第二十話
「よし、こんなもんだな。政宗、これはオレから……いや、オレ達からだ。貰ってくれ」
刀の鍔と結い紐で作った即席の眼帯を政宗に付け、ついでに髪もオレと同じに結んであげた。
やっぱり伊達政宗と言えば眼帯だよな。
「ほう。刀の鍔なんぞ、何に使うのかと思ったら。これはまた面白そうなことを」
さっきまであんなに酔っ払ってたように見えた義さんが普通に喋ってる。 やっぱり侮れない人だ。しっかり周りを観察していた。
眼帯をし、髪を結上げた政宗に視線が集まる。
「あれ? 俺そんなに変? 似合ってないかな? 折角ユキ兄にしてもらったんだけど」
「テンちゃん……。そんなにカッコ良くなっちゃって! ママにハグさせてーっ!」
有無を言う間もなく、姫さんにがっしりとホールドされた政宗の顔が見る間に赤くなっていく。
「母上ーっ! 人前では止めて下さいとあれほどっ! あっ……」
なんとも微笑ましい図に場が更に和み「坂東で流行っているのか」など皆興味深々だ。
「あ、そうじゃーん! みんなもう一つ忘れてなーい?」
アキが「政宗と眼帯」と言えばコレは必須でしょと思い出す。
「政宗ちゃーん。その眼帯をするとねー、攻撃力と防御力、それとカッコ良さが爆上がりするんだけどー。そんな特別になった政宗ちゃんには特別な『二つ名』が必要だよねー?」
そうだ、すっかり頭から抜けていた。
政宗と言えばこの二つ名がセットだろう。
「独眼竜!」
オレ達の声が重なる。
その響きは何か特別だったのだろうか、皆の目が険しくなった。
「なにそれ! メチャクチャカッコいいっ!」
みんなの感想が重なった。
政宗なんて、何を言われたのか分からない程に呆けてる。
「よしっ、可愛い甥っ子が強く、カッコ良くなるのはワシも嬉しい! 坂東の式鬼よ、その眼帯と二つ名、有難く頂くぞ! 政宗。お前の二つ名は今から『独眼竜』じゃー! 問題ないよな、むっちゃん! 義姫!」
「ああ、もちろん。こうやって子供が少しづつ成長していく様は嬉しい限りだね」
「きゃー、テンちゃんカッコいいーっ! ママも二つ名欲しいー!」
「いや。義姫には既に出羽の鬼ひ……」
「パパ? 今、何を言いかけたのかしらー?」
輝宗さんは何の琴線に触れたのだろうか。
義姫さんが何となく鬼に見えるんだが。
「輝宗殿ー。酒に飲まれても流れに呑まれてしまっちゃーダメですよぉー。余計な一言が漏れてしまう事もありますからなぁー。ヒック!」
「守棟ぇー? あなたも何か言いたい事があるようですねー?」
オレ達は義姫さんに逆らってはいけない事を学んだ。
「俺……『独眼竜』政宗。独眼竜の伊達政宗。スゲェ……カッコいい。スゲェ……」
どうやら政宗も「二つ名」を気に入ってくれたようで何よりだ。
「政宗くん。君は間違いなく義さんや輝宗さんと同じく、歴史に名を残す武将になるっスよ。僕たちが保証するっス」
「政宗。その二つ名に恥じないように、これからをしっかり生きろ」
「分かった。ハル兄、ナツ兄。みんなありがとう、大切にする!」
気が付けば、いつの間にやら宴会染みた騒ぎになっていた。
「どうもっ! 独眼竜政宗でっす! 眼帯は、独眼竜の証。俺の目が疼きやがるぜー」
「あっはっは! 全く似てないっすけど最高っす清水さん。待って、もうムリっすー!」
「満茂も片腹痛いですー! 本物の政宗くんはその千倍はカッコいいですからー」
「しっかし坂東のー、お主らは凄いなー。ウィック! ワシらをこんなにも驚かしてくれるとはなー。信長のおっちゃんには感謝しないとだよなー。んで、しばらくはワシらと行動を共にする予定なんだろー?」
ついさっきまでオレ達への警戒を解いていなかった義さんの口調が砕け、守棟さんや他のみんなに話しかけるものと同じに変わった。
なんか、ようやく仲間内に入れたようで少し嬉しい。
オレ達四人は義さんの周りに集まり、酒を酌み交わしながら話をする。
「ああ、そうだな」
ナツがいつもの調子で返事を返すと、嬉しそうに酒を継ぎ足してきた。
「いいねぇー。ハッキリした物言いは分かり易くていい。それに政宗のこともありがとうなー。他所の方針に口を挟む気はねーけど、アレは大きな期待を掛けられて育ってきたから、子供らしさに少し欠けていた所があった。けど、それをお主らが取り戻してくれたようでワシは嬉しいんだ。本当に」
義さんはとても優しい目をしながら、零れそうな程に注がれたお猪口のにごり酒をグイっと呷った。
「そんなことないぜー、義ちゃん。俺ちゃんたちだってカワイイ弟が出来たようでさ、幸せな気分を貰っちゃってんだよねー」
「アキ!? 流石に『義ちゃん』は距離感バグってると思うっスよ」
「はっはーっ! ワシのことなど何とでも好きに呼べばいいってー。大事なのはそこに心が籠っているかどうかだからなー。上辺だけじゃー何にも響きやしない。……そうだ、ここに来る道中で歌ってくれただろ。アレはいい。いやー心に響いたねー。良いものを聞かせてくれたことに感謝する」
「いや、義さん。感謝するのはオレ達の方だ。ありがとう」
見ず知らずの怪しいオレ達に、こんなに良くしてくれた。
それに、オレ達に足りないモノが何なのか、気付くきっかけをくれた。
「オレ達は義さんらに貰ってばっかりだ。何か、出来る範囲で返せることはないだろうか」
「はい、はいっ! 私はまた皆さんの歌が聞きたいですー! 癖になりそうですー!」
「式鬼の皆様はー、音曲に精通しておられっ、ウィッ! しておられっ、るんですかー?」
清水さんが呂律の回らない様子で聞いてきた。
「これは一曲披露しないとー、な流れじゃーん?」
「是非是非っ! 聞きたいですーっ! ね、テンちゃんもパパもそうですよねー?」
「もちろん俺も聞きたい! 兄ちゃんたちの歌は凄いんだぞ!」
「そうだね、儂ももう一度じっくり聞きたいね。アレは感情が揺さぶられる感じがする」
「お、マジっすか! 俺も聞きたいっすね。是非お願いします」
「もう一度聞けるんですか! 満茂、感激です!」
守棟さんは……と思ったら半分寝落ちしてる状態だった。
なら、ここは騒がしくなく、かつ、この場のみんなに贈りたい、そんな丁度いい曲をオレは知ってるじゃないか。
「分かりました。なら、こんなオレ達に親切にしてくれた皆さんに、一曲贈りたいと思います。海を越えた別の国の言葉ですが、気持ちは伝わるはず」
オレがベースラインを口ずさむと「なるほど、その曲があったな」と、ハルとアキがラインを被せ、優しくも美しいメロディが出来上がった。
なんの打ち合わせもしていないが、現代人ならみんな知っている曲。
そしてナツが歌う。
『When the night ―― has come ――』
オレ達の奏でる歌に目を瞑るみんなには、一体どんな景色が見えているんだろう。
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