Scene5:紅薔薇の咆哮
――すべてが、止まった。
音も、風も、時の流れさえも。
灰に沈んだ王都は、まるで巨大な墓標のように静まり返っていた。
七つの死神印が砕け、残されたのは――ただ一輪、紅薔薇の輝き。
次の瞬間、空が鳴った。
灰雲の裂け目から、紅の閃光が奔る。
それは雷ではなく、祈りのような熱を帯びた光。
灰色の世界を貫き、クラリッサの胸に宿る“紅薔薇の紋章”へと集束していく。
その輝きが、ゆっくりと形を変えた。
――紅薔薇が、心臓の鼓動とともに咲き誇る。
クラリッサ:「死を信じるのは、もうやめたの。
信じるのは――生きて、笑う時間だけ。」
その言葉は、世界を震わせた。
崩壊しかけた灰の契約陣が、彼女の声に反応して再構築されていく。
しかし今度は〈死〉を支配するためではなく、
〈生〉を再び受け入れるための、新たな契約として。
紅薔薇の光が爆ぜた。
灰の空が裂け、無数の薔薇の花弁が降り注ぐ。
一枚一枚が灰の結晶を溶かし、
夜の帳を紅く染め上げていく。
その光景は、まるで死神たちの葬式。
けれど、そこに宿る温もりは確かに“再誕”のものだった。
瓦礫の上に倒れていたルシアンが、目を見開く。
「まさか……契約そのものを、書き換えた!?」
隣でリリアが涙を拭いながら微笑む。
「お嬢様……死神なのに、生を選んだんですね……」
灰の風の中、クラリッサは静かに振り返った。
頬をかすめる風は、もう冷たくなかった。
クラリッサ:「生きている限り、紅茶の香りは消えないものよ。」
空一面に咲き乱れる紅薔薇。
その中心で、クラリッサの杖がゆっくりと地面に触れる。
灰が弾け、朝の光が射し込む。
“それは終焉ではなかった。
死神たちの夜が終わり――世界が、再び息を吹き返した瞬間だった。”
――紅薔薇の咆哮が、夜明けを告げた。




