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第6話『討伐』

マルク視点


僕は逃げるように走る。


どうしていつも肝心なときにこの手を伸ばせないんだろう。


ナタリーが手を伸ばしたときも⋯⋯


彼女が男に連れ去られたときも⋯⋯


どうしていつも彼女の手を掴んで抱きしめる勇気が出ないんだ。


この川を越える勇気が僕にあれば。


僕はこの川に沿って歩くことしかできない人生なのか。


見えてきた上流の小屋からは父上とナタリーの父親が言い争う声。


もうたくさんだ。こんな親たちのためにナタリーと一緒にいられないなんて。もうーー


***


クラウダ視点


「父さん! ナタリーが盗賊に拐われた。急いで兵を出してくれ!」


「なんだとッ! ナタリーってうちの娘か?」


「そうですよ。こんなところでくだらない言い争いしている場合じゃないんですよ」


よく言った!


「だったらここから先はこの悪役令嬢クラウダ・カーシュリーに任せなせなさい」


「悪役令嬢? なんだそいつは」


「この場を統べるものよ」


「なんでもありだな。悪役令嬢」


「うっ」


最近、カレイド様のツッコミが鋭くなっているような⋯⋯


「とにかく私の用心棒はスクリーム流の剣士。彼がいるからにはもう安心よ」


『おおーッ!』と、ギャラリーの行商人からは歓声が沸く。


「スクリーム⁉︎ どこかで聞いたことがあるような気がするけど。俺はガルザ・コンラッドよろしくな!」


こいつ本当に脳筋だなーチョロイわ。


「俺はこいつらについてくぜ。あんたらどうするよ。こんなとき上も下も関係ないだろ。みんな仲間だ」


何このヒーローみたいなまぶしい笑顔。なんでフィリップ王子がガルザをよこしたのかわかった気がする。


「娘の命がかかっている我がモーリスはジルベールに従う」


「エルフの民だってそうだ。人命を前に境界線や人種は関係ない一緒に戦おう!」


「おっしゃー! 腕がなるぜ。お前たち俺の武器を持って来てくれ」


ガルザが家来に命じると兵士2人がかりで巨大な斧を持ってくる。


それをガルザは片手で持ち上げて頭の上でぐるぐると回してみせた。


ガルザ登場までプレイできなかったけどガルザ・コンラッドって敵として対峙していたらヤバいキャラクターだったかも。


「肩慣らしは済んだ。さぁ行こうぜスクリーム流の剣士さん」


「カレイドでかまわん」


「じゃあ俺もガルザでいいぜ」


「ヤツらの潜伏先は我が部族の村だ。人数は100人近くいる」


「よっしゃー先行するぜ」


「待ってください!我が方の兵の準備が」


「モーリスもだ」


「あんたたちは宿場町に向かいな。奴らはモーリスとジルベールが言い争いをして兵が出せないのを狙ってこの作戦を実行している。

奴らが行商人を襲撃するとしたら今夜。もう馬車の方に向かっているかもしれない。だから意表をつくんだ」


「わかりましたガルザ様!」


ジルベール男爵は敬礼でガルザに敬意を払う。


「もたもたしているなら置いていくぞ。ガルザ」


「待ってくれカレイド」


ライバル同士の共闘かっこいい。


「私も連れてってください。カレイド様」


「危険だぞ」


(わたくし)を置いていく方が危険だとわからないカレイド様じゃなくて」


カレイド様はだるそうな表情をしたものの黙って私をお姫様抱っこ。そのまま高くジャンプしてみせた。


「おい待ってくれよ」


ガルザも大型の斧を持っているのに高くジャンプして私とカレイド様を追ってくる。


ゲームのキャラクターとはいえすごい身体能力。


しかもガルザはもう追いついてきた。


「抜け駆けは許さないぜ。カレイド」


「⋯⋯」


カレイド様、その表情は何?


どうして私をジーッと見つめるの⁉︎


「ハッ!私とあの斧が同じ重さなわけないでしょ!」


木々を伝って飛び越えていくと開けた場所が見えてきた。


あれがエルフの村か。


松明を持った悪い顔したヤツらが何人もウロウロしている。


私たちは村を見下ろせる高台のところで身を潜める。


「カレイド様、味方が追いつくまでここで作戦を練りましょう」


「とにかく突っ込む」


「カレイド様たちが早すぎて味方のエルフが遅れてきています。

ここは味方が来るのを待ちましょう」


「いいや。カレイドの言う通りだぜ。ここは突っ込む」


ちょっと脳筋!乗っかるんじゃないよ!


「いくぞ」


「いくぜ」


息ぴったりに飛び出すカレイド様とガルザ。


あっという間に敵陣に乗り込んで盗賊たちに斬りかかる。


「スクリーム流”ドラゴンスラッシュ“』


カレイド様の鮮やかな剣戟。一太刀で5人を切り裂いた。


技名はダサいけど。


「オラオラオラオラ」


ガルザは斧を手に駒のように回転する人間離れした攻撃で盗賊たちを切り倒してく。


この騒ぎにワラワラと出てきた盗賊たちにあっという間に囲まれてしまう。


だけど背中を預け合うカレイド様とガルザは無敵だ。


本来のシナリオだとモーリス男爵とジルベール男爵を味方にして戦う。


何気にあの2人はプレイアブルキャラだ。


”グリューゼル戦記“のシナリオ崩壊が思わぬ最強コンビを生んだ。


「スクリーム流”ドラゴンファング“」


エルフのオディロン族長たちが到着する頃にはカレイド様によって盗賊の頭目の首が胴体から切り離されていた。


「族長、人質は解放しましわよ」


「ありがとう。悪役令嬢だったかな」


「悪役令嬢クラウダ・カーシュリーですわ。以後、お見知り置きを」


「ああ。覚えておくよ」


『ナタリーッ!』


『ナタリーどこだー!』


族長と一緒にやってきたマルクがナタリーの名前を叫びながら彼女の姿を懸命に探している。


「ナタリー!ナタリーはどこですか?」


彼はすがるような勢いで私の前にひざまずく。


「彼女だったらいつものところよ」


「は?」


朝日が森の中を照らすころマルクとナタリーは川を挟んで見つめあっていた。


「ナタリー」


意を決した丸くは彼女の手をとって抱きしめると同時に川を越える。


「ようやく君に触れることができた」


「マルク、私もよ」


2人は私たちが見守る中、熱い口付けを交わす。


「モーリス男爵、娘さんとの結婚を認めてください。父上も。もう見苦しい争いはやめましょう!」


「息子にここまで言われてしまっては仕方ない」


そう言ってジルベール男爵はモーリス男爵と固い握手を結んだ。


「橋はジルベールで修理しよう」


「いいや。モーリスで修理しよう」


「いいやジルベールで」


「いやモーリスだ」


見かねたナタリーが諌める。


「お父さん、言っている側からケンカしないで」


やれやれ。これは悪役令嬢がなんとかしないとね。


「スクライン家の小切手!」


小切手を高らかに掲げると手際よく金額を記入する。


「ガルザ様、これで王都イチの職人を呼んでください。ドワーフならこんな橋、1日で治せるはずですわ」


「愛か。これがフィリップが言っていた金ではない解決策か」


⁉︎ さらりと手柄を横取りされた。


こいつただの脳筋と思ったが本当は策士か?


2日後ーー


王都からやってきたドワーフの職人のおかげで橋が復旧した。


そして私は知り合った行商人の青年に手紙を渡す。


ちょうどキャロルのふるさとに行くという。


「あの手紙はなんなんだ」


「キャロル様の婚約者だった男性に宛てた手紙です。

“前を向いて”それをキャロルは望んでいると⋯⋯」


今日の空はとても青くてきれいだ。


次の街もまたどんな出会いがあるだろうか。

















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