Scene2:灰衣の刺客たち
夜霧が王都の裏路地を包み込んでいた。
薄明かりの灯る石畳に、影が八つ――静かに浮かび上がる。
かつて“死神協会”の精鋭だった者たち。
今は〈灰衣〉と呼ばれる、裏の世界の亡霊たち。
彼らの狙いは、ただひとり。
“紅薔薇の継承体”、クラリッサ・ヴェルデン。
その名を口にすることさえ、彼らにとっては恐怖の儀式だった。
「――来るぞ。奴はもう、嗅ぎつけている。」
「馬鹿を言うな。相手は一人の女だ、今さら――」
その瞬間、霧の向こうでカチャリと陶器の音が響いた。
静かで、やけに上品な音。
刺客たちの神経が一斉に張り詰める。
「久しぶりね、灰の方?」
霧を裂いて現れたのは、いつも通りの――あまりにいつも通りすぎるクラリッサだった。
白い手に銀のティーカップ。
紅茶の香りが、血の匂いすらかき消して漂う。
「洗濯しても落ちないのよね、その色。」
言葉の刃が放たれた瞬間、灰衣たちがわずかに後退する。
反射的に、一歩、二歩。
なぜか全員が距離を取った。
彼女が笑う。
その笑みが、彼らにとってかつての“上官命令”の合図のように脳裏に蘇る。
「お嬢様、挑発してますよね!?」
霧の後ろでルシアンの焦った声。
「ええ。昔の部下には、優しさが必要だから。」
「どこが優しいんですか!?」
クラリッサはその声を背に、カップをそっと置く。
まるで儀式の始まりを告げるかのように。
灰衣の刃が一斉に閃く。
彼女の胸に宿る紅薔薇の紋章が淡く光り、霧の中に浮かび上がった。
――薔薇の輝きとともに、灰の刃が沈む。
血ではなく、沈黙が地面に落ちた。
彼女は息ひとつ乱さず、紅茶の香りを吸い込む。
「冷めてしまったわ。あなたたちも、忠誠も。」
その声は、静かに霧へと溶けていく。
“灰の中で、かつての忠誠が燃え尽きた。”




