第十五話
馬丁姿から本来の上等な鎧姿へと戻り、総大将然とした守棟。まさか今まで馬引きに化けていたとは誰も気が付かず、一体どこから現れたのかと皆不思議がった。
小国城を朝早くに出発した最上軍の一行。三五〇〇人の兵は小国川に沿って西へと移動し、清水義氏の治める新庄地区、清水城へと一路向かっていた。
「守棟様ーっ!」
先程、これから清水城へ向かうと走らせた伝令の一人が本隊に戻ってきた。
「どうした、山賊でも出おったか」
「申し上げます! この先の道中にえらぐ奇妙な格好をした怪し気な若げぇもんが四人。一応足止めしておいでますが、如何致しましょう」
むしろ山賊の方が分かりやすかったのにと思う守棟。
どうしたものか、ここは殿に伺いを立てるのがよかろうと思い、義光に聞こえるように声を上げる。
「なにー、奇妙な格好をしたー、怪し気なー、若者だとー?」
棒読みの言葉と共に、守棟の馬を引いている馬丁姿の義光にチラッと目くばせし、伝令の言葉を復唱した。
だが肝心の義光にはその声が聞こえていないのか、鼻くそをほじって飛ばしている始末。
「しかもー、四人だとぉー?」
もう一度大きく声を上げ、チラッと目くばせするが届いていない様子。
刀の鞘で頭を小突いてやろうかと思った所、輝宗の馬が近づいて来た。
「おっ、輝宗殿。伝令聞こえておられましたか」
「うん。こんな何もない道中で、しかも山賊じゃない奇妙な格好をした若者っていうのが妙に気になるね。一度、何者か確認しておく必要があると思うよ」
馬を引きながら一体どこで拾ってきたのか、楽しそうに小枝を振り回し、ウンウンと頷く義光に「聞こえてるんじゃないの!」と、鞘で頭を小突こうとする守棟。
そんな守棟の代わりに馬丁となったのは茂兵衛だった。
足軽から一転、馬引きを命じられたのだから一般的には降格である。
足軽から雑兵を飛び越して馬丁への二階級降格。
そんな扱いにも一切めげず、今は輝宗の馬を引きながら、義と一緒に歩いている。
「それもこれも、突然居ねぐなった棟さんのせいだズ。まさが、昨日の戦で死んだが?」
多少怒って言葉は荒くなっているが、姿が見えなくなった守棟の心配をするあたり、やはり心根は優しいようだ。
「はっはーっ! まあー、そう悪いもんでもないぜぇー。きっといい事あるってー。果報は寝て待てって言うだろー? 清水城までは距離も時間もたっぷりかかる。楽しんで行こうぜー茂兵衛。それに、棟はああ見えてもしぶといからなー。はっはーっ!」
陽気に「ようこそ馬引きへ」とでも言うようにおどける義光。
しばらく進むと前方に人影が見えてきた。
「守棟様。あれが怪し気な者だぢです」
伝令役はそう言うと、本隊の到着を知らせる為、前方の集団へと馬を走らせた。
遠目から見ても分かるその異質感。
見た事もない奇妙な服装に、何よりもその女子のような整った顔立ちと髪型。スラっと伸びた長い足に線の細い体つき。なるほどこれは妖し気だと感じとる義光。
同じく遠目から凝視していた義姫から「んん゙っ!?」という女子から出てはいけないような声が漏れ、突然前のめりに身を乗り出した。
「これは一大事な感じがします! 早く、早く向かいましょう!」
いつもより早い口調で急かし、その表情は鼻息荒く、大きく目を見開くのだった。
「義姫!?」「母上!?」
急かさせるまま早足に進んだ本隊だが、怪し気な四人を前にすると、その奇妙さに圧倒されどう切り出したら良いものか躊躇する。
ここは立場的に自分が口火を切らねばと、守棟が咳ばらいを一つする。
「お主らは何モンじゃ。こんな真昼間から妖の類と言う訳でもなかろうが……そもそも人間か?」
そんな咳払いなど耳に入らなかったのか、義光が小枝を突き付け質問を投げかけた。
総大将の守棟よりも先に馬引きが口を開いたものだから、隣で慌てて止めようとする茂兵衛。
「だーい丈夫、大丈夫。まあ見とけってー。面白い事になりそうだからよー」
好奇心溢れる感情が、頬と口端を上げていく。
怖い人たちがいっぱい来ると言われ、多少は緊張していたオレ達。
だが、圧を感じたのは馬と鎧兜という見慣れないモノに対してだけ。
人から向けられる好奇の感情や視線は、今までこなしてきたライブの方が格段に上だった。
だから、もう緊張は一切ない。
問われた事に対し、オレは答える。
「あー、まあそうだな。人間だ。ナニモンかって言われれば――」
「俺達は! バンドの『SHIKI』だ!」
キメポーズと共に格好つけたナツが、間を割って入ってきた。
ついでに髪もかき上げた。
馬に跨った綺麗な女性から、何故か「ん゙んーっ!?」と悶絶したような悲鳴が聞こえた気がした。手を伸ばしジタバタと馬から降りようとしている所を男二人が押さえている。
「ばんど……? しき? なんじゃそれは。いや待て……。坂東の……式鬼?」
「そうっス、僕たちはバンドの『SHIKI』っスよ」
「なにーぃ! 『坂東の式鬼』じゃとぉー!?」
何故か一番汚い恰好をしたおっさんが、一番偉そうに話を進めてくる。
どっからどう見ても質の良さそうな鎧兜を纏ったお爺さん? の方が身分が上に見えるんだが。
何か違和感があると思い見ていると、女性を押さえていた理知的に見える男性の一人が近寄ってきた。
「いやいや、よっちゃん流石にそれは。坂東って言ったら関東だよ。もし徒歩だとして、どんなに早くても十日以上は必要だ。なのにこの者たちは見ての通り、手ぶらなうえ草臥れた様子も一切ない。どう考えても不自然……いや『坂東の式鬼』という名……もしかしたらありえるのか? なるほど面白い……。うん。お主たちに一つ聞きたい。一体何処からやってきた」
何処からも何も、目が覚めたらここに居たとしか言いようがない。
「俺ちゃんたちー? 確かねー、あっちの方から歩いてきたかなー」
アキが、川沿いに歩いてきた方向を指差す。
「ふむ、確かに。福島から吾妻を越えて米沢経由で来るより、陸奥に入って大崎を通ってくる方が理に適っている。……そうか、読めた。なあ、よっちゃん。もしかしてのぶおじさんが手練れを送ってくれたんじゃないかな? それなら坂東の式鬼の名にも納得がいく」
「えー、何にも聞いてないけどなー。信長のおっちゃん、早く出羽を押さえろって催促のつもりかぁー? 確かにひでちゃんも、やっちゃんも今忙しそうだしなー」
何か、とんでもない偉人の名前が出て来た気がするんだが……。
オレ達、大丈夫なのか?
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