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異世界でゴミ屋敷片付けます!  作者: ちょこだいふく


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18/21

18話

次の封印場所は森の奥のさらに奥だった。


女神様が言うには、ここには力の強い魔術師が住んでいると言う。彼は身近な人間から裏切られ、傷付き魔力が暴発しそうになっていた。実際に数名の犠牲が出たのでやむなく封印したのだと言う。


しばらく森の奥を歩いていると、風すら息を潜めるような静けさの中に、ひっそりと立つ石造りの塔があった。


灰色の塔は重く沈黙し、太陽の光さえ届かないように見える。

けれど私は、手に握る鍵のぬくもりを頼りに、その前に立っていた。


女神様がかつて封印した“想い”――

今度は、その扉を開ける番だ。


 


「……行こう」


 


鍵が、静かに光った。

そして、重たい扉がきい、と軋んで開いた。


 


中に一歩足を踏み入れた瞬間、肌にひやりとした気配が触れる。

まるで感情というものが完全に凍てついたような、乾いた空間だった。


壁も、床も、天井も、すべてが硬く、冷たく、無機質。

その中に、あちこちに人のような“石像”が佇んでいた。


 


その瞳の奥には、うっすらとした苦しみや悲しみが刻まれていた。

これは彫られた像なんかじゃない。

人だったものが、何かに触れて――石になったのだ。


 


「……こんな寂しい場所でひとりで……ひとりで耐えてきたのね」


 


そう呟くと塔の奥から気配した。

そして足音もなく現れたその男は、黒いローブを身にまとい、長い髪を乱したまま立っていた。


目元は深い隈に縁どられ、無機質なガラス玉のような目だった。


 


「……また誰か来たのか」


 


「あなたが、この塔の――」


 


「止めておけ。近づけば、君も石になる」


 


男の目は、警告の色を宿していた。

その言葉を裏付けるように、彼の足元には崩れた椅子や机、砕けた魔術具の欠片が転がっていた。


 


「……感じないようにしただけなのに。

 痛みも、後悔も、全部……“石にして閉じ込めた”だけだったのに…私のことを案じてくれた人もかつてはいた…でも……彼らが私に触れると…彼らは石になった…」



 


――彼は、“心を石にした”のだ。


 


「心はいつもおし潰されそうだった。

 誰かに優しくされるたびに、罪悪感で焼かれそうだった。孤独感と罪悪感…全てが僕を責め立てるように感じた。何をみても僕への非難に聞こえた。

 だから……閉じたんだ。自分ごと、感じなくなれば、全部終わるって……」


 


静かに涙を流すでもなく、ただ彼は言った。


 


「でも……それが、“呪い”になった」


 


誰かに、何かに触れるたびに、彼の“石の心”が伝播し、相手の命までも石にしてしまう。

そのことに彼は気づいた時、誰とも話さず、触れず、ただこの塔の奥で眠るように閉じこもってきた。魔力のおかげで死ぬことはない。いや、死ぬことすらできなかった。


 


私は静かに前に進んだ。


彼が一歩引いた。


「……やめろ」


 


「大丈夫。もう一度だけ信じてみて…。」


 


私は手を差し出した。


その指先が、彼の手に触れた瞬間――


 


ぶわっ、と、胸の奥が熱くなった。


光が――いや、ぬくもりが、じわじわと広がっていく。


彼の中に石のように閉じ込められた“感情”たちが、私のスキルに呼応するように浮かび上がる。


 


燃えるような後悔。

抱きしめられなかった恋人。

助けられなかった弟子。

止められなかった過去の自分。


 


それらがひとつずつ、言葉にならない悲鳴のように、塔の中に渦巻いた。


 


私は、両手で彼の手を握りしめた。


 


「……あなたの中に、こんなにも“想い”が詰まっていたのね」


 


魔術師の目が、ゆっくり見開かれる。


 


「わかってもらえる日が来るなんて…」


 


「うん。私もたくさん、捨てられなかったから」


私は微笑んで、小さく言った。


「だから、こういうときは――“ありがとう”って言って、手放すの」


「…ありがとう?」


「ええ、とてもありがとうなんて思えない事がたくさんあったよね。許せない想いもあったよね。それで良いの。生きるって…そう言うことよ。何もかもが理想通りなら言うことはないわ、でもそんな事ない。不条理なこともある。そんな中で…あなた頑張って生きてきたんじゃない。もがき続けてきたんじゃない…そんな自分にありがとうって…言ってみない?」

 


私は深く息を吸って、手を彼の胸にそっと重ねた。


「人を傷つけてしまった事もあるよね。反省して、ごめんなさいって罪滅ぼしをしよう?やってしまったことはもう変えられない、だからこそ行動で示していくしかないの。許すか許さないかは相手次第よ、あなたはあなたのできることをするしかないのよ。」


「さあ、自分にありがとうって言おう。そして傷つけた人にはごめんなさいって言おう?」


 


その瞬間、塔の天井からまぶしい光が差し込んだ。


塔の中にあった石像たちが、ひとつ、またひとつと、温かな光に包まれていく。

そして、ゆっくりと、元の姿へと戻っていった。


 


魔術師は、崩れるようにその場に膝をついた。

はじめて、声をあげて泣いた。


 


その姿は――


もう、呪いに囚われた魔術師ではなかった。


ただ、過去から解放された、ひとりの人間だった。


 


 


私はそっと彼の背を撫でた。


「大丈夫。ちゃんと終わらせられたね」


 


塔の外には、春の風のような空気が流れ込んでいた。


 


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