Scene2:紅薔薇の散華 ――王都中心、紅薔薇の柱の前。
灰の雨が降り止み、
世界はまるで息をひそめたかのように静まり返っていた。
崩壊した王都の中央――
かつて“死神の儀式”が行われた場所に、一本の紅い光の柱が立っている。
それは、もはやただの魔力ではなかった。
命と死が交わる、最初で最後の“紅薔薇の光”。
柱の中心に、クラリッサの姿があった。
その身体は、ゆっくりと――本当に、ゆっくりと――光の粒へと変わっていく。
紅薔薇の花弁が彼女の周囲を舞い、空気が静かな旋律を奏でていた。
「……お嬢様っ!」
瓦礫を越え、リリアが走る。
膝をつき、必死に手を伸ばすが、その指先が触れるのは淡い光だけ。
その後ろから、ルシアンも駆け込んできた。
彼の外套は裂け、顔は煤で黒く汚れている。
だがその目には、ただ必死な祈りのような焦燥が宿っていた。
「だめです……! お嬢様、消えないでください……!」
リリアの叫びが、灰色の空に溶ける。
クラリッサは微笑んだ。
静かに、柔らかく、どこまでも人間らしい笑みで。
「消える? 違うわ。――還るの。」
その言葉と同時に、
彼女の足元から紅薔薇が咲き始めた。
灰の大地に、命の色が広がっていく。
赤、朱、桃――
まるで世界そのものが、彼女の願いに呼応するように咲き誇る。
クラリッサは紅薔薇の杖をゆっくりと持ち上げ、
震えるリリアの手にそれを託した。
その指は、もうほとんど透けている。
「死を信じるのは、もうやめたの。」
クラリッサの声は、霞のように柔らかい。
けれどその瞳は、誰よりも強く輝いていた。
「信じるのは――生きて、笑う時間だけ。」
その瞬間。
紅の光が世界を包み込んだ。
灰が弾け、光が舞い、
死を象っていた王都の空が――一面、紅薔薇の花弁に染まる。
時間が止まったようだった。
風が優しく吹き、灰と薔薇がゆっくりと交わりながら降り注ぐ。
静かなピアノの旋律が、遠くで鳴っているように思えた。
リリアはその場に膝をつき、杖を抱きしめる。
頬を伝う涙が、紅薔薇の花弁に落ちて消える。
「お嬢様……ありがとう……。」
その声に答えるように、
ひとひらの紅薔薇の花弁が、光の中でひらりと舞った。
それはまるで、クラリッサの最後の微笑み。
――生きることを選んだ、彼女の“さよなら”の証だった。
灰は雨となり、薔薇は風に舞う。
そのすべてが混じり合って、世界はようやく――“生”を取り戻した。




