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異世界でゴミ屋敷片付けます!  作者: ちょこだいふく


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16/21

16話

誰も住んでいない、けれど、誰かの想いだけが取り残された村。


その奥――


森の深くへ続く、古びた獣道を進んだ先に、私は“それ”を見つけた。


 


巨大な岩に囲まれた、自然の裂け目。


吸い込まれるように黒くぽっかりと空いた洞窟の入り口。


けれどその前には、小さな祭壇のような石が置かれていた。


そして――


 


「ここよ」


 


聞き覚えのある声が、風に混じって響く。


女神様。


いや、かつて片付けの力を持って転生してきた“人間の先輩”。


あの白い服の少女が、微笑みながらそこにいた。


 


「ここが最初の“封印”の場所」


 


私は、息をのんだ。


鍵を取り出すと、それはゆっくりと光りはじめる。


 


「この扉を開けるには、あなたの力が必要なの」


少女――女神様は、申し訳なさそうに目を伏せた。


 


「……あのとき、私はこの洞窟の中に“彼”を封じた。私自身の祈りと一緒に」


「“彼”って……?」


 


女神様は静かに頷く。


 


「かつて、この世界を滅ぼしかけた“想いの怪物”。

でもそれは、最初から“悪”だったわけじゃない。ただ、悲しみと拒絶を誰よりも知っていた存在」


「だから……」


「私は彼を、切り捨てるんじゃなく、“しまって”おいた。いつか、ちゃんと向き合ってくれる誰かが現れるまで」


 


私は手のひらの鍵を見つめる。


これは、扉を開けるもの。


そして“再び、向き合う”ためのもの。


 


「あなたにしか、できないと思ったの」


「あなたは、“物”を通して心を見つめることができる。

心の奥にある、“片付けられなかったもの”を拾い上げて、光に変えることができる」


 


女神様は優しく微笑んだ。


 


「お願い。

この洞窟の奥にいる、“彼”の心を――どうか、片付けてあげて」


 


 


洞窟の入り口が、鈍く震えた。


中からは、冷たい空気と、微かにすすり泣くような音が聞こえる。


 


私は、小さく息を吸い込んだ。


そして、一歩――扉の前に進み出た。


 


「……分かった。私が、“向き合って”くる」


 


 


――こうして私は、封印された想念の第一の地、“洞窟の記憶”へと足を踏み入れる。


そこに待っているのは、


世界に拒絶された“少年”の形をした記憶。


片付けるべき、“最初の想い”。


 


それは――

「自分には、生きていていい理由がない」と固く信じている存在との、対話の始まりだった。


洞窟の中は、しんと静まり返っていた。


歩くたびに、足元の小石が乾いた音を立てる。


けれど、それすらもすぐに闇に吸い込まれて、何もなかったように消えていった。


 


「……寒い」


思わず、胸元を押さえる。


光もないはずの空間なのに、私の足元だけはうっすらと淡く光っていた。


これは、きっと“鍵”の導き。


 


奥へ、奥へと進んでいくと、


やがて、広い空間に出た。


そこには――


 


ぽつんと、少年がいた。


 


黒いフードを被った、細く小さな背中。


まるで、世界に置いていかれたように、ぽつりと立っている。


 


「……あなたが、ここに封じられていた“想い”?」


 


問いかけても、少年は答えなかった。


けれど、彼の周囲には――


朽ちた机、破れた本、ちぎれた手紙、壊れた椅子。


どれも、おそらくはかつて彼が使っていたもの。


“過去の断片”が、静かに積もっていた。


 


私は、一歩近づく。


足元にあった古いノートをそっと拾い上げる。


 


そこに書かれていたのは、

何度も消して書き直されたような、たった一行の文字。


 


「ここにいてもいいですか」


 


その瞬間――


空間が、ゆっくりとざわめいた。


 


少年が、ゆっくりとこちらを振り返る。


目元は隠れていて見えない。


けれど、その影からは、まるで泣いているかのような雰囲気が伝わってくる。


 


「君は――」


 


そのとき、少年が初めて口を開いた。


 


「捨てたんだ、全部……!」


 


声は幼く、かすれていた。


けれど、その奥には、長く積もった“罪悪感”があった。


 


「僕が手放したものは、誰かの言葉、誰かの優しさ……僕はそれを受け取る勇気がなかった。

誰かを好きになった記憶も、怒った顔も……全部」


 


彼のまわりにある“モノ”たちが、かすかに震えた。


そして、それはまるで叫ぶように、空間に響き始める。


 


「捨てたくなかったんだ!」


「忘れたかったわけじゃないんだ!」


「けど、持っていることが、つらすぎたんだよ!」


「心の底から、ここにいて良いと思えないんだ!!」


私は、胸がぎゅっと締めつけられるのを感じた。


まるで、あの頃の私自身が叫んでいるようだった。


 


部屋にこもって、何もかも抱えて、誰にも言えなくて。


「こんな自分、捨てちゃえばいい」って、思ったあの夜。


 


私は、そっと目を閉じて、口を開いた。


 


「……知ってるよ。苦しかったよね」


 


少年の叫びが、ふと止まった。


 


「誰にも見つけてもらえなかったんだよね」


 


ゆっくりと近づいて、私は彼のそばにしゃがみ込む。


手のひらを差し出す。


 


「つらいよね、苦しいよね。

手を差し伸べてくれる人を遠ざけて、拒否することで自分自身がこれ以上傷つかないように、守ろうとしてくれたんだよ。そこには自分自身への愛が確かにあったんだよ。あなたは、あなた自身が自分と向き合える日をずっと待っていてくれた。その気持ちにありがとうって言ってみない?」


 


少年の肩が震えた。


 


「そんなふうに、思っていいの……?」


 


私は、そっと微笑んだ。


 


「こ◯まりさんも言ってた。“ときめかないものは手放しましょう”って」


 



自分で言って思わず吹き出しそうになった。

(ナチュラルに◯シダさんだけじゃなくてこ◯まりさん出てくるじゃん……びっくりだよもう。)


「でもね、ただ捨てるんじゃない。“ありがとう”って言ってから、手放してあげるの。

――それが、別れじゃなくて、お礼なんだと思う」


 


少年は、しばらく黙っていた。


けれど――やがて、おそるおそる手を伸ばし、壊れた椅子にそっと触れた。


 


「……ありがとう。もう、大丈夫だよ」


 


その言葉とともに、椅子がふっと光に包まれて――


ゆっくりと、粒子になって空へ舞い上がっていった。


 


まるで、“許された”ように。


 


次々に、過去のモノたちが光に変わっていく。


少年の目元にかかっていた影が、ゆっくりと晴れていく。


 


「……ありがとう、迎えに来てくれて」


 


彼は、小さく笑った。


それは、まるで――

この洞窟の奥にずっとしまわれていた“寂しさ”そのものが、

ようやく誰かに見つけられた笑顔だった。


 


そして、最後に残ったのは――


小さな、古びた鍵だった。


 


私はそれを拾い上げ、胸に抱いた。


 


これはきっと、次の“封印”の扉を開く鍵。


 


 


私の旅は、まだ続く。


片付けとは、ただ整理することじゃない。


「想い」を見つけて、「ありがとう」と言って手放す――その繰り返し。


 


そうして私は、またひとつ、世界に溜まっていた“片付けられなかった想い”を、

光へと変えていったのだった。


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