儲けた額は
詐欺師の俺は、いつも最初に“ふるい”をかける。
普通の人間ならまず返信しない、くだらないメールを送るのだ。
「あなたの家の庭に、宇宙人が埋めた宝があります」──そんな馬鹿げた文面でいい。
それに反応してくる時点で、相手はもう半分カモだ。
今回引っかかったのは、三十前後くらいの男。
Tシャツは派手な原色、後ろ髪だけ妙に長い。文章の句読点はやたら少なく、妙にテンションの高い絵文字を多用するメールを送ってくる。
外見やメールの文面からして、深く考えるタイプではなさそうだ。金の話にも食いつきがいい。
初回で十万円を振り込ませることに成功した。もちろん、まだまだ続けられる。
「もっと儲かる話がある」と言えば、疑いもせずにまた金を送ってくる。
これほど都合のいい相手は滅多にいない。
何度目かの入金を確認した夜、俺は缶ビール片手に動画投稿サイトを開いた。
暇つぶしに流していた画面に、見覚えのある顔が映る。
──あの男だ。今まさに俺がカモにしている、あの相手。
だが、タイトルを見て凍りついた。
《詐欺に引っかかってみたwww【ガチ】》
再生回数は、軽く三百万を超えている。
動画は、俺とのやり取りをモザイクと編集で面白おかしく仕立てたものだった。
振り込むシーン、メールを読むシーン、合間には本人がカメラに向かってこう叫ぶ。
「いやコレ、騙される選手権あったら優勝でしょ俺!
カモ・オブ・ザ・イヤーですわ〜! チャンネル登録よろしくぅ!」
再生数から計算すれば、広告収入は俺が騙し取った額の何十倍にもなる。
──俺は儲けたつもりだった。
だが、本当に儲けていたのは……カモだと思っていた、あいつだった。