第十四話
何だかんだ騒ぎつつも「じゃあどうしようか」という話になり、結局何も分からない事に変わりはないので「とりあえず歩いて移動してみよう」に落ち着いた。
ジャンケンで勝ったナツの勘で、川沿いに西へ進む事になったオレ達だが――
「車の音も飛行機雲も、それどころか標識すら見当たんないんですけどー」
「ノド乾いたっスねー。どっかに自販機ぐらいなら置いてるかもっスー」
「ああ、そうだな。けどその前に、電柱も電線も無いな」
ナツの言う通り、確かに現代文明を感じるものが一切見当たらない。
「ド」が付く程の田舎にしても違和感がある。
「とにかく、歩いてみるしかないだろ」
自分で言っておきながら、王道時代劇の主題歌にある一節「泣くのが嫌ならさあ歩け」が脳裏に浮かんだ。上手いこと言ったもんだと、パンチの効いた歌詞が身に染みる。
アスファルトで舗装された道路を歩き慣れているせいか、砂利道がこんなにキツいとは思ってもみなかった。
けど、ライブ後に革靴からシューズに履き替えていたオレ達は、まだラッキーだったのかもしれない。
数キロは進んだだろうか。時計は正午を回り、太陽は容赦なく照りつけてくる。もし歩き難かったらと考えると、背中に寒いものが走る。そんなことを考えながら歩いていると、ハルが何かに気が付いたようだ。
「みんな、ちょっとアレ見て欲しいんスけど。見覚えないっスか?」
ハルが指差す方向に目を向けると、遠くに見える山の頂には雪がくっきりと白く見えている。やけに形の整った見目のいい山だ。この日照りの中、まだ雪が残っている。かなりの高さがあるんだろう。あんな山に見覚えなんて……。
「富士山!?」
三人の声が重なった。
なぜ富士山が見える? ここは山形県じゃないのか? 頭が混乱する。
「いや、多分アレは出羽富士『鳥海山』っスよ。んで、ちょっと分かり辛い感じっスけど、斜め左に見えるあの山が『月山』で、僕らの右後ろに連なってる山が『神室連峰』に見えるんス。それと、さっきからこの川に沿って歩いてるっスけど、位置関係からして『小国川』っスよね?」
言われて気が付く既視感に、大きく膨れ上がる違和感。脳内で展開されていくマップを信じるならば、ここら辺に大きな交差点と橋があったはずだ。
これは一体どういう事だ? 舗装道路どころか記憶にあるはずの建物も街並みもない。視界に入るのは砂利道と林と田んぼだけ。気持ち悪い焦燥感が襲ってくる。胃液が逆流してきて吐きそうだ。
……いや、まだだ。
田んぼがあるってことは少なくとも人間は居るってことだよな。
落ち着け、考えろ。何が起きてるのかを。
ハルもアキもナツも、眉間に皺を寄せながら頭を捻り、しばらく立ち止まっていたら聞き慣れた音がしてきた。
リズムよく大地を叩くような連続音。
周囲を見回し耳を傾けると、オレ達が歩いてきた方向から聞こえて来るようだ。
「なんスかね? 変わった8ビートっス」
土煙を上げながら、かなりのスピードで近づいてくる何か。車ではないそれを皆で凝視しながら、道の端へと体を寄せる。
音が近くなると、ソレはオレ達に気が付いたのか速度を下げ始めた。
近づいて来る三人の男。
乗り物は荒い息を吐き「ブルルッ」と軽く頭を振った。
「おい、オメだズ! この先さ行ぐ……なんだぁ? えらぐ奇妙な格好しったんねがー?」
声を掛けて来た男たちは、鎧兜を着用し腰に刀を下げていた。
これはもしや「武士」というものではないだろうか?
癖の強すぎる方言と、この科学の時代に馬? いや、その前に流石に帯刀はダメじゃないか? 頭の中が真っ白になる。
「よし、オメはこのまま清水様さ伝令ば伝えに行げ。儂は急ぎ本隊に戻ってこいずらの事ば伝える。んで、ほっちのオメはこごで本隊が到着するまで見張っておれ」
「はっ!」
素早いやりとりが行われると、一人の武士はオレ達が進んでいた方向へと馬で駆けて行った。
それから何が起きたのかというと「その奇妙な格好はなんだ」「どこから来た」「どこへ行く」など、矢継ぎ早に質問されたまではいいとして、返答したアキの会話が最悪だった。
「はぁ? 知らねーっつーの。俺ちゃん流石にこんな田舎初めてだしー? どっから来たっつーよりも、どうしてこうなったーって感じ? ってか何それコスプレ? マジやばー。おっさんたちこそどっから来たん? 近くに駅とかバスとかタクシーあるとこ知らなーい? その前にここって何処?」
何を言われたのか、おそらく理解はしていないだろうと思う。だが、何かとんでもない珍種を発見したみたいな勢いで、来た道を戻って行ってしまった。
オレ達にしてみれば、戦国武将のような恰好をして馬に乗っていようが、言葉が通じる人間に会えたという安心感が大きかったのかもしれない。それでアキも少し気が緩んで、軽口をたたいてしまったってところか。
「しっかしオメさんだズ、おがしげった格好しったズねー。初めで見だっちゃー」
なんともアクが強すぎるが、聞き覚えのある方言。
「……あの、もしかして山形弁ですか?」
会話が可能なら、何か情報を得られるはずだ。そう思い、オレは現時点での共通点を話題にした。
「おっ。なに、山形弁わがっかしたぁー。ほいずは助かるっちゃー。んだばすまねげっともよ、本隊来るまでしばらぐおどなしーぐ待ってでけろなー」
非常に訛りと濁りが強く、聞き取り難いが分からない程ではない。
「えーっと。はい、分かりました」
「え、ユキちゃん聞き取れんのヤバ」
「アキ、俺もヒアリング出来るぞ?」
「むしろアキは何で聞き取れないんス?」
これからオレ達はどうなるんだ? 本隊ってなんだ?
「あの、ここはオレの記憶だと新庄の近くなはずなんだが」
「んだー。こっから三里も行ぐど清水の城さ着ぐー。なに、新庄さ行ぐどごだったんが?」
「おー、それそれーっ! 俺ちゃんたち新庄に行きたいんよー!」
アキも片言の単語なら聞き取れたようだ。
というか、清水の城? ……城!?
「んだば丁度いいっちゃー。本隊来たら一緒に……おっ、来た来た! いいがオメさんだズ! おっかね偉い人だぢいっぱい居でっから、斬らんねようになっ!」
斬られる? 斬られるって……刀でか!?
鎧兜の武士に馬。刀と言葉に城。それに三里!?
「戦国時代……なのか?」
舗装されていない道。
電柱も電線もない。
あるはずの建物がない。
山の位置関係もそうだ。
さっきの会話で山形の存在も新庄の地名も通じた。
ここは……オレ達の生きている時代よりずっと昔なんじゃないのか!?
「タイムスリップしたってか……!?」
冗談じゃない! そもそもここはいつなんだ!? どうしたら元の時代に帰れる!?
「まあ、そうなるだろうな」
「あ、やっぱりっス? なんとなくそうかなーって思ってたっス」
「は? えっ、マ!? もう映画じゃーん! ってか、三里ってなに?」
ああ、こりゃダメだ……帰れる気がしない。
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