【Scene2:幻の中の紅薔薇庭園】 ――エレナの精神世界・灰の薔薇が咲く庭園
灰色の花弁が、音もなく揺れていた。
一面の薔薇――それは色を失った世界の、最後の夢のようだった。
クラリッサは足元の花を一つ摘み取る。
指先に触れた瞬間、花弁が灰に崩れ、風もないのに散っていく。
まるで「死」を模倣するかのように。
「……ここが、あなたの世界なのね。」
「はい。私が“理解”した死の形です。」
声の主――エレナが、薔薇の奥から歩み出る。
銀の髪が灰に混ざり、揺らめく空の光を反射する。
琥珀の瞳は、まるで凍った炎。
クラリッサは微笑んだ。
「ずいぶん冷たくなった庭ね。前は、紅薔薇が咲いていたのに。」
「師匠の“紅”は、無駄です。
死に意味なんてない。誰が死んでも、世界は回り続ける。」
その言葉に、クラリッサは目を細めた。
胸の奥で、遠い昔の痛みがゆっくりと蘇る。
「ええ、そうね。世界は止まらない。
でも――“世界が回る理由”を探せるのは、生きてる間だけよ。」
灰の花弁が舞う中、クラリッサは指先で一輪の薔薇を撫でた。
瞬間、花弁が紅に染まる。
その紅が、周囲の灰を静かに侵食していく。
「あなたは死を拒んでるんじゃない。
ただ、生を選ぶ勇気を失くしているのよ。」
エレナの瞳が、わずかに揺れた。
ほんの一瞬、そこに“かつての弟子”の面影が戻る。
だがその瞬間――
「……感情は幻です。なら、幻で殺して差し上げます。」
杖を振り下ろすと、庭全体が蠢いた。
灰の花弁が吹き飛び、無数の影が地面から跳ね上がる。
丸い瞳、黒い毛並み、手には――鎌。
「……猫?」
クラリッサが瞬きをする。
「猫の死神軍団、召喚。」
リリアが絶叫した。
「お嬢様ぁっ!?かわいいけど!殺意が高すぎます!!」
ルシアンは必死に猫の鎌を避けながら叫ぶ。
「これ!絶対“かわいい”って言う場面じゃないですよね!?」
クラリッサは優雅に紅茶を掲げて微笑む。
「でも見て、リリア。あの子の鎌、微妙にハート型なのよ。」
「細部のこだわりを褒めないでください!!」
「……誰がこんな幻術教えたんですか!?」
「たぶん……私ね。」
灰と紅、そして猫の軍団が入り乱れる幻想の戦場。
エレナの幻術は冷酷で、しかしどこか寂しげだった。
クラリッサは一歩踏み出し、灰の風を割るように呟く。
「傲慢ね、エレナ。
でもそれは、私がかつて信じた“誇り”でもある。」
エレナの唇が震える。
灰の庭園に、紅が滲む。
“弟子の傲慢は、かつての自分の鏡だった。
壊すことも、赦すことも、まだ選べない。”




