Scene4:微笑の継承
夕暮れの光が、薔薇の庵を金色に染めていた。
風がやわらかく庭を撫で、紅茶の葉の香りが空へと溶けていく。
庭では、子供たちが笑い声をあげながら駆け回っていた。
裸足のまま草の上を走り、摘んだばかりの紅茶の葉を抱えて、無邪気に笑う。
その笑い声は、かつて灰に沈んだ王都が、ようやく取り戻した“音”だった。
庵の縁側に座るクララは、ティーカップを手に微笑む。
夕陽に照らされた横顔は、どこかあの人――クラリッサを思わせる。
やがて、クララはゆっくりとカップを掲げ、空へ視線を向けた。
雲の切れ間から、紅い光が差し込む。
「……あなたの言葉、もう一度だけ借りますね。」
彼女の声は風に溶けて、空へと昇っていく。
「“死を信じるのは、もうやめたの。
信じるのは――生きて、笑う時間だけ。”」
その瞬間、風が吹き抜けた。
子供たちの笑い声がいっそう高く響き、紅茶の香りが宙に舞う。
――ひらり。
一枚の紅薔薇の花弁が、空から舞い降りてきた。
光を受けて、まるで小さな夕陽の欠片のように輝く。
それはまっすぐクララのカップの中へと落ち、静かに沈んでいった。
クララはそのカップを見つめ、穏やかに笑う。
「……お帰りなさい。」
遠くで、リリアとルシアンの笑い声が聞こえる。
風が再び吹き、庭の薔薇が一斉に揺れた。
灰の街に、もう死神はいない。
けれど――紅薔薇の微笑みは、確かにここにあった。
“紅薔薇は、今も微笑んでいる。”




