第8話 『ラードルの最期』
「ようやく見つけたぞ。カレイド・スクリームと悪役令嬢」
ラードル・スクライン⋯⋯
「どうして貴族のあなたが冒険者みたいな格好を⋯⋯」
しかもボロボロ⋯⋯
「みたいじゃない。冒険者をやっているんだ!」
ラードル回想
カレイド・スクリームの首を取る。
オレ自らの提案だが、命令を出したフィリップ王子は我が甥ながら恐ろしい。
それは自ら“兄”を殺せと言っているようなものだ。
オレは兵を従えて、カレイドを匿っているという疑いがあるロロール領へ向かった。
情けない話だが、負傷した兵士たちの情報ではロロール領の市場でカレイドと戦闘になりあえなく返り討ち。
カレイドと子生意気な娘がロロール領主屋敷に入る姿が目撃されている。
しかも2人はそのまま屋敷に滞在しているとの情報だ。
経済的には豊かかもしれんが所詮は伯爵。軍事面では弱小貴族に過ぎん。
この兵の数で城門を包囲すれば、縮み上がって、カレイドと小娘を差し出すに違いない。
「聞こえるか! ロロールの兵よ! 今すぐカレイド・スクリームとお付きの娘を差し出せば手荒なマネはしない」
「やはり来たか」
⁉︎ 城壁のてっぺんに人影?
アレはロロール伯爵か。
「アームストロング砲。展開」
「「ハッ」」
ロロール兵たちがロロール伯爵の指示で何かを運んでくる。
アレは大筒?
⁉︎ マズイ!
「全員、退け、退け!」
「放てッー!」
大筒から飛び出した砲弾が我が軍のすぐ傍に落ちた。
砲弾が弾けると強い光と熱、轟音が襲いかかる。
音に驚いた馬は暴れ、振り落とされる兵士たちに爆風に吹き飛ばされる兵士も。
「放てーッ!」
第二射が兵士たちの心を折る。
2千は集めた兵士たちが散り散りになる。
城壁のロロール伯爵が悪魔に見える。
「ロロール領を火の海にするはずだった大砲が彼女のおかげでこの領地を守るものになるとは感謝せねば」
オレはいったん屋敷に戻った。
想定外のことが起きたのだ作戦の練り直しだ。
「クソッ。弱小貴族がなぜあのような強力兵器を⋯⋯」
季節外れの寒さからか暖炉の前で震えていると長年仕えている執事のセバスがやってくる。
「ラードル様」
「可用なときになんだ!オレが寒さで震えているんだ。早く湯の用意を」
「これはこれは相当、怖い目にあったようで」
「なんのことだ! 風邪かもしれん。薬の用意も」
「これからもっと寒い思いをするのにもうお薬ですか?」
「どういうことだ。セバス!」
「請求書が届いております」
セバスは大量の便箋を手渡してくる。
「な、なんなんだこの額は⁉︎」
「どうやらドライグ様周辺に生き残りの方がいらしたんでしょう。スクライン家の小切手を使ってあちこち買い物をしているようですな」
武器屋の請求書もある。まさかロロールのあの兵器⋯⋯やられたあの小娘だ。
「知らん知らんこんな請求書。暖炉の薪にしてくれる」
「支払わなければ公爵家の名折れですよ。今度の当主は証も2つしかなければ器も小さいと」
「ぐぬぬ⋯⋯」
本気を出せば兵など何万とかき集められる。しかし、それには金が⋯⋯
「よい手はないか。セバス」
「それでは冒険者をはじめてみてはいかがですか?」
「貴様は何を言っているんだ? 没落貴族ではあるまい。どうして公爵のオレが冒険者をしなければならないんだ」
「似たようなものです」
「なんだとッ! あまり妙なことをいうと暇を与えるぞ」
「それはありがたき幸せ」
悔しいがセバスの言うことは理にかなっていた。
カレイド・スクリームは流浪の剣士。
兵を大挙と引き連れて探せば、他の領主たちから侵略だと怒りをかう。
冒険者なら手形不要で自由に領地を行き来できる。
カレイドも同じ手を使って流浪の旅をしているに違いない。
冒険者ギルドの系列を辿っていけばカレイド・スクリームにもたどり着けるはず。
幸いなことに領内にある冒険者ギルドは系列が広いことで有名で、王都に本部がある。
オレはカレイドと小娘が通りそうなルートから周れる支部の位置を把握。
やはり条件に合致する冒険者ギルドはここだ。
さっそく、大金を積んで冒険者登録をしてやった。
「はじめてのご登録ということで、Fランクからのスタートになります」
このオレがFランクだと? この受付嬢はどういう目をしているんだ。
「Sランクだ」
「はぁ?」
「このオレを誰だと思っている公爵にしてスクライン領の当主。ラードル・スクラインなるぞ。
殺人剣“剣神一刀流”免許皆伝のオレにはSランクこそふさわしい」
「ですがクエストを順々にこなしてAランク以上のモンスター討伐してから出ないとSランクを与えられません」
「それは並の冒険者の場合だろ。このオレを誰だと思っている。公爵にしてーー」
などと押し問答を3時間続けているとギルドマスターから特別だとSランクを与えてくれた。
はじめからこうしていればいい。そもそも特別なことではない。あたりまえのことだ。
オレはさっそくSランク冒険者パーティーに所属した。
リーダーの男に魔術師の女、槍使いの男、ヒーラーの女がメンバーだ。
「おっさんッ!何やってんだ。なんでホーンラビット1匹斬れないんだ」
「こやつすばしっこいぞ!剣が当たるわけながない」
「Sランク冒険者だろ。朝飯の食材ぐらい一撃で仕留めてくれよ!」
「オレを誰だと思っている。Sランクにしてーー」
「なんでこのおっさん新入りなのにこんなに偉そうなんだ!」
ダンジョンのボスモンスターAランク級と対峙したときもそうだ。
大型の棍棒を手に牛のような頭部をもつ巨大モンスター。
鼻息荒く、オレたちに巨大な棍棒を振り下ろしてくる。
メンバー各方に散って、リーダーがモンスターを引きつける。
槍使いの男が死角から攻撃。
リーダーがオレに指示を出す。
「ラードルさん。今です攻撃をしてください!」
「なんでこのオレがこんな恐ろしいモンスターなんかと戦わなければいけないんだ」
「冒険者だからでしょ。連携が崩れる!」
「ファイヤーショット!」
魔術師の女がモンスターの目玉をやった。
「オレの狙い通りではないか」
オレは何度も頷く。
「ウソをつけ!」
すぐさま槍使いの男がツッコミを入れてくる。
「ラードルさん。今です」
「いやだからこわいだろ! やるならお前たちがやれ」
「だから連携が崩れるんだよ。はやくしろおっさん」
この槍使い方の男は槍だけではなくオレに逐一ツッコミも入れてくるのでうっとおしい。
「オレは誰だと思っているSランクにしてーー」
討伐は失敗した。
クエスト失敗はこのパーティーとしてははじめてのことだったようだ。
落ち込むパーティーメンバーにこう言ってやった。
「よかったではないか。苦い経験は成功体験より大きな経験値を得る」
その日の夜。オレは宿屋でリーダーが止まっている部屋に呼び出される。
部屋には驚いたことにパーティーメンバー全員が集結していた。
「ラードルさん。あんたに折り入って大事な話がある」
「なんだオレの家来になりたいという話か。貴様の剣の腕なら飯抱えてやってもオレは構わない。
なんならここにいる全員雇ってやってもいい。槍使いもヒーラーも前線なら活躍できるはずだ」
おいしい話を持ってきてやっているのになぜ皆、このオレに冷たい目線を向けるのだ。
「ラードルさん。あんたをこのパーティーから“追放”する」
「追放?」
我が耳を疑った。
「追放てまさかこのオレをか。Sランクにして公爵のーー」
***
「それからひとりホーンラビットを討伐する毎日だ」
対人戦闘で強さを発揮したラードルも対モンスター戦では勝手が効かず苦戦したか。
するとラードルは右手の人差し指を一本突き立てた。
「この数字がなにかわかるか。カレイド」
もちろん。カレイド様と私の頭には“?”しか浮かばない。
「オレがこの3日で討伐したホーンラビットの数だ」
これは⋯⋯相当なポンコツだ。
同じパーティーメンバーの気苦労が絶えないのがわかる。
これは追放したくなる。
「どうだ? すごいだろ貴様には出来まい。あのすばしっこいうさぎを斬るなんて」
するとカレイド様は指で数字の3を示した。
「この数字は俺が今朝、討伐したホーンラビットの数だ」
朝、解体ショーを見せられたの思い出した。
オェー。
それにしても血が繋がっているだけあって似たもの同士だ。
「カレイド・スクリーム。その首もらい受ける」
「簡単ではないぞ」
カレイドとラードルは鍔迫り合う。
一瞬すぎて鞘から剣を抜いた瞬間が見えなかった。
ラードルは冒険者ではポンコツでも“グリューゼル戦記”の中ボス。
対人戦闘じゃめちゃくちゃ強い。
プレイ中、3回は殺された。
「剣神一刀流“ウルフスラッシュ“」
やっぱり技名がダサい。
「スクリーム流”ドラゴンクラッシャー“」
2人の剣筋が速すぎてどっちが優勢か全くわからない。
ラードルは地面の砂を掴んでカレイド様に投げつける。
「ウッ」
目潰しなんて卑怯だ。
「いまだくたばれぇ!」
ラードルがカレイド様の間合いに入った瞬間、狙いすましたかのように目を瞑ったまま回転。
カレイド様の剣がラードルの肩を切り裂く。
「うわあ」
「その腕じゃもう剣は握れない」
「目を潰したはずなのになぜわかった」
「あなたの動きは音でわかる」
「くっ⋯⋯」
たぶん衣服の擦れる音や風切り音を感じ取ったってことだろうけど、レベルが高すぎて2人の世界に入っていけないわ。
「オレを殺せ」
「できない⋯⋯」
「情けか」
「まだわからないの。この決闘はフィリップ王子の罠よ。邪魔な政敵を抹殺するね」
「なんだと⁉︎」
「あんたがフィリップ王子にカレイド様の首を差し出せば、ルーク王子殺しとして処刑。逆にカレイド様があなたを討てば
公爵殺しとして処刑する算段よ。甥っ子に見事やられたわね」
「まさか⋯⋯」
「フィリップ王子にしたらルーク王子だけじゃなくてあなたも邪魔だったのよ」
ここは攻略記事で履修済み。
「そうであったか。だからかフィリップにしたらスクライン家そのものが邪魔だったのか」
「そういことね。さてこれからあなたはどうするつもり? これからも私とカレイド様の命を狙う?」
「いや⋯⋯冒険者になって身の程を知った。出家する。これまで奪った命に償いたい」
「大切なことね」
「ヴィンス・セオドリックには気をつけろ。この先、奴と対峙することになる。
あいつは曲者だ。今の王宮を牛耳っているのはあの男だ」
ヴィンス・セオドリック。
フィリップの参謀ポジションの男。現代でいうところの官房長官のような存在。
攻略記事でもルートによってはラスボスとして立ちはだかる。
知恵だけじゃなくて武勇にも優れた男。
そんな男をどうやって攻略すべきかーー
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