道導
『已無探偵事務所へお越しの方
若宮古書店様の裏手門扉をお入りください
少し先に事務所がございます』
自動販売機のコイン投入口のすぐ下、銀色のシールに記されていたのは高橋カイトが探していたゴールへの道導だった。
「こんな、え?本当に?」
あまりに都合の良い展開に、暑さで自分の脳みそが勝手に作り出した妄想かと困惑し、何度もシールの文字を読み直す。
ブゥンと自動販売機が、冷却モーターを強めて重く低い音で唸る。
「あっ、急がないと!」
もたれかかっていた自動販売機の声に急き立てられ、ぱっと体を翻すと自転車を押して裏手に回り、門扉に駆け寄った。
門扉は格子状になっていて高さは腰ほどしかない。軽く押すとキィと音を立てて開いた。門扉の奥は道幅が狭く砂利が敷かれ、左右には名もわからない木々が大きく枝葉を伸ばし視界を遮っている。
自転車は邪魔になりそうだ、と門扉の隙間にワイヤーケーブルを通し自転車のホイールと繋いだ。ヘルメットを外して前カゴに置き、汗だくの頭を手櫛で整える。
少し風が吹いた気がした。手元の腕時計は13時25分を回ったところだ。
誘われるように高橋カイトは門扉の奥へと進んでいった。