Scene5:灰の契約、破戒の始まり ――「死を裏切る者こそ、真に生を知る。」
夜明け前の空は、灰と紅の狭間で震えていた。
死神協会の監視塔――かつて〈死〉を見張るために築かれた塔の最上階。
クラリッサは静かにそこに立ち、薄明の光を見つめていた。
紅茶の香りが、冷たい石造りの空間を満たす。
カップの縁に映る夜明けの色は、まるで血を薄めたような淡紅。
「死を信じすぎた者ほど、死に騙される。
なら、私は死を騙す側に回るだけ。」
彼女の声は柔らかく、それでいて背筋が凍るほど静謐だった。
背後では、ルシアンとリリアが息を潜めて見守っている。
監視塔の窓越しに、世界の果てまで広がる灰色の雲――その向こうに、微かに紅薔薇の光が滲んでいた。
クラリッサは胸元の“紅薔薇の紋章”に指を添える。
それはまるで心臓の鼓動と同じリズムで脈打ち、灰の空間を赤く染めていく。
「この印は、死神の証。そして、灰の契約の鍵。
――なら、壊してあげましょう。私自身の手で。」
ルシアン「お嬢様……まさか、その印を――!」
クラリッサ「ええ、少し古い契約書を破るだけよ。」
紅薔薇が閃光を放つ。
塔全体が震え、天井から灰の光が降り注ぐ。
世界の“死の循環”が一瞬止まり、空気そのものがざらつく。
リリア「お嬢様っ!そんなことしたら命が――!」
「命? ああ、それなら何度か払い戻してるわ。」
ルシアン「……払い戻しって言い方やめてください!」
クラリッサ「だって、死神に保証期間なんてないもの。」
灰の風が舞い上がる。
クラリッサの髪が揺れ、紅と灰が入り混じる。
彼女の瞳の奥に、確かな決意の光が宿った。
「死に縋る世界を、今度は生かすために壊す。
それが“破戒死神”の務めよ。」
リリア「破戒って言葉が似合いすぎて怖いです!」
クラリッサ「褒め言葉よ。罪の香りって、紅茶に合うの。」
カップを持ち上げ、最後の一口を啜る。
紅茶の残り香が、灰の空間に溶けていく。
塔の外では、灰の雲が裂け、朝日が差し込んだ。
紅薔薇の光が世界を包み、灰が、花弁のように舞い落ちる。
「さあ――終わりを、美しくしましょう。」
クラリッサの紅薔薇の印が燃え上がり、灰の契約の核が崩壊する。
死の循環が断たれ、世界は新たな息を吹き返す。
締め:
“彼女は死の循環を断ち切った。
その瞬間、灰は薔薇へ――死は、美へと変わった。”
そして、彼女の微笑みは、夜明けよりも静かに輝いていた。




