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坂東の式鬼  作者: 天狗 神


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第十九話

 オレとハルも蒸し風呂の洗礼を受けた後、涼んでいると晩飯が出来たとお呼びが掛かった。


 この時代にシャンプーやトリートメントなどあるはずもなく、木灰を溶かした水で洗い流した髪はギッチギチ。もちろんセットなど出来やしない。


「やばーっ! ちょーウケるーっ! みんな似合い過ぎでしょ!」


 乾いてボサボサになった髪のままでは、流石に飯の席に行けないだろうということで、貰った結い紐で髪を縛った。


 ナツは、前髪と襟足はそのままに、後ろ髪の一部を束ねたサムライウルフヘア。

 アキは、単純に束ねただけのポニーテール風浪人ヘア。

 ハルは、髪全体を後ろでしっかり纏めたツーブロックアンパンヘア。

 オレは、左側と後ろ髪を纏めて結び、右髪をそのまま垂らしたハーフアップにした。


「中々ありなんじゃないっスか!? みんな強そうに見えるっス!」

「ああ、そうだな。忍びの者、坂東の式鬼という感じがする」

「たはぁーっ! ナっちゃん忍びの者ってーっ! 笑い過ぎて腹捩れるーっ」


 髪の色は何ともしようないが、服装と髪型を変えただけでも、かなりこの時代の人間らしく見えるもんだ。これで無精ヒゲでも生えてくれればそれなりに貫禄も出そうだ。


「んじゃ、みんなを待たせる訳にもいかない。そろそろ行こうか」


 見た目は温泉宿に泊まりに来て、浴衣を纏った現代人の若者だ。


「おおーっ、見違えましたな皆様方」


 座布団に胡坐をかいてそう言う守棟さんは、鎧を脱いだら只の初老の中高年になってしまっている。


「兄ちゃんたち、恰好良すぎだろ!? なんかズルイぞ、俺も真似する!」


「こりゃ驚いた。とんだ男前じゃないか! 義姫がおかしくなるのも分かるってもんだねー」


 その姫さんは、オレ達を見て目を大きく見開いたまま、瞬きも忘れ固まっているようだ。


「おっ、来た来た。皆さんこっちこっちー。俺らの隣り座ってくださいっすー」

「珍しいお話や神通力について、是非この満茂に聞かせてください!」


 手招きする志村さんと満茂さんの近くに座る。


 全員席に着いた所で、馬引きの義さん改め羽州の狐と呼ばれた戦国大名、最上義光。それと新庄地区領主、清水義氏が現れた。


 オレ達が着ている小袖と同じ着物のはずなんだが、放っているオーラというか貫禄はまるで別物。本当にボロを着て馬を引いていたあの義さんなのかと目を疑うばかりだ。


「おっ、皆集まったなー」


 二人が上座に腰を下ろすと、義さんは盃を手にとり挨拶を始めた。


「まずはここまでの道中、何事もなく、よく皆無事に辿り着いた――」


 そうだ、オレ達はあの場で偶然この人達に出会ったんだ。

 偶然と勘違いが重なり合って今ここに居る。

 もし、出会っていなかったらと考えると……。


 いや、止めよう。

 偶然の巡り合わせと、皆の親切に感謝をしよう。

 このありえない幸運に感謝をしよう。


「――それでは、乾杯!」


 義さんの発声で、盃に注がれたにごり酒を一気に喉に流し込む。


 蒸し風呂で抜けた水分の代わりに、全身に酒が染みわたっていく感覚。

 ビールモドキとは比べ物にならない旨さだ。

 何故か分からないけど、少し涙が出た。


 そこから堅苦しさは一切なかった。

 これも義さんの魅力の一端なんだろう。

 周囲に人が集まり、慕われる理由が分かる気がする。


 それに、オレ達の事に関して一切何も聞いてこないところをみると、上っ面やその場限りの言葉じゃなく、言動を見て判断してるってことか。


 多分、他人の心の機微に聡いんだと思う。

 オレ達に何かを質問し情報を引き出す事で、苦手意識を持たれることを避けているように感じる。

 聡いがゆえに人の心を掌握する術にも長けざるを得なかった。そういう事なんだろうか。


 おそらく、タイミングを待っているんだろうと思う。

 だからこそ初対面の怪しいオレ達に対し、こんなにも大きく構えていられることに納得がいく。相手の自発的な行動を巧みに促しているんだ。

 羽州の狐と呼ばれただけの事はある。知将、いや、謀将か。


「殿ーっ。何事もなく皆無事という訳でもないでしょーが。蔵増の光忠が怪我を負ったこと、まさか忘れた訳じゃありませんよねぇー? ヒック!」


「守棟さん酔っ払うの早すぎっすよー。清水さんだってまだ崩れずに我慢してんすから」


「そんなっ、ことありませんよ志村さーん。私はこれっぽっちも酔ってなんかーないっ」


「ちょっとちょっとー。相変わらず酒に弱いのぉー清水はー。まだ始まったばっかりじゃんよー。むっちゃんも飲んでるぅー? 楽しくいこうぜぇー楽しくぅー。ウィック!」


 羽州の狐……だよな? どっからどう見ても素に見えてきたんだが。


「パパ! 私もテンちゃんと一緒に式鬼の皆さんに混ざってきてもいいわよね! ね?」

「もう少し待ってあげよう? 政宗があんなに懐いてみんなと楽しそうにしてるんだ」

「んむーっ。仕方がありませんねー。もう少しだけですよー」


「で、政宗は誰の髪型を真似したいんだ? もちろん俺だろ?」


 サムライウルフヘアを見せつけるナツ。

 

「いやー、そこはやっぱり髪が邪魔にならない様に僕のを真似して欲しいっスねー」

「いやいや俺ちゃんのポニテがいっちゃん簡単だし、カッコよくなーい?」


 みんなの髪型をじっくり見ながら悩む政宗だが「よし!」と一言。


「俺はユキ兄の真似をすることに決めた!」


 崩れ落ち、悔しがる三人を見ながら勝利のポーズを決める。

 嬉しいのはもちろんだが、何故オレを選んだのだろうと、どうしても気になり聞いてみた。


「だってほら、俺の右眼こんなだし」


 特に隠していた訳ではないだろうが、髪をかき上げてみせた政宗。


 なるほど、オレの髪型を真似すれば多少は隠せると言う事か。

 伊達政宗と言えば確かに隻眼のイメージだ。

 しかしなんだろう、今の政宗とはどこか違和感がある。

 頭を捻っているとハルが答えをくれた。


「ユキ。アレじゃないっスか? 眼帯」

「それだ! 流石ハル、頼りになる!」


 話が見えてこない政宗が頭を傾げる。


「政宗。お前にいいのをやる。ちょっと待ってな」


 大分酔いが回っている義さんと清水さんにお願し、あるものを工作する為に欲しいものがあると相談した。






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