Scene4:死神なき朝 ――王都、灰の晴れた空の下。
夜が、ようやく終わった。
長く覆っていた灰雲が裂け、初めての朝日が王都の廃墟を照らす。
瓦礫の街に、光が差し込む。
崩れた塔の影が淡く揺れ、風が灰を攫っていく。
どこか遠くで、小鳥の声が聞こえた。
その羽音は――まるで“世界が再び息をした”証のようだった。
瓦礫の隙間から、かすかな緑が顔を出す。
灰の中で、それは小さな命の芽吹きだった。
リリアは崩れた噴水の縁に腰を下ろし、
携えていたティーセットを取り出す。
どれもひび割れていたが、まだ使える。
静かに湯を注ぎ、紅茶の香りが立ちのぼる。
その香りは――懐かしいほど、クラリッサのものだった。
ルシアンが近づき、差し出されたカップを受け取る。
朝日の中、湯気が紅く揺れる。
リリア:「……お嬢様の紅茶、まだ生きてますね。」
ルシアン:「あの人の魂ごと煎れてる気がする。」
リリア:「それはちょっと怖いです!」
一瞬の静寂のあと、二人は声を出して笑った。
その笑いは、灰に満ちた世界の中で――確かに“生”の音だった。
風が吹き抜け、空から一枚の紅薔薇の花弁がひらりと落ちる。
それは二人のカップのあいだに舞い降り、
光を反射して一瞬だけ、淡い微笑の形を描いた。
ルシアンが目を細める。
「……見たか? まるであの人が笑ってるみたいだ。」
リリアは静かに頷いた。
「きっと、見てます。――“死神のない朝”を。」
紅薔薇の花弁が風に乗り、空高く舞い上がる。
その軌跡は、灰の雲を裂きながら、
新しい世界の空へと消えていった。
ナレーション:
“灰の雨が止み、紅い微笑みが残った。
それは、死を超えて――生を選んだ者の誓いだった。”




