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異世界でゴミ屋敷片付けます!  作者: ちょこだいふく


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13/21

13話

その家に行くことになったのは、診療所で小さな騒ぎを見かけたのがきっかけだった。


「足を痛めてるみたいだったんですけど、部屋が……その、物がすごくて動けない状態で……」


そう話したのは、街の診療所で働く若い女性だった。


彼女の話を聞いてみると、一人暮らしの男性が、部屋に物が溢れて身動きが取れない状態で怪我をしたらしい。しかも、彼の家は以前から「何かがおかしい」と噂されていたという。


「……もし、よければ行ってみてくれませんか?」


その頼みに、私は静かに頷いた。


 


ーーー


 


診療所の裏手、小さな坂をのぼった先に、その家はあった。


外から見れば、特に変わったところはない。ただ、扉の前に積まれた古い荷車や、カラカラに乾ききった植木鉢が、どこか時の止まったような空気を漂わせていた。


ノックをすると、何かを引きずるような音がして、数分後にようやく扉が開いた。


 


「……来てくれて……ありがとう……ご、ごめん…なさい……」


 


現れたのは、やせ細った中年の男性だった。


ひどく緊張した面持ちで、声にはわずかに吃音が混じってたどたどしかった。でも、その目は必死だった。


 


部屋の中に入ると、まるで“時間が押し寄せて積もった”ような空間だった。


床は見えず、腰の高さまで様々なもので埋め尽くされている。古びた布、折れた椅子、焦げついた鍋、色褪せた紙の束。どれも、埃をかぶり、そこにただ「存在している」。


けれど、彼はその一つひとつに、明確な記憶を持っていた。


 


「これ……母が、最後に、ぼくに作ってくれた、……お味噌汁…の……鍋で」


「これは……弟の…姿絵……喧嘩…して…それっきりだけど……でも、いちどだけ、“またな”って……言ってくれたんです」


 


モノではなく、思い出。


彼にとって、ここは“過去”そのものだった。


 


「……す、捨てることが…怖いんです。…忘れて……しまう気が…して。……裏切るみたいで。……だから、…今まで……誰にも言えなくて……」


 


うつむき、震える手を膝に置いて、彼は小さくこぼすように言った。


 


私は、そっと視線を巡らせた。


部屋のすみに、くしゃくしゃになった手紙が落ちていた。たぶん、誰かの書いたものだろう。


それを拾いながら、私はふと思い出していた。


 


(……こ◯まりさんが言ってたな。「ときめくか、ときめかないか」って)


(ときめき……この部屋には、思い出がありすぎて、もはやときめきも何もないのかもしれない)


けれど。


その上で、私は静かに彼に問いかけた。


 


「これは、今のあなたに……ときめきますか?」


 


彼は驚いたように私を見つめ、そして、少し困ったように笑った。


「……ときめき……は、よく、わかりません。でも……あの時の気持ちは、覚えてます。……やさしかったな、って」


 


私はそっと微笑んで、続けた。


 


「……なら、“ありがとう”って言って……手放してみませんか?」


 


彼の手が、ほんの少し震えた。


でもそのあとで、彼はゆっくりと頷いた。


 


「……うん。……ありがとうって、言ってみます……」


 


(◯シダさんだけじゃなくて、こ◯まりさんまで出てきた…なんなのよ… 。心のこ◯まり……)


 


内心でそんなツッコミを入れながら、私は彼と一緒に“思い出”に向き合っていった。


 


「これは……まだ、大事にしていたいです」


「それは……ありがとうって、言います。……手放せそう」


 


泣きながら、笑いながら。


彼は少しずつ、積み重なった“罪悪感”と“思い出”を、自分の中で分けていった。


 


その夜、月明かりが差し込んだ部屋の床が、ほんの少しだけ見えるようになった。


 


「……こんなに広かったんだ、この部屋……」と彼がつぶやいた時、私は確かに感じた。


 


過去を切り捨てたんじゃない。

思い出と一緒に、生きていくために、彼は「ありがとう」を選んだんだ。


 


それは――とても優しくて、勇気のあることだった。


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