Scene4:〈暴食〉の帰還 ――「灰の中から、もう一度“死”が名を呼ぶ。」
学院の中庭。
灰色の月が、夜空をまるで硝子のように照らしていた。
花々はすでに色を失い、風は冷たく、世界が息を潜める。
クラリッサは紅茶のカップを指先でくるりと回しながら、月を見上げる。
その瞬間、空が“裂けた”。
黒い閃光。
灰が逆流し、空を喰い破るように形を取る。
そこから現れたのは、漆黒の外套を纏った男――〈暴食〉。
彼の足元から、灰の雨が音もなく降り注ぐ。
その一粒一粒が、まるで命の終わりの断片のように重く光る。
クラリッサはゆっくりとカップを置いた。
「……やっぱり、来たのね。灰のまま消えるような男じゃないと思っていたわ。」
〈暴食〉は笑う。
その笑みは昔と変わらない。だが瞳の奥に、かつての仲間を喰らい尽くした空虚が見えた。
「お前の死が、世界を整える。
灰は再生を孕むが、同時に秩序を喰らう。
――お前が生きる限り、この世界は歪む。」
クラリッサは目を細める。
風が吹き、彼女の髪を持ち上げた。
胸の紅薔薇の印が淡く光を放ち、灰の夜を照らす。
「なら、私はその灰を紅く染めるだけよ。
だって死神にも、趣味ぐらいあるもの。」
リリア「趣味の範囲で世界を塗り替えないでください!!」
ルシアン「お嬢様、暴食より発言が不穏ですっ!」
クラリッサは紅茶を口に運ぶ。
灰色の風の中でも一滴もこぼれない。
「静かにしなさい。今ちょうど、余韻を味わっているの。」
〈暴食〉の足元から灰の奔流が走る。
学院の石畳が崩れ、木々が粉のように溶けて消えていく。
その中心に、彼の“死神印”が黒く燃えていた。
「灰は秩序。お前の紅は混沌。
どちらかが滅ぶまで、この世界は立てぬ。」
クラリッサは、杯を軽く掲げた。
「なら、乾杯しましょう。――死神たちの再会に。」
紅と灰が激突する。
空が割れ、灰の月が紅に染まる。
世界が揺れ、時が一瞬だけ止まったように静まり返る。
灰の風の中、ルシアンは歯を食いしばりながら叫んだ。
「クラリッサ様、あれは本気です!逃げてください!!」
「逃げる? 死神が自分の過去から逃げられると思うの?」
彼女の瞳に、深い悲しみと、確かな覚悟が宿っていた。
――灰と紅が交わるその瞬間、世界は“再誕”を選ぶ。
締め:
“灰と紅が混ざり合う。
死神の再誕が、静かに幕を開けた。”




