Scene2:紅薔薇再誕の儀
王城の跡地は、もはや“城”の形を保っていなかった。
崩れた塔、溶けた石畳、そして地を覆う――灰の絨毯。
その中心に、七つの影が立つ。
〈暴食〉、〈憤怒〉、〈怠惰〉、〈嫉妬〉、〈色欲〉、〈強欲〉、〈傲慢〉。
協会の七幹部――“死の秩序”を体現する者たち。
彼らの足元に、紅薔薇の紋章を象った巨大な魔法陣が描かれていく。
灰が自らの意志を持つように流れ、地を刻み、街を飲み込んでいった。
空の色が変わる。
昼も夜も意味を失い、ただ紅と灰が交じり合う異界へと変貌する。
〈暴食〉が一歩前へ出た。
その眼は獣のように輝き、声は地を揺らす。
「クラリッサ・グレイヴ――お前はこの儀の“中心”だ。」
〈憤怒〉が続けて叫ぶ。
「お前の死で、秩序は完全になる!
死神の裏切りなど、灰に還る運命だ!」
しかし、紅の風が二人の声を掻き消した。
灰の中に立つ女――クラリッサが、静かに杖を立てたからだ。
紅薔薇の杖が、灰の地面に触れる。
その瞬間、音が止んだ。
灰の粒が宙に浮かび、時間さえ息を潜める。
クラリッサは、紅茶を啜るような穏やかさで微笑んだ。
「葬式にしては、ずいぶんと賑やかね。
……招待状は出してないけれど。」
その一言に、空の灰がわずかに震えた。
まるで“死”そのものが、彼女のユーモアに呆れたかのように。
〈怠惰〉:「……皮肉で儀式を壊せると思うな。」
〈嫉妬〉:「あの女……未だに“死”を怖れぬか。」
〈色欲〉:「怖れないのではなく、味わっているのよ。あの瞳は――快楽に近い。」
七幹部の印が一斉に輝いた。
魔法陣の紋様が燃え上がり、灰が空へと舞い上がる。
王都全体が、儀式の触媒と化す。
建物は沈み、空は閉じ、光すら灰に還る。
「お嬢様!儀式に巻き込まれてます!!」
リリアの叫びが風を裂く。
クラリッサは振り向かずに言った。
「いいの。主役がいなければ、宴は始まらないもの。」
微笑みながら、紅薔薇の杖を強く握る。
その掌に宿る“破戒”の光が、紅く脈打つ。
七つの印が響き合う。
暴食の咆哮、憤怒の雷鳴、怠惰の沈黙、嫉妬の棘、色欲の甘香、強欲の鎖、傲慢の幻影――。
それらが一つに重なり、世界の法則そのものが軋む。
“灰の花が咲く。
その中心に紅が灯る。
死神たちの夜は、いま――開宴した。”




