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転生悪役令嬢 『紅薔薇は微笑まない ― Reaper’s Bloom』  作者: 南蛇井


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第1章 転生、紅茶と毒入りマカロン > 「……お茶が苦いのは、毒のせい? それとも人生のせいかしら。」【Scene 1】――目覚め、絹のシーツと鉄の記憶

――鉄の匂いがした。

 血と火薬と、焦げた夜気。

 たしか、あのとき私は胸を撃たれて――。


 目を開けると、視界いっぱいに広がるのは真紅の天蓋。

 レースのカーテンがふわりと揺れ、淡い光が降り注ぐ。

 柔らかすぎるベッド。肌に触れるシーツは絹。

 ……いや、違う。こんな高級品、任務経費じゃ絶対出ない。


「……ここ、潜入先の屋敷?」


 反射的に体を起こし、銃を探そうとして――当然、ない。

 代わりに目に入ったのは、鏡の中の自分だった。


 金髪。

 碧眼。

 肌は白磁のように滑らかで、血の跡ひとつない。


「……メイク、盛りすぎじゃない?」


 思わず漏れた素の言葉に、部屋の外からドタドタと足音が響く。

 ドアが開かれ、数人の侍女と一人の初老の執事が駆け込んできた。


「お嬢様! お目覚めになりましたか!」

「まぁ……! 三日も意識が戻らなかったのですのよ!」


 ――お嬢様? 誰の話?

 私はお嬢様どころか、裏路地のネズミみたいな人生を送ってきたんですけど。


 混乱を押し隠しつつ、机の上に用意されたティーセットに目を向ける。

 香り立つ紅茶。……うん、少しだけ異様に甘い。

 習慣で、ついカップを手に取ってしまった。


 ひと口。

 そして、即座に顔をしかめる。


「……これは、ヒースベル産のナイトロ毒草。軽度の神経麻痺作用。懐かしい味ね。」


「な、なっ……! お嬢様!?」

 侍女たちが悲鳴を上げる。執事の顔色が変わった。


 クラリッサ――いや、今の私はクラリッサ・フォン・ヴァレンシュタイン。

 それがこの身体の名前らしい。

 だが“殺し屋クラリス”としての舌は、どうやら転生後も健在のようだ。


 私はカップをそっとソーサーに戻し、軽く微笑んだ。

 まるで紅茶の味を褒めるかのように、優雅に。


「安心して。致死量には程遠いわ。ただ……犯人のセンスは、壊滅的ね。」

「は、犯人……!?」

「ええ。茶葉の産地でだいたい分かるわ。

 ――南区の港で流通してる安物毒。使うなら、もう少し上質なのを選びなさいな。」


 誰もが凍りつく中、私はカップの縁を指でなぞり、微笑を深める。

 絹のような微笑みと、鉄の記憶が交錯する。


 ……ふふ、なるほど。

 転生って、こういうことなのね。


 前世では殺し屋。

 今世では――貴族令嬢。


 けれどどちらも、結局「人間観察」が仕事。

 笑顔の裏にある本音を読む。それが生きる術。


「お嬢様、お身体は大丈夫で……?」

「ええ。少し眠ってただけよ。夢見が悪くてね。

 ――血の味がする紅茶なんて、趣味が悪いわ。」


 そう言って私は、再び紅茶を口に運ぶ。

 その仕草は完璧に優雅で、まるで何事もなかったかのように。


 ……ただ一つ違うのは。

 この瞬間から、“殺し屋クラリス”がこの世界の舞台に立ったということだ。



---


章ラスト一文(Scene1締め)


> 絹のシーツの上で、私は小さく笑った。

「さて、“お嬢様”として生き延びる暗殺術でも考えましょうか。」



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