Scene2:来訪者たち
昼下がりの陽射しが、薔薇の庵の庭をやわらかく包んでいた。
摘みたての茶葉が風に揺れ、乾いた葉音が小さな音楽のように響く。
門の向こうから、二つの影がゆっくりと歩いてくる。
一人は、淡い灰青の修道服に身を包んだ女性――リリア。
もう一人は、旅の埃をまとった長身の男――ルシアン。
彼の背には、かつて世界を救った“紅薔薇の杖”が丁寧に包まれていた。
クララはポットを手にしたまま、ふと顔を上げた。
そして、驚いたように、それでもどこか懐かしげに笑った。
「……まあ。旅人かと思えば、懐かしいお客様じゃない。」
リリアは頭を下げる。
「お久しぶりです、クララさん。突然お邪魔してしまって……。」
「いいえ、ようこそ。“死神のいない庭”へ。」
ルシアンは苦笑しながら腰を下ろし、香り立つ紅茶のカップを手に取る。
一口、静かに啜って――そして、ほんの僅か、息を吐いた。
「……あの人の味、だな。」
クララは微笑みながら答える。
「ええ。でも少しだけ、変えたの。」
リリアが首を傾げる。
「少しだけ、甘くなった気がします。」
「悲しみを煮詰めるより、笑いを少し多めにしたのよ。」
クララの言葉に、二人はしばし黙って紅茶を見つめた。
湯気の向こうに、紅薔薇の光がふと揺らめいた気がした。
やがて、ルシアンが小さく笑う。
「お嬢様が聞いたら、“紅茶に哲学を入れるな”って怒りそうだ。」
リリアも目を細めて頷く。
「でも最後には、“それも悪くない”って言ってくれそうです。」
三人の笑い声が、庭の風に溶けていく。
その音は、かつての灰の世界には存在しなかった“穏やかな音”だった。
クララはそっとカップを掲げる。
「――生きるって、案外お茶みたいね。苦くても、飲めば温かいわ。」
リリアとルシアンもカップを掲げた。
その瞬間、風がひとひらの紅薔薇の花弁を運んでくる。
それはまるで、“彼女”が微笑みながら加わったように――。




