第十二話
怪我を負った光忠が横になっている部屋で、今後の事について話し合いが行われた。
集まったのは「最上義光」「氏家守棟」「志村光安」「楯岡満茂」そして「伊達輝宗」。
「まずは光忠。此度の戦……見事だった」
もっと吐き出したい想いがあった義光だが、グッと堪える。
「はっ。有難き幸せ。ですが某、殿の意向にそぐわない間違った判断も多かったはず。何が正しかったのか分かりませぬゆえ、何卒教えて頂けませんでしょうか」
刺された脇腹が痛むのだろう。
無理に身体を起こそうとした光忠の表情が歪む。
「無理をするな。お前が今やるべき一番は、怪我を治し健康になることだ。それと、お前は何も間違ってたりせんよ。現にワシは一度も口を挟んでおらんぞ。お前に全て任せると言った事に嘘はない。早よう治して、またワシに早よう揶揄われろ」
「はっ! 楽しみにしておきます」
余程疲れているうえに無理をしたのだろう。そう言うとそのまま眠りについた光忠。
「それで、殿はこれからどう動くつもりなのですか。儂が預かった五〇〇の兵も只の護衛要員……という訳ではないんですよね?」
「まー、よっちゃんの事だからさ、既に考えあっての事なんだよ。儂が頼んだオーダーのひとつ『ガチの戦』は、今回しっかりと政宗に体験させることが出来た。ということは、残る二つの『戦わない戦』と『楽しい戦』のため、ってところだろうね」
「流石むっちゃん。読んでくるねー」
悪い笑顔で語り合う二人。
「殿と輝宗様、ホント仲いいっすよねー。親戚っていうよりかは、兄弟って感じっすー」
「ちょ、志村。言葉使いっ! 流石にマイペース過ぎだと思う」
ユルい志村とは対照的に、少し緊張している感じのこの男「楯岡満茂」は、義光の家臣で楯岡家当主。志村光安とは同い年の幼馴染。
主君に対する言葉使いを窘めたのはいいが、何やら汚物でも見るかのようなしかめた表情で疑問を投げた。
「ところで……殿と守棟様は、何でそんな臭ってきそうな馬引きの格好してるんです? 満茂に教えてください」
逆に志村が「お前のがマイペースだわ」と満茂の後頭部を何度も叩くが、ブレる様子は全くない。
「はっはーっ! この格好してるとな、何処に出歩いても誰もワシだとは気が付かんうえに、様々な愚痴から最近の話題やら噂がバンバン入ってくる。なっ、守棟。どうじゃ、うらやましかろうー」
おおきくかぶりを振りながら「いえ全く」と返す二人。
「なっ、守棟。じゃないですってー! あんたの趣味に付き合わされてる儂の身にもなってくださいよ! おかげでこの数日間まともに身体も拭けやしないじゃないの! もー臭くて臭くて。ほらっ! 臭いでしょーが、ほらっ!」
「ちょっ!? マジ臭いんでこっち近寄らないでくださいっす! あ、殿もっす!」
「光安のそういう物怖じしないとこワシ好きだなー! どうだ、光安と満茂も一緒にこの格好して外行こうぜー!」
義光は二人に詰め寄り、無理やり着物を脱がせようとする。
「ちょっ、あっ、殿!? てか臭っ! みみみ、満茂はそういうの間に合ってますんで。どうぞ守棟様と二人で楽しんでください!」
「それも悪くないっすけどー、今はもっと大事な話しないとっすよねー」
「二人とも、つーれーなーいー」
怪我人が寝ているというのに、お構いなしの大騒ぎ。
布団で横になり、目を閉じながらも徐々に眉間に皺が寄っていく光忠と、その様子に笑い転げる輝宗だった。
「ワシの考えはこうだ」
ひとしきり騒いだのち、やっと話が先に進む。
「まず、光忠の怪我が完治するまで、光忠と兵五〇〇人にはしばらくこの小国に滞在してもらうことになる。もちろん、その間にしっかりとこの領地を平定してもらうつもりでな。次に、それ以外は守棟を総大将にして軍を組み直し、新庄地区、清水義氏の所に向かう。何の為にって言うのはもう少し先のお楽しみだ。忙しくなるが、明日出るぞ」
連日の移動からの戦だったというのに、明日にはまた次の目的の為に移動すると言う。義光は、悪だくみを含んだ悪戯な片笑みを浮かべた。
「流石はよっちゃん、面白い。残り二つのお楽しみって訳だね」
「やっぱり、むっちゃんに隠し事はムリかー」
肩を揺らしながら通じ合う二人の間に、守棟が挙手をし割って入った。
「……総大将は儂って言ったように聞こえたんですが。……明日?」
何やら面倒臭いことになりそうだと感じた志村と満茂。お互いの顔を見合わせ、視線で会話し相槌を打つ。
「んじゃー俺らは早めに休んでおきますんでー、皆さんお疲れっしたー」
「それでは殿、守棟様、輝宗様。満茂もこれにて失礼します」
明日に備えて先に部屋を出る二人に向けて「先に逃げるなんてズルイ」とばかりに、守棟は手を伸ばし助けを求めるが、既に手遅れというもの。
「ワシは、ホントいい家臣たちに恵まれてるよなー」
「そうだね。大事な宝たちだよね」
「くっ……確かに。若者にしては胆が据わっている所なんか、特に腹が立ちますな」
そう締め括り、光忠の邪魔になってはいけないと、今更ながらに部屋を後にして解散した。
様々な感情が混じりあい、未だ興奮覚めやらぬ義光は一人、外へ出て夜空を見上げる。良い事も悪い事も含め、出来事が急激に回った一日だった。
誰に聞かせる訳でもないが、独り言を呟く。
「今までワシは、自分の考えが正しいのだと疑わず、強引に走ってきた。目指す理想の国造りなのだと。間違ってなどいないと。やり方を強引に押し付けてきたかもしれん。だが、それだけではダメなんだと気付かされた。もっと民の声を聞き。民に寄り添い。民の目線で考えねばいけないんだと。ワシらが民を生かすんじゃない。ワシらが民に生かされてるんだ。今日、それを教えられ、そして託された。ワシはやるぞ。いつかあの世に行った時、お前たち細川の兄弟に笑われないように。沢山の出来事を話して聞かせられるように。理想の国を造ってみせるぞ。ワシに、力を貸してくれ」
やけに朱色がかった、妖しい雰囲気を漂わせている月に向かい、手を伸ばしそう語った。
強い願いと自分への誓いを胸に、開いた掌をグッと握り月を掴み取る。
「見ていてくれ」
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