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坂東の式鬼  作者: 天狗 神


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第十六話

「はいはいっ! あのっ、皆さんのお名前を伺ってもよろしいでしょうかー!」


 手を上げ、次は私の番とでも言うように質問をしてきた女性。


「いいよー。俺ちゃんはねーアキだよー。よろしくねー」

「僕はハルキっス。ハルって呼んでくださいっス」

「俺の名前はナツキだ。ナツでいい」

「オレはユキ。『SHIKI』の()()()()()()だ」


 リーダーと言っても通じないだろう。

 なぜならここは……いや、この時代は、オレ達が知る現代日本なんかじゃない。

 理由は分からないけど、オレ達は戦国時代にタイムスリップしたんだ。


「ほら、むっちゃん! 全員『キ』って、『鬼』って入ってるし! ん? 四人で四鬼(しき)か?」


「アキさんにハルさん、ナツさんにユキさんですねーっ。ありがとうございますー! 私は義姫っていいますー。どうぞ『姫』って呼んでくださいねーっ!」


 この時代も現代と変わらずイケメンには弱いのだろうか。

 むしろ、現代より食いつきがヤバイ気がするのはオレだけか?

 いや。今はこの義姫さんの好意、オレ達の立ち位置的には助け舟だ。


「りょうかーい。姫ちゃん、かわうぃーねーっ!」

「姫。何か困ったことがあったら俺、ナツに言ってくれてもいいんだぜ」

「二人とも調子良くてすんませんっス。でも、いつでも気軽に話しかけてくれると嬉しいっス!」


 三人が、ありきたりでベタな社交辞令を返すと、姫さんはまた悶絶し、幸せそうな表情を浮かべながらひっくり返りそうになった。


 理知的に見えた男性が義姫さんの背を支えると、オレ達に厳しい目線を送ってきた。


「お主ら。甘言で惑わせ、儂の義姫に手を出したら容赦せんぞ。儂の名は伊達輝宗。この義姫は儂の妻じゃ。努々(ゆめゆめ)忘れることのないようにな」


 理知的どころか、めちゃくちゃやきもち焼きで好戦的だった。


 ……ちょっと待て。今何て? 伊達?


「だっ、伊達の輝宗ぇー!?」


 オレとハルの声がハモる。

 アキとナツは「伊達って仙台の?」とか言ってる。


「父上、威圧も程々に。母上がここまで警戒心薄く近づいた所をみると、悪い者たちではないのでしょう」


 ん? 父上? 伊達輝宗の息子? は? 隻眼!? それって……。


「だっ、だっ、伊達政宗ぇーっ!?」


 またオレとハルの声がハモる。

 アキとナツは「おおーっ、政宗なら知ってる」と暢気だ。


「なるほど、情報にも通だ。よっちゃんの言う通り、やはり坂東の式鬼と言う訳か。のぶおじさんも粋な計らいをしてくれたね。まあ、伊達家の内情が漏れているなら今更か。政宗の言う通り警戒するのもアレだな。そうだ、お主らはこれから何処へ向かうつもりだ?」


 さっきの剣幕と圧は何処へやら。


「オレ達は新庄に行こうとしていたところだが」


「あははははっ、いや驚いた! どれだけ先を読まれているのか底が知れないな。これも何かの縁か導きなのだろう。実は儂らも新庄、清水氏の城へ向かう所。どうだ、一緒に」


 こっちとしては怪しい記憶の地図を辿っていくよりも確実だ。乗るに決まってる。


「ああ、こちらこそよろしく頼む」


 伊達輝宗と政宗、それと知らないお爺さんとオレ達は握手を交わす。


「ん? ハル、ナツ、アキ、ユキ……春夏秋冬で四季(しき)か?」


 一番偉そうだった汚いおっさんは、何かブツブツと独り言を言っていた。


 オレ達はそれぞれ別の馬に相乗りさせてもらい移動することに。


 さっきのお爺さんのような人は、この集団の総大将で氏家守棟というらしい。名前を聞いたハルが「どっかで聞いた事あるんスよねー。うーん」と唸っていた。


 馬に乗ったアキはテンション高く何かと騒がしい。

 汗臭い男の腰を必死に掴んでいるナツの表情は既に死んでおり論外だ。


 この時代にしては奇妙な服装に興味を持ったのか。それとも男にしては女性のような見た目や髪形に興味が惹かれたのか。歴史上の超有名人、伊達政宗が先程から何かと話しかけてくる。


 見た目はまだ十代半ばといった所。

 オレに弟がいたとしたら、きっとこんな感じなのだろうか。


「なあ、ユキ兄って呼んでもいいか? ユキ兄にハル兄。アキ兄にナツ兄!」


 そんな風に言われてダメだなんて言えるわけがない。いいに決まってる。


「かぁーっ! 政宗ちゃんめっちゃイイコー! 弟に欲しいくらいだわーっ」

「政宗、何か困ったことがあったら俺、ナツ兄に言ってくれていいんだからな」

「政宗くん。よろしくっス! ハル兄って呼んでくれて嬉しいっスよ」

「オレ達のことは好きに呼んでくれていいぞ」


 政宗に拳を突き出すと、コツンと拳で突き返し、照れ臭そうに笑った。


 目を覚ました義姫さんも「私も私も!」と騒ぎ出し、輝宗さん、それに一番偉そうな汚い格好の義さんっていうおっさんと、気弱だけど面倒見が良さそうな茂兵衛さんも加わり、結局大勢と挨拶を交わす事になった。


 特に年の近そうな志村さん、楯岡さんとはメンバー全員親しくなれたと思う。


「なあ、兄ちゃんたちっていつもどんな事してんだ?」


「おっ、政宗ちゃんからナイスな質問いただきましたーっ」

「僕たちは大抵いつも音楽の練習をしてるっスよ」


音楽(おんがく)? それって音曲(おんぎょく)とは違うのか?」


「政宗、音曲っていうのはなんだ?」


 ナツが、音曲って言うものについて政宗に教えてもらう。

 要は大して現代の音楽と差はないが、伴奏が三味線とか琵琶とか、そういった音を伴う芸能全般を指すようだ。


「ナツ兄。逆にその音楽ってやつ、俺に教えてよ」


 政宗のその言葉に、周囲のみんなが興味を持ったようで、オレ達に視線が集まった。


「オーケー、オーケー。そんな政宗ちゃんのリクエスト。俺ちゃんたちは応えちゃうよー」


 前奏のようなアキの振りに、オレ達は不敵な笑みを浮かべる。


 時代はどうあれオレ達はバンドマンだ。奏でる音に時空のズレなんか関係ない。熱いハートを叩きつけるだけだ。


 ハルの、鎧を使ったハンドドラムから始まったこの時代にはない旋律。それにあわせてオレとアキもボイパを被せる。

 奏でられたメロディにナツの歌が乗り、風と共に流れるバラード。


 三曲ほど披露すると、場所は小国川が最上川に混ざり合うところに差し掛かり、周囲の皆が驚きの表情と盛大な拍手でオレ達の演奏に歓声を上げた。


 やっぱり、時代は違っても音楽は響くんだ。


「なー? 面白い事になってきただろー」


 馬を引きながら小枝を振る義さんが、何故か得意げにそう言って笑ってみせた。






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