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第7話 『スローデート』

見渡す限り田んぼと畑ばかりの農道。


見上げた青空に向かって深呼吸すると空気がおいしい。


まさかこんなスローライフな空間を“グリューゼル戦記”の世界で過ごせるなんて夢のよう。


それにカレイド様と2人きり。完全にデートよね。


周りからは私たちどう見られてるのかしら。


お似合いのカップル。それとも夫婦。


「どうした? さっきからひとりでクネクネして」


「いや、なんでもないですわ」


はぁ、この農道、人ひとり通らないから私たちのこと見かける人なんていないわ。


ましてや私の奇行も。


ラードル兵を撹乱するため、王都への最短ルートじゃなくて迂回路ですもの。


人目につかないど田舎あえて選んでいますのよね。


「街が見えてきたぞ」


湖が望める小さな街“モニク” 人は約2万人。歴史のある大聖堂が街のシンボルになっている。


カレイド様の話だと静かで穏やかな街だそうだからゆっくりできそうね。


せっかくのスローな旅だしカレイド様とのデート気分を満喫するぞ。


***


「冒険者登録するぞクラウダ」


は?


冒険者ギルドの受付嬢が『いらっしゃいませ』とニコニコ接客してくる。


ここは街の中心部にある冒険者ギルド。


カレイド様はまっすぐにこの屈強な男たちがわんさかといるこの施設に入っていった。


「どういうことですか? カレイド様。私のスローな旅は? 私たちのデートは?」


「何を言っているんだ?」


「これからダンジョンに潜って命懸けのレベル上げなんですよね?」


「だから何を言っているんだ。落ち着け」


「落ち着いてなんかいられないですわ!」


「この先、王都に入るのに通行手形がいる。王都に本部がある“モニク”の冒険者ギルドで冒険者登録しておけば手形は不要だ。ここで冒険者登録しておく方が手っ取り早い」


「なるほど」


城門の検問でもたついていたら最低1日は拘束されて、その間ラードル兵に見つかるリスクがある。


さすがカレイド様。


冒険者登録は銀貨1枚を支払い、約1時間ほどで手続きが完了した。


「クラウダ、せっかく冒険者になったんだからなにかクエストをやってみるか?」


「絶対お断りです」


「そうか⋯⋯」


「そんなすごく残念そうな顔をしないでください。しかもちゃっかり高レベルモンスター討伐の貼り紙取らない!」


カレイド様の戦闘狂にも困ったものですわ。


「だいいち私、武器持ってないですわ」


「そうか」


「本当は指輪のひとつやふたつほしいところですけど護身用の武器が1本あってもいいですわね」


「それもそうだな。武器屋を周ろう」


そう言うとカレイド様は私の手を引っ張って冒険者ギルドを出る。


向かいにある武器屋に入るとまるで子供のように瞳を輝かせながら武器を選んでくれた。


重さや長さ、私の身長や体型に合わせてひとつひとつ吟味する。


こんな楽しそうな顔をするカレイド様の顔ははじめてだ。


なんやかんだ1時間かけて選んでくれたのはレイピアだった。


「しっくりきます。カレイド様」


「そうかそうか。俺が選んだだけあるよな」


まぁ、金額にはびっくりしましたけど。


支払いはラードル・スクラインだから別にかまわないけど。


「カレイド様ありがとうございます」


一応、お礼。


「じゃあ、ダンジョンに行こう」


「行きません」


露骨にしょんぼりしないでくださいよ」


「私、行きたいところがあるんです」


「は?」


前世のときは神社仏閣巡りが好きだった。


だから街のシンボルとなっている大聖堂を司教様に頼んで見学させてもらった。


司教様の話だと築300年になる歴史ある建物のようだ。


内装や作りはゲーム製作者が私のいた世界で有名な建築物を参考に作ってあるようだ。


こんなアンティークな手すりたまんないなぁ。


この流線型のデザインに彫り込み、手触りが気持ちいい。


さっきからカレイド様がつまらなそうな顔しながら私を変な生き物を見る目で見てくる。


は⁉︎ それはさっきの私と一緒か。


「カレイド様、食事に行きましょうか」


「ダンジョン⋯⋯」


「どんなおいしい料理がこの街にあるかなー」


「自分で討伐したホーンラビットの丸焼きは絶対おいしい」


「絶対嫌です」


***

湖のほとりに立つコテージがレストランになっている。


注文スタイルは私のいた世界と変わらない。


メニュー表から食べたいものをウェイトレスさんに注文する。


私とカレイド様はオムライスを注文した。


チキンライスの上に焼き卵が乗った高級タイプ。


ナイフを使って真ん中に筋を入れるととろーり半熟卵。


とてもおいしそう。


トマトケチャップをかけてから一口目。


「うーん。おいしい」


「ずいぶん幸せそうに食べるんだな」


「何を言っているのですわ。ご飯を食べるときが1番の幸せですの」


「そうなのか⋯⋯」


カレイド様はやはりルーク王子なだけあってテーブルマナーがしっかりしている。


そのせいか見ているこっちは食事をつまらなそうにしているように見える。


これが育ちの差か。


「どうカレイド様、おいしいでしょ」


「感想は料理を作ったシェフに述べるものだ。先ほどのウェイトレスにシェフをここへと伝えてくれ」


「今日はやめて」


***

私たちは高台に登って丘の上から湖を見下ろす。


太陽の光が反射して湖面がキラキラ輝いて見える。


「なんてきれいなの」


「たしかにな。ところでクラウダ。貴様はさっきから何をしているんだ。建物を見て、ご飯を食べて、景色を見て」


そうか、この世界の人たちには観光という概念がないんだ。


「観光よ」


「観光?」


「その土地の建物や景色ってね。その街にとって大事な資源になるの。私たちがここに来て体験したことを

他の領地の人たちも体験したらどうなると思う?」


「どうなるんだ?」


「お金をその土地に落とすのよ。そうするとその領地は潤う。だからその領地でしか見れない景色やそこでしか食べれない食べ物もその領地を豊かにするための立派な武器なのよ。だから私は手形なんてやめてどの土地の領民が観光で行き来できるそんな領地経営をしたいですわ」


「なるほど。クラウダの目指したい王国の形がわかったような気がする」


***


“モニク”でのスローなデートを終えて次の街へ。


山道に差し掛かる街道をカレイド様と歩いていると目の間には見慣れた男の姿。


「ようやく見つけたぞ。カレイド・スクリームと悪役令嬢」


ラードル・スクライン⋯⋯


にしてもボロボロな姿ね。












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