の前にあるチンドン太鼓はオレ達が知るソレより数段豪華だったからだ。


 バスドラに見立てた小太鼓を真ん中に縦置きし、左にタンバリン程の大きさをした薄い太鼓と鼓(小)。右に鼓(中)と鼓(大)が並べてある。

 スネアとタム、フロアタムに見立てたのだろう。

 その斜め上には、お祭りで使う(かね)、確か妙鉢(みょうばち)だったか? が配置されてある。恐らくこれはハイハットだ。

 極めつけには小太鼓の上に小振りの銅鑼(どら)が付いている。

 もはやクラッシュシンバルと言っていい。


「お祭り用の太鼓を利用して、頂いた絵になるべく沿う様に、且つ戦場で動けるようにと輝宗様と知恵を絞った結果です。妙鉢と銅鑼は寺の住職から頂き加工してみました」


「ちょっとごめんなさい……。凄すぎて、僕泣きそうっス」


 チンドンセットを前に膝をつき、目頭を押さえたハル。


「ハルちゃん! ヤバいぞコレっ! スネアに蛇腹付いてんだけどっ!」

「えっ、蛇腹!? 凄い……コレ蛇腹っスよー。感動がヤバイっス……」


 確か絵を描いた後、参考までにと清水さんに少し話を聞かれた。

 その時ハルは蛇腹の事を伝えたのかもしれない。


「それも住職から小振りの数珠を数本頂きまして、ハル殿の要望に極力沿ってみました。叩き棒も同じく、住職から木魚を叩く(ばい)を頂いてきました」


「造った清水さんも、知恵を貸した輝宗さんも、二人ともとんでもない発明家じゃないですか! 住職には少し気の毒な感じがしなくもないですが」


「ユキ、それほどまでに清水が造ったモノは凄いか! それほどむっちゃんの知恵は凄いか!」


「凄いなんてもんじゃないですよ、だって――」


 何百年も時代を超えてしまったんだ。


「ああ、そうだな。とんでもなく凄い。それは俺達が保証する」


 ナツの一言に安堵した清水さんは肩の荷が下りたのか、安堵の息を漏らすとその場に倒れ込むようにして意識を失い、白目をむいたまま大きなイビキを掻いて爆睡してしまった。






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