第4話『集結』
ユーグ子爵は政変後の王宮の様子を私たちに教えてくれた。
「杖が⋯⋯我がスクライン家の家宝が⋯⋯」
ラードル・スクラインは円卓の席で折れた杖を手に悲嘆にくれていた。
そこに翻る紅マント、華麗な靴音を鳴らしながら、煌びやかな金の装飾に白を基調とした軍服に身を包んだ碧眼、金髪ショートの青年が現れる。
「叔父上、3種の公爵の証を継承できなかったというのは本当の様ですね」
「フィリップ殿下⋯⋯」
「3代前のスクライン家当主ドララール4世はスクライン家をまとめきれず2種の公爵の証しか継承できなかった。
彼は暗君として当家に伝えられています。そのことは叔父上もよくご存知なのでは」
「待ってくれ! 早計だ。力技だったが新たな当主として俺はスクライン家をまとめた」
「まとめきれていなかったから杖は折れた」
「悪役令嬢とかいう訳のわからない女にやられた」
「悪役? とにかく他の仲間たちは血を一滴も流さずに鮮やかにクーデターを成し遂げましたよ」
ユーグ子爵の話ではドライグ内務卿派貴族の大臣室に武装して乗り込み、辞表を書かせ追い出すクーデターを実行したようだ。
しかし、ラードル・スクラインは単独暴走。屋敷を襲撃して内務卿やその家族の命まで奪った。
「叔父上、いい機会だ。約束していた内務卿の座はしばらく空位とします」
「空位⁉︎ 馬鹿な。内務卿をおかずにどうやって王国の政をするつもりだ」
「僕の考えた新しい政治をします。学生時代から気脈が通じた仲間たちと」
フィリップ王子がドアの方に視線を送ると、赤色の短髪に筋肉粒々の活発そうな青年ガルザ・コンラッドが「やってるか?」と、入ってくる。
つづけて肩まで伸びた紫髪に右目にはモノクル。いかにも知恵者といういでたちのヴィンス・セオドリック。
そしてユーグ・セザール子爵のイケ4メンバーにその後から若手の貴族が7人が入ってくる。
「ここにいる12人の合議制で王国の政を動かしていく」
「無茶だ。フィリップ、悪いことは言わないこんなやり方がうまくいくわけがない。考え直せ」
「僕に意見ですか。まぁ合議制ですのでかまいませんが。ならば叔父上にはよいお考えがあるのですか?」
「俺が何か手柄を立てます。そのときフィリップ殿下から新たな杖を褒美として賜れば。それは新たな家宝。公爵家の証。
これで私もれっきとした当主として胸がはれる。さすれば内務卿を仰せつかるにふさわしい人物としてフィリップ殿下の前に名乗り出ることができます」
「へぇ、僕が新しい杖をやるにふさわしい手柄とは?」
「そ、そうだ。悪役令嬢とかいう女をスクリーム流の剣士が守っていた。名はカレイド・スクリーム。その剣士の首を持ってきます」
「⁉︎ (スクリーム⋯⋯)」
フィリップ王子がスクリームという名に反応するとヴィンスがすかさずフィリップ王子に耳打ちする。
「わかってるよ。さすがヴィンスだね。では叔父上、その剣士の首を持ってきてくれ」
などとのやりとりがあり、ユーグ子爵はラードル・スクラインが今も私たちの行方を追っていることを教えてくれた。
「ユーグ様は良かったのですか。フィリップ王子を裏切るマネをして。せっかく合議制のメンバーなのに」
「私はフィリップ王子の承諾なしの行動だ。その計画が失敗したんだ。もう戻れまい。功を焦りすぎたんだ」
「どうしてそこまで功を急いだんですか」
「男爵ニコラ・ラピィの存在だ」
「ニコラーー」
私はその名前にとてつもない怒りがマグマのように吹き出してきた。
「ニ”ィ“コ”ォ“ラ”ァ」
「ど、どうした⁉︎ 全身が振動してるぞ」
「こいつはときどきこうなる」と、カレイド様はすかさず私の両肩を抑えつけた。
「取り乱しました。そのニコラ・ラピィがどうかされたんですか?」
「フィリップは爵位問わず優秀な人材ならだれでも登用すると決め、12人の1人にニコラを加えた。
男爵ながら私より広大な領地を持つ彼に肩を並べられて焦ったのだ。計画が失敗して君に気付かされた。
フィリップは爵位の高さや領地の大きい、小さいで人を見ていない。そんな主人の考えを見抜けなかったんだ。
そばにいる資格はない」
まさか私が悪役令嬢を名乗ることで“グリューゼル戦記”に名前しか出てこないキャラが大出世するなんて。
このシナリオ崩壊は誤算だった。
私がこの先の展開を思案しているところにロロール伯爵が投げかける。
「クラウダ様とカレイド様はこれからいかようになさるおつもりですか? ここに止まるならラードル・スクラインと戦を構える支度をしますぞ」
「それはいけません。こんな大きな市場がある豊かな街を戦場にするわけにはいかないので」
「では?」
「“ぶん殴ります”」
「「「は?」」」
「王都に行ってニコラ・ラピィをぶん殴ってやりますわ」
「クラウダ様、ニコラ・ラピィに関しては私の逆恨みだ。クラウダ様がそこまでする必要は⋯⋯」
「あります!あの男は抜け目のない非道な男。放っておくわけにはいきません」
この私を婚約破棄して捨てておきながらあろうことか妹と結婚するなんて⋯⋯
「クズヤロウッ!」
「クラウダ様にここまで言わせるとは。やはりフィリップの真贋は本物。ニコラ・ラピィ、それほどまでに恐ろしい男だったとは」
ニコラ・ラピィについて思わぬ誤解が生じはじめたときカレイド様が口を開く。
「ラードルのことはルーク王子に掛け合ってみるってのはどうだ。彼ならフィリップとラードルの暴走を止められる」
カレイド様の発言に思わず私は手で口を覆った。
カレイド様、それってつまり⋯⋯
「いくぞ。クラウダ」
瞳をうるうる輝かせている私に目もくれずに横切るなんて。カレイド様、なんてカッコイイの。
そんなカレイド様をロロール伯爵が急に立ち上がり呼び止める。
「カレイド様ッ!」
「ん?」
「いや、ジーク王子。ご武運を」
目と目で何かが通じ合った2人。
カレイド様が「フッ」と、笑うとそのまま部屋をあとにする。
こうしてロロール伯爵、ユーグ子爵夫妻に見送られながら屋敷をあとにした私とカレイド様は、徒歩で王都につながる街道を進む。
歩き出してから半日が経過、街道も次第に山道となり森の中を進む。
予定より2時間早いペースで宿に到着しそうだと安心したのも束の間、目の前には馬車が立ち往生して長い渋滞の列を作っている光景が広がっていた。
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