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恋愛アドバイザーと弟と修羅場

まるで舞台劇のような破局劇が繰り広げられている真っ最中。

清楚系の彼女が泣きながら縋る一方、金髪の大学生らしき男性はひたすら冷静で、淡々と彼女の感情をいなしていた。


スマホが震える。颯真からのメッセージだった。


《どこにいるの?》


《今、友達とカフェにいる》


既読がついた瞬間、矢継ぎ早に連投されるメッセージ。


《いつ帰ってくるの?》

《ご飯は?》


疲れ切っていた私は《ごめんね、いらないよ》とだけ返した。

水分でお腹がいっぱいだし、目の前で繰り広げられる恋愛バトルにすでにぐったりしていた。


その後も颯真の追撃は続いた。


《何時に帰ってくるの?》

《誰といるの?》


正直、普段はこんな詮索めいたことを言わない弟が、なぜここまで必死なのか分からなかった。


《最近できた友達だよ》と答えれば、スタンプ一つ。

《ふーん(怪しんでる)》が返ってくる。


そして次に届いたLINEは、心臓に悪かった。


《でも、もう遅いから迎えに行く》


思わず「大丈夫だよ」と送ったが、すでに聞いてもらえない雰囲気が漂っている。


《僕が姉さんのことが心配なの》


かわいい涙目スタンプ付き。

だが、心配されていると分かっても、今この空間から離れる術がない。


「……あんた、さっきからなんなのよ!」


突如、ヒステリックな声が響いたかと思うと、びしゃりと冷たい水が私の頭上に落ちた。


「……え?」


固まる私。飲みかけのグラスからぶちまけられた水が髪と服を濡らし、瞬間的に鳥肌が立つ。

水量は少ない物の、中々の衝撃だった。

次の瞬間、椅子を引きずる音と共に金髪くんが立ち上がる。


「いい加減にしろ!俺の彼女に何してんだよ!」


「彼女?嘘でしょ?」と彼女がヒステリックに叫ぶ。


「こんな地味で化粧っけもない子が、隼人の彼女の訳がない!今までとタイプが全然違うじゃない。凡そ別れたいからとか言って付き合ってもらっている子なんでしょ!」


と完全にばれている。本当にごめんねと断りつつ、おしぼりで優しく濡れた箇所を金髪くんが拭いていく。


「嘘じゃねーよ。俺、一途で優しいこの子が好きなの。お前の様な浮気女はほんとに無理なわけ」


「は?浮気なんかしてないし!このこと付き合ってるなら隼人が浮気じゃん」


「同じサークルの牧田から報告来てるし、証拠の写真もきてるから」


画面のディスプレイには何とも生々しい、おそらく全裸の男女のツーショットの画面を見せつけた。

その剣幕に彼女は唇を噛み、赤くなった目で私を睨みつける。


「俺たちはもう他人だけど、今この場でやってるのはお前だけの芝居だ。巻き込まれたこの子に謝れよ」


次の瞬間、ガシャン!

マグカップがテーブルに叩きつけられ、派手に割れる音が店内に響いた。


そのまま、彼女は何も言わずに店を飛び出していった。

静まり返る店内。そこへマスターが駆け寄ってきた。


「お客様……大丈夫でしたか?」


「はい、すみません……」


金髪くんが深々と頭を下げた。


「すみません、弁償します。」


マスターは少し眉を下げ、申し訳なさそうに言った。


「一式で、カップや備品、清掃費含めて……そうですね、10万円ほどになりますね」


「うわ、まじか……」


金髪くんは天を仰いた。


「わかりました。後日、振込をさせてください」

とマスターに深々とお頭を下げた。

マスターは最初は迷惑そうに怒っていたが、彼の真摯な態度でほんの少し目元が優しくなった。


「実は、先ほどから様子を動画で撮影しておりまして、よろしければ共有しますよ」

「マジっすか。ありがとうございます!グループに拡散しますね」


と物腰の柔らかさとは対照的に、なんとも不穏なことを言っていた。

この件に関しては一件落着なのだろうか?


そのタイミングを見計らったかのように、私のスマホがまた震えた。

颯真からの着信だ。


「あっ……」


慌ててスマホを取ろうとするが、手が滑ってテーブルに落ちる。


「……俺が出とくよ」


「ちょ、ちょっと待っ——」


だが止める間もなく、金髪くんが通話ボタンを押してしまった。


「はい、もしもし〜」


『あ、薫さんって……誰ですか、あなたは』


低く、凍りつくような声だった。

大型犬のように可愛らしい颯真とは全く違う人物のように思えた。


「えっと、彼氏です。」……冗談です冗談。ごめんなさい、今ちょっとトラブルがあって……。大丈夫、大丈夫、ちゃんと無事ですから」


とあまりにもナチュラルにいうから、にらめば慌てたように直ぐに弁解をした。


『……どこですか』


「“ミルククラウンカフェ”ってとこ。駅の近くにある、あのレンガの建物の……」


『すぐ行きます』


ブツッ——。


電話は切れた。


「……怒ってる?」


「当然です……」


まだほんのり湿っているパーカーを私は脱いだ。

ホットタオルである程度拭いたが、完全には乾いていない。


「ごめんね……俺のせいで濡れちゃったし。」


「大丈夫です……颯真が来るので」


「うーん、でも申し訳ないしな。」


「じゃあ、約束は忘れずに覚えてくださいね!」


「モチモチ、これでも義理堅いから!」


数十分後、店のドアが勢いよく開いた。


「薫さん!!」


制服姿の颯真が立っていた。

目つきが鋭く、明らかに不機嫌オーラを発している。


「……迎えにきた」


「ごめんね、ありがとう」


「その……電話に出た人がすごく軽い人に聞こえて、心配だったから」


「違うよ、彼氏じゃないから。たまたま会って、ちょっとした相談を聞いてただけ。今後も会うかは分からないし……」


「……本当に?」


「うん」


「なら、いいけど……」


そう言いながらも、颯真はじとっとした視線を金髪くんに向けられる。


「ごめんね、弟さん。大切なお姉ちゃんを引き留めちゃって」


そう金髪くんが言えば、にらみつけて、そのまま私の手を引く。

マスターにお礼を言って店をでた。


その後、店を出るころには濡れた服もかなり乾いていた。

家に向かう帰り道、颯真は一言も喋らなかった。


それでも、玄関の前で一度だけ言った。


「あの人ともう会わないで」


その言葉に、私はただ「うん」とだけ頷いた。


夜、自室でスマホを開いた私は、連絡先リストに追加されたばかりの名前を見つめた。


《橘隼人》


——恋愛アドバイザーとの出会いは、思っていたよりも波乱の幕開けだった。

そして、その夜私はベッドの上で重要なことを思い出す。


橘隼人は、間違いなく攻略対象である。

ミルククラウンカフェのバイトの先輩だった。

しかし、黒髪だったはずで…大学生だもの。

韓国アイドルのように、髪型だって髪色だってコロコロ変わるはずだ。


知らないうちに、接触していたことに関して余計に感情がぐちゃぐちゃになった。

しかしながら、よき恋愛アドバイザーを得ることができたのは大きな収穫だったと自分を納得させて私は現実逃避でベッドに潜り込んだ。

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