ようこそ探偵事務所へ②
玄関ホールは広く、フラットな土間と廊下が繋がっている。高橋カイトが想像した通り、天井高の建物は家の中だというのに開放感がある。
目の前の男性が探偵なのだろうか?
黒髪に銀縁の眼鏡をかけた顔立ちは二十代にしか見えない。その落ち着いた佇まいから、良くても二十代後半くらいだろうと予想した。薄いブルーのポロシャツに濃紺のスラックスもよく似合っている。袖から除く腕は白く、日焼けした自分とは全然違っている。
高橋カイトがまじまじと見つめていると、
「さあ、こちらでお話を伺いましょう。」
と、男性はホール横の部屋に手を向け、先に入るように促す。
「は、はい。えっと、お邪魔します。」
慌ててスニーカーを脱ぎ土間の隅に揃えると、用意されていたスリッパに履き替え、扉の開いたままの部屋に入る。
「今日は特に暑かったでしょう。何か飲み物をお持ちしますから、好きなところに掛けて待っていてください。」
背後から男性の声がして振り返ったが、もう姿は見えない。
室内を見渡すと、いくつかの椅子とソファーがあり、中央には木製のテーブルが置かれている。
高橋カイトは所在なさげに1番近くの椅子に腰掛けた。
テーブルの向こう側には執務用だろう机が置かれ、書類や難しそうな本が積まれていた。隙間から『已無探偵事務所』と書かれた卓上プレートが見えた。
それを確認してやっと、本当にここは探偵事務所なのだと少し安心した。