【Scene6-2】――侍女リリアとの作戦会議
午前の光が書斎の重厚なカーテンを透かし、机の上の書類に斑模様を描いていた。
壁一面の地図と人物図を前に、クラリッサは眉ひとつ動かさず分析を進める。
王太子エドワードの周囲関係、敵対貴族の動向、陰で嘲笑する令嬢たちの序列。
すべてを俯瞰し、どの人物が噂に敏感か、どこから手をつけるか、瞬時に計算している。
「次はどの噂を流すか……リリア、紅茶に“微量の演出”を混ぜる準備をして」
クラリッサの声は柔らかく、まるで午後のお茶会の招待状のようだ。だがその響きには命令が隠されている。
リリアは手を震わせながら茶器を握り、耳元で小声で呟いた。
「お、お嬢様……それ、昨夜のリゼット様の件を、ここで“演出”するのですか……?」
クラリッサは軽く肩をすくめ、微笑む。
「ええ。噂は刃よりも鋭いの。直接刺すより、ずっと美味しいのよ。」
リリアの目が大きく見開かれた。
「お、お茶に毒なしでも、噂だけで死人が出そうですわ……!」
「上等」
クラリッサは紅茶カップを軽く回しながら言った。
「毒より簡単で、美味しいのよ。」
リリアは思わず吹き出しそうになるが、すぐに手を口に当てる。
クラリッサはそんな小さな動揺も計算済みの微笑みで見守る。
壁の地図に指を這わせ、クラリッサは内心で作戦の全体像を整理する。
> “この国の社交界は舞台。人々は皆、役者で、私は舞台監督。
手を汚さず、噂だけで相手を蹴落とす——これが最も美味しい暗殺術。”
窓の外で鳥がさえずる。静かな午前の書斎に、冷たくも優雅な策略の香りが漂う。
リリアが小さく息を吐き、覚悟を決める。
「……理解しました、お嬢様。毒を使わずとも、噂だけで人を倒す……面白いですわ……!」
クラリッサは頷き、再び微笑む。
「その調子。では、この紅茶で、社交界を少しずつ私の手に落としていくわ。」
――紅茶の湯気が揺れるたび、二人の笑いは静かに、だが確実に“物語の掌握”へ向かっていた。




