第十一話
将が討ち取られてもなお、戦うことを止めない小国の兵たち。最後まで、個々の信念を貫き通さんとするその姿は、義光の目には特別なものに映った。
だが、やはり多勢に無勢。将たちの戦いに決着が付いたことで、多くの兵が一気に残党制圧に動き、この戦は終わりを迎える。
負傷した光忠が手当てを受ける為後ろに下がる中、入れ違いで前に出る義光。
「との……いや、義っ。どごさ行ぐんだ」
声を掛ける守棟に「ちょっとな」と返す。あまり見たことがない真剣な面持ちをした義光の後を、無言で付いて行く守棟。
周囲はまだ兵が入り乱れ、誰がどこで何をしていようが分からない状態。向かった先は、赤黒く染まった地面に重なるように倒れている細川直元、直重のもと。
「ワシは今回、この戦に一切口は挟まないと約束した。だが、心は挟ませてもらうぞ」
義光は直元の隣に片膝をつき、ゆっくりと語り掛けた。
すると直元の身体がピクリと動き、呻き声を上げながら空を仰ぐ様に転がり、声のする方へ眩しそうに瞼を開き視線を向けた。
「……誰だ。うっ、ゴハァ……ッペ! 止めでも刺しにきたか。……まあ、誰でもいいか。オレらは負けたんだ。どうせこのまま放って置けば、何れ烏の餌だ……」
もう、目も殆ど見えてはいないのだろう。だが義光は続ける。
「ああ、貴様らは負けた。どうやら、ワシの想いの強さの方が一枚上手だったようだな」
「はっ、何を偉そうに……。オレらの理想の方が……遥かに強ぇに、決まってんだろ」
そう語る声も、段々と弱々しくなっていく。
「此度の戦を通して、貴様らに教えられたことがある。その感謝を伝えにきた」
乾いた血が張り付く直元の頬に手を当てる。
「なんっ、だよそれ……蔵増もお前も、なんで……感謝する」
徐々に浅くなっていく呼吸。
「ワシが思い描く国と、貴様らが作りたかった国。見ているもの、想いも、理想も、同じなんだと気付かされた。国とは、民あってこそだ。ワシらは手を取り合えるはずだった。全ては、戦ありきのこの時代が間違っているのかもしれない。だが、貴様らの理想は決して間違ってなどいなかった。この戦場で同志に巡り合えたこと、感謝申し上げる」
青紫になった震える唇の口端が、少し上がったように見える。
「……おっさん、名前を……ッゴハッ! 教えてくれないか……。ハァッ、ハァッ。冥土の土産に……今の言葉、直重に聞かせてやりたいからよ」
才能ある若者がまた散っていく。
「奪う事なく、飢える事なく、皆が手を取り合い、幸せに生きていける。そんな貴様らの強き想い、この最上義光が、必ず先へと持っていく」
直元の目には大粒の涙が溢れ、乾いた頬の血を大地へと零した。
「……遅ぇんだよ。もっと早くに……出会っていれば、あるいは……。頼んだぜ、大将……」
小国川と明神川。
この落合で合流し一つの小国川となり、やがて最上川となる支流。
細川直元と細川直重。
二人の想いは、最上義光と落ち合い混ざり合い、大きなうねりとなった。
頬の涙を拭い取り、直元と直重の瞼を閉じ、手を合わせ弔う義光と守棟。
「殿。どうやらバカは儂の方だったようです。かくなる上はこの不始末――」
「アホーっ! そもそも利口な奴などどこにもおらんわっ! バカで結構っ!」
この戦乱の世はバカばかり。
大きなうねりに飲み込まれ、無駄に命を散らさぬよう、後悔などしている暇があるなら、一歩でも前に進める大バカであれ。
「守棟、ワシらは前に進まねばならん。死んでる暇などどこにもないぞ、分かったか!」
「ははっ!」
光忠の受けた傷は重症ではあるものの、幸いにも命に別状はなかった。しかし療養は必須の為、その日は明け渡された小国城を休養場所として使用することになった。
戦に人の生き死には付き物とはいえ、気持ちの良いものではない。
地元小国の民においては、領主を始め命を落とした者も多くおり、残された女房子供らに恨み言を投げつけられる場面も見られた。
義光は今後の怨嗟を断ち切る為にも、戦場で犠牲になった者たちを集め、例外的ではあるが簡易に、かつ丁重に落合にて火葬し弔おうと提案。
燃え盛る葬送の炎は、犠牲になった者たちの魂を弔うかのように、高く、静かに立ち上る。
嗚咽を漏らす声が多く聞こえる中、辺りには髪の毛と人の肉が焼ける独特の死臭が漂い、鼻の奥にこびり付いた。
こうした区切りは、残された者たちに心の整理を行わせる大事な行事。
どんな苦しみや悲しみがあろうとも、この先も生きて行かなければいけないのだから。
その夜、振舞われた質素な食事に兵たちは皆涙した。
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