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運命の人と再会

ようやくだ。ようやくこの日が来たんだ。


長い間、文通でしか繋がれなかった彼女に、ついに直接会える。

しかも、偶然にも隣町へ引っ越すことになり、ようやく現実が追いついた。

嗚呼、神様。奇跡をありがとうございます。


手術を終えた自分の姿を、スミレちゃんに見せたい。

元気な僕を見て、少しでも安心してほしかった。

そして――できるなら、あのとき渡せなかった“気持ち”も、届けたいと思っていた。


***

集合場所は、家と家のちょうど中間にある駅だった。

休日で賑わう改札前に立つと、胸が高鳴って止まらなかった。

すでに痛まないはずの心臓の手術痕を服の上からなでる。


スミレちゃんはどんな素敵な女の子になっているんだろう。

改札を出てあたりを見渡せば、直ぐにその子がスミレちゃんだってわかった。

たくさんの人混みの中、周囲を見渡して僕を探す彼女がどうしようもなく愛しく感じた。

スミレちゃんを見つけた瞬間、僕は抑えきれず手を振って駆け出していた。


「スミレちゃーん!」


声が裏返るほど興奮していた。

思えば、こんなふうに感情を爆発させるのは、本当に久しぶりだった。

少し驚いたような、でも柔らかい笑みが浮かぶ。


――変わらない、優しい目だ。

病室にいた時、唯一の話し相手になってくれたスミレちゃん。

変わらないでいてくれた、僕の大切な恩人。


「久しぶりだね!」


勢いのまま肩に手をかけたら、ちょっとだけたじろがれたけど、嫌がってはいない。

あ、よかった、と心から思った。


「僕、ずっとこの日を楽しみにしてたんだよ」


まわりの目なんか、気にしていなかった。

ただ、スミレちゃんと話せる。隣にいられる。それだけで、胸がいっぱいだった。

あの手紙は僕の妄想で、本当はスミレちゃんなんて存在していないんじゃないかって不安になった日もあった。

ああ、夢じゃない!スミレちゃんはいる!!


「スミレちゃんは? 僕に、会いたかった?」


覗き込むように聞けば、少しだけ顔を赤らめて、頷いてくれた。


「……私も、会いたかったよ」


その言葉がどれだけ嬉しかったか。

僕の世界が、ぱっと光で照らされたようだった。


映画は、スミレちゃんのお兄さんからもらったチケットで観た。


物語は切なくて、綺麗で、そして残酷だった。

愛し合いながらも結ばれない、王子と村娘。

運命によって引き裂かれることを選ばなければならなかった二人の結末は、

“永遠の別れ”ではなく、“永遠に続く二人きりの世界”。


……僕はその愛し合っていた二人の切れない呪の縁をひどく羨ましく思った。

彼らの世界は、二人の許されない恋愛関係を許さなかったが、

死後の世界まで二人は見えない絆でつながっていたのだ。


恋人同士はいつか破局してしまうけど、

血のつながりは切っても切り離せない。


スミレちゃんのお兄さんが羨ましい。

どちらが死んでも、ずっと家族なのだから。


思考の海に沈んでいると心配そうにスミレちゃんがこちらを見ていた。

僕はハッとして席から立ち上がり、スミレちゃんの手を引いて映画館の外へと向かった。


映画のあと、彼女に連れられて入った小さなカフェ。

温かくて落ち着いた空間に、少し気持ちがほぐれた。


食事中も、デザートのときも、僕はずっと彼女の言葉に救われていた。

内容なんて、当たり障りのないことばかり。

今日の天気の話だったり、さっき見た映画の感動したシーンだったり。


スミレちゃんは優しい。

スミレちゃんは僕を絶対に見捨てない。


食事がひと段落してから僕は話し出した。

今の自分のこと。家族のこと。過去のこと。

スミレちゃんには、全部、知ってほしかった。

そして、どんな感情でもいいから僕を見てほしい。


「……手を、握ってもらってもいいかな?」


震える指先を、彼女が包んでくれたとき、初めて安心して話し出せた。


手術のこと。

倒れたおばあちゃんのこと。

壊れていった家族のこと。

そして――そして両親の離婚の果てに、この場所に辿り着ついたこと。


僕はもう、大丈夫だと笑ったけど、本当は少しだけ怖かった。

スミレちゃんがどんな顔をしているのか。

また、置いていかれるんじゃないかって。


でも、彼女はちゃんと話を聞いてくれて、優しい目で僕を見てくれた。


「ごめん……こんな話して。でも、僕がここにいられるのは、スミレちゃんのおかげなんだ」


そう言って、首から下げていたネックレスをそっと見せた。

彼女からもらった、青い石。


僕の命をつなぎとめてくれた、大切な宝物。


「この石と、スミレちゃんの手紙だけが、僕の支えだったんだ。だから、また会えるって聞いたとき……嬉しくて仕方なかった」


想いを言葉にすると、自然と涙がこぼれてしまった。


「……僕、友達少なくて。これからも、もっと遊んでくれる?」


震える声で問いかけると、スミレちゃんは力強く頷いた。


「もちろんだよ」


その一言だけで、僕はまた明日を生きていける気がした。

この出会いは運命なんじゃないかな。


次回、大学生になった兄さんの話。

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