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坂東の式鬼  作者: 天狗 神


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第二十一話

 翌朝。日の出と共に鳴き出した鶏の声に目を覚ました。


 布団から起き上がり障子戸を開けると、朝焼けに照らされた月山の頂が輝いて見えた。朝霧がゆっくりと最上川へと流れ込んでいく様子が、何とも表現しがたいほどに美しい。


 この時代の夏は、現代と違いそれほど暑くはない。

 朝の冷え込みはそれなりに肌寒く感じるが、新鮮な空気をいっぱいに吸い込むと、何故か身体を動かしたくなった。


 縁側から庭に出て上半身を捻る。

 気が付けば、いつの間にかラジオ体操をしていた。


「ユキ殿、おはようございます」


 不意の声に驚いたが、振り返ると清水さんが縁側から庭へ出て来るところだった。


「おはようございます、清水さん。昨日はご馳走になったうえ、泊めて頂きありがとうございます。おかげで非常に有意義な時間を過ごせました」


 みんなはまだ寝ているだろうから、小声で会話をする。


「それは、一体何をやっておられるんでしょうか?」


 この時代に、体操という概念や言葉はまだなかったのだろうか。

 ラジオ体操の動きが奇妙に映ったのだろう。せっかく気持ち良い朝なので誘ってみることにした。


「教えますんで、一緒にどうですか」

「よろしいのですか! 是非お願いします」


 これは今日一日、身体を上手く操る為の準備なのだと教えた。


 清水さんがやけに熱心に取り組むもんだから、いつの間にか声も大きくなり、気が付けば後ろに大勢いて、みんなで一緒にラジオ体操をする事に。


「何ですかこれは!? 身体がよく動くようになりましたぞ! 肩の痛みも心なしか和らいだ感じがするうえ、やる気が漲ってきますなー!」


「ああ、そうだろう。忍びの秘伝『体操』だからな」


 ナツがまたとんでもない事を言い出した。


「なにっ!? 守棟っ! 城に戻ったら皆にこの『体操』を周知し、毎朝行う様に徹底しろ。これは凄いことだぞ! なんてったって秘伝じゃ!」


「大殿様。これは戦力強化の革命になるかもしれません。早速この新庄地区にも広めたいと存じます」


 そうしてくれと頷いた義さんに続き、輝宗さんまで「城に帰ったら皆に広めるぞ」と若干興奮気味だ。


 オレは、一体何をやらかしてしまったのだろうか。


「まあ健康増進にも繋がることっスから」


 ハルの協力もあり、結局しっかり覚えてもらうまで五回は繰り返した。


「おお、そうだ。朝飯の後、皆大広間に集まってくれ。話しておきたい事がある」


 改まって話したい事とは何だろう。山形城に帰る手筈を整えるとか?


 そんな悠長なことを考えていたオレは、戦国時代というものを全然分かっていなかった。






「明後日、この清水城を出て北に向かう。沼田城を中継し、目指すは鮭延(さけのべ)城じゃ。北方は仙北の小野寺。西は大宝寺との境界に位置する要衝。外交的、軍事的にも絶対に押さえておかねばならん場所だ。鮭延の秀綱(ひでつな)はまだ若いが知勇兼備の武将と聞く。何としてでもこれを従え、周辺国人衆を一気に掌握する。総大将は氏家守棟!」


 志村さんと満茂さんに聞いていた、オレ達と合流する前の話。小国城制圧の成り行きを思い出し、ここは戦国の世だったことを再認識する。


 約三五〇〇人もの兵を長期に渡りこの清水城近辺に留まらせておくのも現実的じゃない。だからこそ、迅速な行動で目的を完遂し、ホームの山形城へ帰還する必要があると理解した。


「今回、どう情報を得たのかは分からんが、坂東から式鬼の四人がこの鮭延攻めに助力してくれる事になった。要は、早く北側をなんとかしろと急かされてるって事だ。目指すは天下統一。信長のおっちゃんが見てる夢はデカイ。それ故に皆の協力が必要不可欠だ。ワシらはその夢の一端を担い、この世から戦を失くし平定する。皆の者、力を貸してくれ」


「はっ!」


 伊達家を除いたみんなが頭を下げ承諾する。


「よっちゃん、儂らはあくまでも政宗の為の見学ってことで同行するよ」

「ああ、もちろんだよ、むっちゃん。政宗にはまだ見せていない戦い方があるからな」

「よしおじちゃん。しっかりと勉強させてもらうよ!」


 鮭延城とやらに辿り着くまでの計画が打ち合せされている中、ハルに色々と聞いた。


「沼田城ってのは、確か僕らの知ってる最上公園っスね。戸沢(とざわ)政盛(まさもり)が新庄城を造る前の城のことっスよ。城って言っても多分、館ってレベルでしょうっスけど。それと鮭延城は、確か真室川(まむろがわ)に城跡があったはずっス。なので目的地はきっとそこっスね」


「ほぇー、ハルちゃん詳しすぎんー? マジスゲーんだけど!」

「ああ、そうだな。困ったときのハル頼みだ」


 脳内マップで換算すると、ここ清水城から目標の鮭延城までは直線で大体二十キロメートル位だ。無理して歩けば一日で着く距離。

 だが、ヘトヘトの状態で敵陣到着では戦略的にダメだ。

 義さんの言う通り、中継の沼田城で休憩するのが正解だろう。


「――それで、ハル、ナツ、アキ、ユキ。お主らが得意とする獲物(武器)はなんだ? 恐らくワシらの想像を超える物を使うんだろうが、清水に用意させるから遠慮なく言ってくれ」


 突然話を振られ「獲物」ってなんだっけ? と思考が固まる。


「俺達が使う獲物はいつも同じだ。だが言葉で伝えるのは少し難しいな。紙はあるか?」


 ナツがまた暴走しているのか、判断が付かない。獲物?

 すぐに清水さんが紙と筆を持ってきて、オレ達の前に置く。


「今から絵に描く。なるべくそれに沿ったものを用意してくれ」


 そう言って筆を持つナツ。筆先に全員の視線が集まる。

 ナツは一体何を描くんだ?


 ナツが描いたのは多分「マイク」だ。

 確かに言葉で伝えるのは到底無理だとしても、絵に描いても無理があるだろう。そもそもアンプは? スピーカーは? その前に電気が存在しない。


 何を考えているのかナツの思考が読めない。

 そもそも何も考えていないのかもしれない。

 清水さんにこれをどう用意させるつもりだ?


「ナツ殿。これは一体どういうものなのでしょうか。全く見当が付かないのですが」


「ああ、そうだろう。だから言葉で伝えるのは少し難しいと言った。後は任せる」


 あろうことか、まさかの丸投げ。


「まあ、あまり時間もない。ハル、アキ、ユキ。絵でもいい、清水に教えてやってくれ」


 この流れで、この無茶振り。

 

 ……ちょっと待て。もしかして、それを持ってオレ達も戦場へ出ろと? 


 結局何を描いたのかって言えば、みんなナツに引っ張られ、それぞれが担当する楽器を描いた。描いたと言うよりは、描かざるを得なかった流れ。


 そもそも紙に筆でベースやギター、ドラムを描くこと自体がおかしい。

 しかもオレに絵心なんてあるわけがない。


「しかし、これまた珍妙なものを。いや、興味深いですなー」


 守棟さんは、絵を描いた紙を眺め、ひっくり返してはまた眺め、難しい顔をしている。


「どうじゃ清水。造れとまでは言わん。明後日までに用意できそうか」


「この清水義氏、必ず用意してみせます。それと、この絵は私が持って行っても?」


「もちろん構わん。時間が惜しい、今すぐ取り掛かってくれ」


「はっ、ではこれにて」


 清水さんが立ち上がると、輝宗さんが「ちょっと話したいことが」と言って一緒に席を立った。


 明後日までに必ず用意すると言った手前、是が非でもなんとかするんだろう。なんだか非常に申し訳ない気持ちだ。


 話が終わり部屋に戻ったが、とりあえず明後日の出発まで何もすることがない。手伝える事でもあればと思うが、間違いなく邪魔になるだけだろう。

 まあ、何もしない一日というのも贅沢な話ではあるのだが、周囲が頑張っているだけに心苦しさが否めない。


「ナっちゃん、流石に楽器は無茶振りだったんじゃーって思うんだけどー」


「ああ、そうだな。だが、義さんの言葉を思い出して欲しい。獲物は何だと聞いたよな。要するに『何の武器を使って戦に出るんだ』って聞いたんだ。じゃあ『刀』でなんて言ってみろ。すぐに用意されて、確実に戦場へ放り出されるぞ? なら、この時代で見たことも聞いたこともない、ましてや造れもしないモノを要求して『用意できませんでした』からの『なら戦うのは無理だ』ってするしかないだろう。清水さんには申し訳ないがな」


 よくそこまで裏を読んだなとは思うが……。少し心がモヤモヤする。


 きっとこの時代の人たちと触れ合った事で、気持ちいいくらいのバカ正直さや、真っすぐな心根に感化されたんだと思う。そして、そんな人たちの気持ちと期待に応えたいと思っている自分がいる。


 もちろん生死が懸かった戦場は怖い。けど、それ以上に嘘をついたり、みんなを騙すようなことをする方が怖いと思った。この時代に生きる人達の為に何かしたいと思ったんだ。


「でも、もし用意出来たとしたらどうするっス? もう逃げらんないっスよ?」


 そう。清水さんは必ず用意すると断言した。

 なら、間違いなく用意するだろう。


「ハルちゃーん。でもそれって逆に激熱じゃーん? この時代に楽器よー?」


 分かるよアキ。逆境に立たされれば燃えてくる感じは、ライブステージと一緒だ。


「ああ。その時は腹を括って戦場でライブをすればいい。俺達は『SHIKI』だ」


 思わず笑ってしまった。

 ナツの言う通り、オレ達は時代が違ってもバンドマン。

 やる事も、出来る事も、何も変わらないんだ。

 全く、コイツは本当にブレない奴で、尊敬に値する奴だよ。


「ナツの言う通り、オレ達はどんな時代だろうが、何処にいようが『SHIKI』なんだ。戦場? 場所なんて関係ない。全てがライブステージ。オレ達の音楽を魅せるだけだ」


 本当は怖い。

 でも、動かないのはもっと怖い。


「ヒューゥ。言うねぇーユキちゃーん。俺ちゃんイチ乗ったー!」

「あ、ズルいっスよアキ。僕も乗るっスよー」

「フッ。俺はハナからそのつもり。始めから乗っていた」


 何だかんだ言って、お世話になった人たちに出来る事を返したいって気持ちはみんな一緒だった。


 そうだよな、春夏秋冬揃ってこその四季。

 それがオレ達『SHIKI』だ。






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