表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/93

大切な宝物との出会い

ママとパパは、いつもお仕事で忙しい。

ママはアナウンサーで、夕方のニュース番組に出てる。時計の短い針が6を指すと、テレビからママの声が聞こえる。

パパは舞台のお仕事。5月は地方公演で、なかなか帰ってこないんだって。


放課後、学童で遊んで帰ると、家には家政婦のミサトさんがいて、ごはんを作ってくれる。

給食もいいけど、本当はママとパパと、三人で一緒に食べたいな……って、いつも思う。


でも――ここ最近、そんな寂しさが、ちょっとだけど減ってきた。

だって、心がぽかぽかすることがあったから。


「最近、エリカちゃん、ご機嫌ね」

ミサトさんが、夕ごはんをテーブルに並べながら声をかけてくれた。


「えへへ、実はね、エリカ、お友達ができたの!」


私がうれしそうに報告すると、ミサトさんもふわっと笑ってくれた。

まるで、自分のことみたいに喜んでくれるその笑顔が、私はとても大好きだ。


「あのね、シラカワ スミレちゃんっていうの」


「どんな子なの?」


「転校生で、とっても頭が良くて、クールな子なの!

エリカでも分からない問題を先生に当てられても、すぐ答えちゃうの!」


「すごいわね~。賢くて素敵なお友達だね」


「うん!」

スミレちゃんを褒められると、なんだかくすぐったくて、うれしくて、にやけてしまう。

まるで、自分が褒められたみたいな気持ち。


「そうなの。他の子たちと違って、普通にお話してくれたんだよ」



入学式の日、ママと手をつないで学校に行ったとき、

クラスの子たちは、エリカのことをちょっと特別な目で見ていた。


「アナウンサーの子どもだよ」

「俳優のパパがいるんだって」


みんなが話しかけてくれるのは、ママやパパの話ばかり。

一緒にいても、まるで“ママとパパのこと”が好きなだけみたいで――

つまらなくて、私は話しかけられても無視するようになっちゃった。


……そしたら、今度はみんなの方が、私を無視するようになった。


トイレの個室で聞こえた声。

「わがまま」「お嬢様」「性格悪い」

全部、エリカのことを言っていた。


それから、学校が嫌いになった。



そんなある日――

転校生のスミレちゃんがやってきた。


自己紹介はとってもシンプルで、クラスメイトに囲まれても、クールなままだった。

私は気になっていたけれど、席が遠くてなかなか話しかけられなかった。


でも、その日の放課後、公園で一人でブランコに乗っているスミレちゃんを見かけた。

気づいたら、足が勝手に動いていて……声をかけていた。


「白井ちゃんだ!」


間違えた!って思ったけど、スミレちゃんはくすっと笑って、


「白川です」


って、優しく教えてくれた。

その笑顔が、嬉しくて、ちょっと泣きそうだった。


スミレちゃんは口数が少ないけど、ちゃんと私の話を聞いてくれる。

質問すると答えてくれるし、ときどき私にも聞いてくれる。


「好きな食べ物は?」

「好きなアニメは?」


私のこと、ちゃんと知ろうとしてくれるのが、うれしくてたまらなかった。



だけど――

その数日後、一緒に学童へ行こうって話していた時、

あの子たちが、スミレちゃんに変なことを言った。


「紅野さんのママはニュースキャスターで、パパは俳優なんだよ」

「エリカちゃんって、お嬢様ぶってるから、性格悪いんだよ」


下校中、二人で帰ってるときだった。

スミレちゃんの前で、わざとそんなことを言ってきた。

後ろにいた取り巻きの子たちも、くすくす笑っていた。


――やめてよ。


せっかく仲良くなれたのに。

友達になれたのに……!


私は怖くなって、スミレちゃんの反応が見れなくて、自分の上履きをじっと見つめていた。


でも、スミレちゃんは言った。


「そうなんだ。エリカちゃん、美人だもんね。

でも、エリカちゃんは……私にはとっても優しいよ」


「最初だけだよ! 私たちが友達になってあげるってば!」


「いらない。私は、エリカちゃんが好きだから」


――その言葉が、胸に突き刺さって、キュンキュンした。


ぼーっとしている私の手を引いて、スミレちゃんは私を家まで送ってくれた。

ふわふわして、ぼーっとして、

ミサトさんが夕食で作ってくれた大好きなミートソーススパゲティも、

チョコレートケーキも、ほとんど食べられなかった。


ミサトさんが「大丈夫?」って心配してくれたけど、

夜遅くに帰ってきたママにも、何も言えなかった。


ママにおやすみのキスも、ハグもせず、

私はベッドの中で、今日のことをずっと考えていた。



――初めて。

スミレちゃんが、私の名前を呼んでくれた。


――初めて。

「好き」って言ってくれた。


――初めて。

手をつないで歩いた。


その日から、スミレちゃんはエリカの《騎士様(ナイトサマ)》になった。

今度、もし誰かがスミレちゃんを傷つけるなら――

次は、私が守る番だ。


大好きな気持ちで、胸がいっぱいになって、

その夜はふわふわ幸せな気持ちのまま、夢の中へと落ちていった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ