第十三話
……あれ? いつの間に寝た? どうやって家に帰ってきた?
瞼越しの光がやけに眩しく感じる。
滑った湿気が纏わりつく夜だったはずなのに、頬を撫でる風が心地いい。
……って、風?
おいおい、まさかあのまま道路で寝落ちたってか?
通報されて警察の厄介になってしまう前に起きなきゃヤバいぞ。
まだ眠い目を無理やりこじ開けたユキ。
身体を起こそうとすると、砂利が突き刺さるように背中とケツをゴリゴリと押してくる。
「痛っ! 何で砂利なんか……。はぁっ!? なん……だよ、これ」
周囲を見渡すと、砂利道に雑木林、田んぼに山と川。みんなも隣に寝転がっているのが分かった。
死んでたりしないよな? と思い、呼吸を確認すると息はある。
「よかった、とりあえず無事か……じゃねぇよ!」
待て待て、違うだろ! 何が起きた!? ってか、ここは何処だ!?
早打つ鼓動が呼吸を焦らせ、混乱を呼び思考が定まらない。
呼吸を整える為に無理やり深呼吸する。
やけに新鮮な空気が肺を満たすと、徐々に動悸も治まり落ち着いてきた。
確か、居酒屋を出てから――
周囲へ注意を配りながら、多少あやふやではあるが記憶を遡る。
間違いなく繁華街から少し外れた場所で座ったよな?
それがどうして田舎の風景になってんだ?
誰かに拉致られてこんな所に捨て置かれた?
いやいや、そんな意味のない事をしても仕方ないだろ?
まさか……物取りか!?
慌てて立ち上がり身体中を調べる。
スマホに財布、腕時計もちゃんとある。怪我もしていない。
じゃあ一体何だ?
「おいっ! みんな起きろっ! ヤバい事になってんぞ! 起きろっ!」
大声を上げながら、みんなを強く揺さぶって起こした。
「んぁ……。ユキおはようっス。僕いつの間に寝てたっスか?」
「んんー……っ。俺ちゃんもうちょっとだけ寝かしてー……って、身体痛ったぁーっ! ……あれ? ユキちゃん……ここ何処?」
そして、無言で起き上がったナツが、寝ぼけ眼で周囲を見回す。
「ユキ……どうなってる。ここは?」
どうやら、この状況について、誰も知らないようだ。
「オレも、ついさっき目を覚ましたところだ。この場所にも全く見覚えがない。誰かのイタズラ……にしては手が込み過ぎてるし、犯罪……にしても全く被害がない。かなりおかしな状況だと言える」
「うっわ、スマホ圏外じゃーん!? ネットもダメぽい! マジでヤバくなーい!?」
そうだ、スマホがあった。気が動転していて存在を忘れていた。
「ハル! 確か最新型の衛星通信スマホだったよな! 現在位置、確認出来ないか」
「それが……僕のも圏外ってなってるんス。有り得ないんっスよ。よっぽど地下にでも潜らない限り、繋がらないなんて事……。変な事言うっスけど、ここ……ほんとに地球……なんスよね? よくある異世界転移とか……なわけないっスよね」
「ちょ、ハルちゃん怖ぇー事言うのやめてー!? マジ冗談に聞こえないって! つか、マジでどうやって帰んのー!? あっ! ちょっと待って! その前に確認だけさせてー!」
かなり混乱している様子のアキ。
何せこの状況だ、分からなくもない。
……って、確認?
おもむろに両手を前に突き出し、大声で叫び出したアキ。
「ステータス、オープンッ! ステータスウィンドーッ! 状態表示っ! えーっとあとは何がある!?」
まさかの言葉に、まさかの何かが起きてしまうのかと思い、思わず固唾をのんで身構えてしまった。
「何も起きない……っスね。思わず期待したじゃないっスか! さっき『怖い事言うのやめてー』って言ってたのは誰っス!? そもそも異世界転移なんてバカな事が現実で起きるハズがないんスよ!」
「ええーっ! その可能性言い出したのハルちゃんなんですけどーっ?」
「ああ、そうだな。そもそも異世界に田んぼってのも、ミスマッチ過ぎるだろ」
半ば躍起になっていたアキも、周囲の田んぼを見渡す事で少し落ち着いたのか、その可能性を諦めたらしく、大きな溜息をついた。
「確かに。こんな純和風な田園風景で金髪イケメンの甲冑着た騎士とか、王族貴族の豪華な馬車から、縦巻きロールなお嬢様なんて登場したらナツの言う通りミスマッチだ。それに、言葉が通じなかったら詰むだろ。もっと現実的に考えてみんなで家に帰ろう」
「いや、ユキ。縦巻きロールなお嬢様ならセーフだろう」
「ユキちゃん。縦巻きロールな金髪お嬢様ならよくなーい?」
「ナツ!?」「アキ何言ってるっスか!?」
オレまで溜息をつきたくなってきた。
さて、何をどうしたものか。
「よし。まずは、現状を把握しよう」
とは言ったものの、分かる事柄は多くない。
なので、とりあえず並べてみることにした。
ここが何処なのか全く見当がつかない事。
正確かは別として、かろうじて腕時計は動いている事。
今は午前十時ちょい前である事。
太陽の傾き加減から方角は分かる事。
「要は、時間と方角以外は何も分からないって事で合ってるっス?」
「ちょ、だからハルちゃん怖い事言うのやめてー!? これじゃまるで、俺ちゃん達『遭難』したみたいじゃん!?」
「ああ、そうなんだな」
「なるほど。そうなんスね」
「おい、やめろ。そこはいつも通り『ああ、そうだな』で頼む!」
この状況でベタなボケをかました二人に思わずツッコんでしまった。
だけど、そのマイペースさに助けられたとでも言うのだろうか、このおかしな現状は何一つ変わっていないというのに、みんなの調子が戻ってきた。
「まともなのは俺ちゃんとユキちゃんだけじゃーん! キビシーっ!」
「待てアキ。お前さっきステータス云々って叫んでただろうが」
「ユキちゃん、キビシーっ!」
「ユキはもう少し自然な感じでツッコミが出来るようになった方がいいっスねー」
「いや、そこ目指してねぇーからっ!」
「あ、そうそう! それっス! そんな感じっス!」
「ああ、そうなんだな」
「だから遭難言うのもうやめてぇー!? マジで洒落にならないからぁーっ!」
ご覧いただき、ありがとうございます。
『 面白かった 』、『 続きが気になる 』と思った方は
「 ブックマーク登録 」や「 評価 」して下さると励みになります。
よろしくお願いします。




