【第8章:死神たちの夜】 Scene1:七つの印、王都に集う
王都の空は、夜明けを拒むように閉ざされていた。
灰色の雲が低く垂れこめ、そこから降るのは雨ではなく、死神たちの印――七つの紋章の影。
それぞれが異なる形をしていた。
飢えを象徴する獣の牙〈暴食〉。
燃える瞳の戦鬼〈憤怒〉。
怠惰の羽毛をまとう天使の残骸。
欲望と嫉妬を絡ませた鎖。
金貨の形をした冷たい光〈強欲〉。
そして最後に、幻の蝶〈傲慢〉が静かに羽を閉じる。
七つの印が揃い、空に巨大な“灰の魔導陣”が展開された。
王都全体を包み込む結界が形成され、昼も夜も意味を失った。
――この瞬間、世界の死の法則が閉じたのだ。
その下、旧市街の高台に建つ黒い屋敷。
屋上の縁に立つ女が、静かに紅茶のカップを掲げる。
灰の風に揺れる白銀の髪。瞳は、紅薔薇のように艶やかで、冷たい。
クラリッサ・グレイヴ。
かつて協会の死神だった女――いまや〈破戒〉の名を冠する存在。
「ようやくお揃いね、私たちの葬式に。」
湯気の立つカップを唇に寄せながら、まるで宴の開幕を告げるように微笑む。
「その言い方やめてください!縁起が死神的すぎます!」
背後から、ルシアンが絶叫した。
黒いコートを翻し、彼は屋上に飛び上がってくる。肩に灰を積もらせながらも、必死に空を睨む。
リリアも後を追って階段を駆け上がり、裾を握りしめて震えた。
「“お揃い”って言葉が怖いです……!なんか、招待されてないのに葬式参加してる気分です!」
クラリッサは二人の反応を楽しむように目を細め、紅茶を傾ける。
「まあ、式に出席するかどうかは選べるわ。けれど――」
彼女の指先が軽くカップを叩くと、音が夜気に溶けていった。
空に浮かぶ七つの灰色の紋章が、胸元の紅薔薇の印と共鳴を始める。
淡い光が脈動し、灰が揺れる。
「――始まるのは、私たちの“再誕”よ。」
その瞬間、空の魔導陣が唸りを上げた。
雷鳴のような音が響き、王都の空気が一変する。
ルシアンは思わず顔を覆う。
「再誕って言葉、今はホラーでしか聞こえませんからね!?」
リリアは泣きそうな声で叫ぶ。
「お嬢様、せめて紅茶置いてから宣戦布告してくださいー!」
クラリッサは微笑んだ。
その笑みは冷たくも、どこか楽しげで――まるで運命そのものを嗤っているようだった。
“七つの印が重なる夜。
それは終焉の合図であり、彼女の美学が再び息づく刻だった。”




