【Scene6】――噂は刃より鋭く【Scene6-1】――宮廷朝の紅茶会
朝日が柔らかく差し込むクラリッサ邸の客間。
紅茶の香りが漂い、銀のトレイが光を反射している。
今日は貴族夫人たちを招いた紅茶会。表向きは社交、裏では“評判操作”の舞台だ。
クラリッサ・フォン・ヴァレンシュタインは、扇子を軽く閉じ、完璧な微笑で登場した。
すべてが計算された微笑み。優雅に頭を下げ、だがその瞳の奥には刃が光る。
「おはようございますわ、皆様。」
手元で、リリアが小声で耳打ちする。
「お嬢様……昨夜の事件を“さりげなく”お話しになるのですか?」
クラリッサは小さく笑った。
「そう。噂は刃より鋭いの。刺すより怖い。」
周囲の貴婦人たちが一斉に身を乗り出す。
まるで、花弁の間に潜む棘を探すように。
「リゼット様、昨夜は体調不良で倒れられたとか?」
クラリッサが上品に口をつぐめば、会話の水面に波紋が広がる。
「ええ、そうみたいですわ」
「お嬢様、実に冷静でいらして……」
誰もがクラリッサの微笑みの下に隠された真意に気づかない。
しかし、彼女はすべてを知っていた。
> “彼女たちは知らない。倒れたのは偶然じゃない。
けれど、偶然に見せる演技の妙が、私の武器。”
リリアは震える声で、耳元で囁く。
「お嬢様……それ、話していいんですか!?」
クラリッサは優雅にティーカップを傾け、紅茶の香りを楽しむ仕草を見せる。
周囲は緊張し、戦々恐々。
しかし、その所作には毒も刃もなく、あるのは“完璧な計算”だけ。
「まあ、偶然のように見えることほど、人の心に残るものはないのよ」
静かな笑みとともに、紅茶会の空気がゆっくりと、だが確実にクラリッサの掌握下に置かれていった。




