Scene4:紅薔薇の誓い ――世界が、崩れていく。
灰の庭園が軋みを上げ、鏡の回廊が次々に砕け散る。
虚空の天が裂け、評議会の幻影たちが、光とともに霧のように消えていった。
永遠を謳った“秩序”の声が、静かに途絶える。
その中心に、ただ一人――クラリッサが立っていた。
灰と光の狭間、胸の紅薔薇印がかすかに脈を打つ。
「あなたたちが求めた“秩序”はここで終わり。」
静かな声。だが、その響きは崩壊する空間全体に満ちていた。
「……これからは、生が自分で壊して、また咲くのよ。」
紅薔薇の印に手を当てる。
その瞬間、花弁のような魔力が指先からこぼれ落ちた。
――ひとつ、呼吸。
そして、彼女はその紅薔薇を引き剥がした。
光と血が同時に溢れ出し、灰色の世界が紅に染まる。
空が叫び、地が砕け、彼女の背後で無数の死神印が粉々に弾け飛ぶ。
「死を支配する契約なんて、もういらない。
私は――生きることの方を、選ぶ。」
その言葉が放たれた瞬間、
崩壊の奔流が光へと変わり、精神世界が静かにほどけていった。
――現実、王都の中心。
紅薔薇の柱が再び輝きを増し、灰の空が揺らめく。
花弁の嵐の中、ひとつの影が光の中から歩み出る。
クラリッサ。
衣は紅く、髪に灰の花弁を宿し、微笑みは変わらず気高かった。
リリアが泣きながら駆け寄る。
「お嬢様っ……! 本当に……!」
クラリッサは軽く息をつき、指で彼女の涙を拭う。
「泣かないで。紅茶がしょっぱくなるわ。」
その優しい声に、リリアは嗚咽を漏らして笑った。
ルシアンが少し離れた場所で、空を仰ぐ。
「まったく……世界救っておいて、第一声がそれですか。」
「だって、冷めた紅茶ほど退屈なものはないでしょう?」
灰の雨が止み、空がゆっくりと紅く染まる。
壊れた街に、ひとひらの薔薇が芽吹いた。
それは死神たちの終焉を告げる花であり――
新たな生の始まりを誓う花でもあった。
―章末ナレーション―
“死神の契約は終わった。
だが、生きるという混沌の契約は――今、始まったばかりだった。”




